第5話
:
翌朝、家の主人ティンと一緒に中国の国境を目指した。
昨日とは違うルートである。
ちょっと山道を通るが40分以上早く着くという。ティンは3ヶ月に一度は
中国側へ行くらしい。買い物などベトナムより便利なのだそうだ。
1時間半で国境を越えた。チワン自治区はかなり大きな街である。車も結構走っている。
ティンが近くに居た現地の人に何か話しかけている。戻ってきてティエンに話しかけた。
「ぢるさん、ここからはタクシーを使いましょう。自治区の中心まで行けば何とか
なりそうです」
ぢるは始めて見る中国の風景に少し驚いていた。テレビなどで観るのとは少し
違うような気がする。とにかく道幅が広い。人が少なく見えるほど広い。
ティンにタクシーをひろってもらい目的地を説明してもらった。
自治区中心部に行けばベトナム語も通じるらしい。ティンとはそこで別れる事にした。
ぢるは心から感謝を伝え、涙をぬぐいながらタクシーに乗り目的地を目指した。
都市部までは約1時間の道程である。
タクシーの運転手がなにやら話しかけてくるがぢるは勿論、ティエンも困った顔を
している。
「英語でも通じれば良いんですけどね・・・」ティエンが苦笑した。
ぢるは少し眠くなり、そのうち軽い寝息をたてていた。
「着きましたよぢるさん」ティエンの声で目が覚め周りを見渡した。
自治区中心部は想像以上に大きな街である。
車を降りた二人は銀行へ向かった。この辺りは両国の貿易が盛んだ。
当然両替が必要で、銀行には両国語を話せる者がいる。
中国銀行と書かれた建物に近づくと、思ったとおり道端にベトナム人ブローカー
らしき女性たちが座っていた。
「ぢるさん、彼女たちに通訳を探してもらいます。ちょっと待っててください。」
そう言うとティエンは小太りの女性に近づいていった。暫くして女性と戻ってきて
ぢるに話かけた。
「ぢるさん、この人が今日一日通訳をしてくれるそうです。リーさんって言います。」
リーはぢるが日本人だと知ると、ティエンにぢるのことをいろいろ聞いていた。
なんでも以前日本人と付き合ってたらしく、少し日本語が話せるという。
「あなた恋人きっと見つかる。私助けるよ」リーがぢるに言った。
ぢるはまた心が熱くなるのを感じていた。
3人はまずタクシー会社を訪ね、あの日ヤンモー湖方面からの客があったかなど
いろいろ尋ねてみた。
チワン自治区にタクシー会社はここだけである。半国営でドライバーの中には
軍人も居るそうだ。
ベトナムの大地震の日、ヤンモー湖から長距離を利用した客の資料が出てきた。
ただ不思議な事にドンシン市には来ず途中の村で降りたという。
「ぢるさん、僕達は大変な思い違いをしていたのかもしれません」
ティエンが言った。
「どういうこと?」ティエンの少し困ったような顔に不安になり、ぢるはわけが
解らず問いかけた。
「つまり、山田さんたちは被災して逃げたのではなく、ひょっとするとある目的で
中国側に来ていた可能性が・・・」
「それなら、なぜ会社に連絡しないの?・・・・だって・・」
「貴女には言いますが・・実は山田さんはこちらで別の仕事もしているのです。
それは・・・自分の会社です」
「そんな話一度も聞いたことないです。・・・・どうして私にまで隠して・・」
「それは解りませんが、私は山田さんに誘われていますので。この話は中川商事の
人間には絶対言わないでください!」
ティエンはその経緯をぢるに話した。詳細はこうである。
山田はベトナムが気に入っており、できればこちらに住みたいらしい。
そのためにこちらで自分の会社を設立したい。しかしベトナムの法律で簡単には
不動産などの収得が出来ない。
そこで、ベトナム人の友人に法人を作らせ、自分が裏のオーナーとして運営する。
現在社員は5名おり、ティエンも来年には手伝って欲しい・・・と。
話を聞いてぢるは落胆した。山田がこれほど大事な話を何故私にしなかったのか?
もし聞いたとしても自分が賛成しないと言ったら?
「ティエンさん。彼が行きそうなところが解るの? わたし、どうしても彼に会わなきゃ・・・」
言い切らないうちにぢるは泣き出してしまった。
リーがぢるの肩にそっと手を置き「どうした?悲しいことあったか?」と心配そうに
声をかける。
「ぢるさん、とにかく山田さんを見つけましょう!心当たりがあります・・・・・・」
ティエンはぢるを元気付けようと勤めて明るい顔で言った。
「ありがとう。ごめんね、泣いたりして。リーさんもありがとう」
ぢるは涙を拭きながら二人に言った。次の目的地はベトナムのランソンだ。
ナータオ村に戻り停めてある車で向かうことにした。ランソンと聞いてリーも
一緒に行くと言い出した。妹が住んでいるのだそうだ。
ティエンとぢるは快く承諾した。
楊貴妃 吳汝俊
http://www.youtube.com/watch?v=FlA_dOrH-cM&feature=related




