第3話
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「ぢるさんは山田さんと付合って、どれくらいになるんですか?」
運転しながらティエンが話しかけてきた。
ヤンモー湖に向かう県道はお世辞にも整備されているとは言えず、舗装されていない
赤土の道路は穴だらけである。それでも40~50キロでヒュンダイ製の4WDは
走っていた。
「アイン・ティエンあとどれくらいでヤンモー湖に到着するの?」ぢるはあえて
アインとこちらの言葉を使った。「ぢるさん、言葉を少し覚えましたね。
どんな言葉覚えました?」
「そうねー、ホテルはカックサンでしょ? あと車はセ・オートだっけ?・・」
「じゃあ恋人は?」
「・・・わからない・・・・」
「イエウ。ゴイ・イエウって言いますよ・・」ティエンが笑いながらぢるの方を見た。
そんな会話をしながら40キロほど走ったところで、道路が30cm程突起していた。
「ぢるさん、ここからは時間がかかりそうです・・」慎重にハンドル廻しながら
ティエンはヒュンダイを操っている。これではバスは勿論、普通の車も無理だ。
ぢるは自分が捜索に向かったことを正しかったと心底おもった。
「ティエンさん、大丈夫?少し休憩しましょうよ・・・・」
道路の状態は最悪であった。今回の地震の影響で、かなりのダメージを受けている上に
上流で川が氾濫したためかこの辺りまで水が来ており、時々道路を10cmほど隠して
しまっている。
「ぢるさん、これはどうやら崖崩れか何かで川の流れが変わってしまたんでしょう。
この先に村がありますから、そこで情報を聞いてみます。」
「もう2時間以上運転しているわ。そこでちょっと休みましょう」
暫らく走り車は海沿いの集落ティエン・イェンに止まった。
民家は数十世帯あるようだが、人はあまり出ていない。
「ぢるさん、ボクはその家で色々聞いてきますから車で待ってていて下さい」
そう言うとティエンは民家の方へ歩き出した。
ぢるはこの国の田舎の民家を初めて目にした。なんとなく昔の日本と似ていると思った。
「ぢるさん、やはりヤンモー湖の付近で大きな山崩れがあったようです。
けが人は居ないようですが、この先はひょっとすると車が走れないかも・・・」
戻ってきたティエンの顔は少し強張っていた。
「そうですか・・・でも状況が分かっただけでも安心しました」
「とにかく行ける所まで行ってみましょう!」
二人は持ってきた缶コーヒーを飲みながら地図を広げた。
ちょっと甘すぎる缶コーヒーを飲み終えた二人は、川沿いの道をヤンモー湖に向け走った。
車の時計はすでに10時半になっている。
相変わらず慎重な運転で、スピードメーターは40キロを超えることはないようである。
「ぢるさん、何か音楽でも流しましょうか?」そういうとティエンはカーステレオの
スイッチを入れると、聞き覚えのある曲が流れた。
「この曲・・・・知ってます。彼が前回帰国した時歌ってくれました。
えっと、モッカ・・・・」
「モッ・カック・タム・ティン・グォイ・ハーティンです」彼はゆっくりと言った。
「どんな歌なんですか?恋愛の歌?」
「この曲は・・・・昔、戦争がありました。 そして大勢の人が死にました。
そんなことがあっても海や山は何も変わっていない・・という意味のこと歌っています」
話を聞いて、山田が何か物思いにふけるような目をして歌っていたのを思い出した。
戦争の歴史。ぢるはこの国であった悲惨な歴史が、何か日本と似ているような気がした。
車は約1時間ほど走り、ヤンタムという集落に着いた。ここから先はどうも車は
無理のようである。迂回路があるか地元の人に聞いてくると言ってティエンは車を離れた。
山間の集落は先ほどの村と違い、かなり貧しい感じがした。
子供たちの着ているものが全然違っている。
「ぢるさん!ちょっと降りましょう。事情を説明したら、ここの家の人がこれから
昼食だから一緒に食べようと誘ってくれました。さあ、行きましょう。」
ぢるはびっくりした。それほど豊かでは無いのにそんなことをしてくれる人達・・・
「でも、いいんでしょうか?私なんかが行っても・・・」
「いいんですよ。 逆に断ってはかえって失礼ですから。この国の人は年長者の意見には
素直に従いますよ」
初めて入る異国の家庭。ぢるは少しドキドキしながら玄関を入っていった。
昼食は豪華ではないがとても美味しく、もっと食べなさいと家の主人が言っているのが
わかった。
「シン・カムオン!」ぢるはありがとう、とこの国の言葉で言った。
それを聞いて家族中から拍手があった。7人がそれぞれぢるに話しかけてきたが
すまなさそうにしているぢるを見てティエンに何か言っている。
「ぢるさんが言葉を話せると思ったみたいですよ。発音が良かったみたいです。」
そう言うと彼は笑った。
ティエンはヤンモー湖について家族に尋ねていた。それによると、ヤンモーは中国の
国境にある小さな湖で、ここから歩いて2時間ほどである。
山田らは国境を越え、チワン族自治区行った可能性がある。
なぜなら中国側の方が工業都市が近くにあり、食料や医薬品が買いやすい。
車も向こう側へなら簡単に行ける筈である。
「ぢるさん、たぶん山田さんは中国に居ますよ。ただ問題は距離です」
「そんなに遠いんですか?」
「中国まではさっき話したとおり約2~3時間です。しかし、そこから中国の
ちょっとした街まで歩いてだと5時間。そうなるともう夜になってしまう。
しかもボクは中国語もチワン語も話せません」
「そうですか・・・・・」ぢるはこれはしかたがないと思った。
ティエンが家の主人と何やら話している。そしてぢるに言った。
「とりあえず今日はヤンモー湖の様子を見に行きましょう。夜はこちらの家に
泊まらせてもらいます。そして明日ご主人と一緒にチワン自治区に行き山田さんを
捜します。ご主人はチワン語が話せるそうですよ。」
ティエンがそう言うと家の主人は誇らしげに胸をたたいて笑った。
ぢるは涙が頬をつたわるのを感じていた。
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Mot Khuc Tam Tinh Nguoi Ha Tinh Van Khanh
http://www.youtube.com/watch?v=8tXKqJ8eQ3Y




