第2話
:
翌朝彼らを乗せたバスは被災地を避け、約150キロ北にある彼の赴任先の港町へ
向かっていた。通常でも3時間近くかかるのだが、同乗する政府関係者の説明では
6時間はかかるだろうという。目的地に近づいた頃、ぢるの時計は15時を少し過ぎ
ていた。
震源地から80キロ離れているとはいえ、やはり今回の地震のエネルギーは凄まじ
かったらしく山崩れをあちこちで見かけた。
・・・大丈夫 彼ならきっと無事・・・・・
ぢるは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
バスは現地の対策本部の置かれたホテルに停められた。
ベトナム政府の説明では、ここに日本人現地就労者や関係者などが集まっているという。
祈るような気持ちでエントランスに向かうぢるの後方から日本語で女性が呼び止めた。
「ぢるさん・・・でいらっしゃいますか?私は中川商事の田中といいます。山田さんの
ことで・・・」
というと彼女は名刺をぢるに渡した。
中川商事 ベトナム法人事業部 田中由美子 山田の部下だという。
「やあ由美子君、心配したよ。こっちは全員無事なんだな?」
「すいません部長、連絡できなくて。通信インフラ自体が機能していなくて・・・」
「わかってる。良かったよ元気なんだね。大丈夫かい?・・それで皆は?」
「ホテルに居ます・・・ただ・・・」そう言うと彼女はぢるの方を見た。
「実は・・・山田所長とはまだ連絡が取れていないんです・・・・・」
「由美子君・・それはどういう事なんだね?まさか・・・」
「いえ、所長はあの日、休暇をとって現地の人達と釣りに出かけたそうなんです」
「まさか津波に・・・」ぢるが言い終わる前に由美子が言った。
「中国との国境近くの湖だそうです。だから震源地からずっと離れた場所で・・・」
「由美子君、だとすると帰る手段が無くなっているという事かね?」
「・・・・たぶん・・・そうだと思います」
話を聞いていたぢるがその場に崩れるようにしゃがみ込んだ。長旅とストレスのせいで
貧血を起こしたようである。その後ホテルで今後のことについて話し合いがあった。
会社関係者は明日の便で帰国する。ぢるは現地にもうしばらく滞在し彼と一緒に
帰国する。その間の費用・通訳は会社で用意する等々・・・
通信インフラは多分あと4~5日で復旧するだろう。
その時のための携帯電話なども用意してくれた。
・・・・・そして3日が過ぎた。
昼食を取っていると突然ぢるの持っていた携帯電話が鳴った。
「はい。ぢるです・・・・」日本の杉田からである。
「携帯電話が通じるようになったようですね。固定電話の復旧はまだのようですが・・」
ぢるは少し安心した。これできっと彼からの連絡が入るに違いない。
この番号は中川商事の現地法人のものだ。
とにかく電話を待とう・・・
しかしその後も日本からの着信は何度かあったが、山田からの連絡はなかった。
そして、さらに2日が過ぎた。ぢるはこのまま待つよりも自分で捜しに行きたい
衝動をやっとの事で抑えていた。が、通訳のティエンの一言で決心がついた。
通訳のティエンとはこの数日ほとんど行動をともにしている。
勿論、朝10時から夕方までという契約の範囲ではあるが、こういった状況下で
しかも言葉が通じない国にぢる一人で居るということもあり、ティエンの方が
相当気を使ってくれているようで、自然に会話の量も増えていた。ティエンの話では
彼は過去に7年間、名古屋に留学生として住んでいたという。
電子工学を専攻したが山田の会社では、主にジェトロと日本企業からの依頼で
現地調査を任されている。時々ジョークを交える彼の話はぢるにとって安らぎになって
いる。
ぢるはティエンに山田を捜しに行きたい旨を伝えた。
「ぢるさん、私もその方が良いと思います。山田さんはきっとヤンモー湖の付近に
居るはずです。明日にでも車を用意しますよ。4輪駆動車だから心配ない。」
彼はそう言うとにっこり笑った。
翌朝7時にロビーで待ち合すことを約束し、ティエンはホテルを後にした。
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Nho Hue Vân Khánh http://www.youtube.com/watch?v=H-7t5afWiM0&feature=player_embedded#!




