第19話
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ハイアットリージェンシーの7階から海を眺め、ぢるは大きく深呼吸をした。
「27年ぶりなんて思えない。おんなじだぁ・・・」
ルームサービスで頼んだ朝食のコーヒーを窓際に置くと、バルコニーに出てみた。
「いいお天気。散歩でもしようかしら・・・」
お気に入りの小説を持つとガーデンプールをぬけビーチに出てみた。
砂の上をゆっくりと思い出を踏みしめるように歩いていると、30年前のあの日を
まるで昨日のことのように思い出すことができる。
キラキラと反射する波がぢるの白いワンピースを揺らしていた。
ヤシの木陰からボサノバの優しい音色が聴こえる。
生演奏をしているのだろうか?近づいてみると観光客がサンデッキのベンチに寝転がって
ギターを弾いていた。
少し遠めに見ながら、ぢるは演奏の心地よさを味わっていた。
何曲か知ってる曲を弾いている。そういえば山田の趣味もギターだった。
一度はプロを目指したというその演奏を、ベトナムでもよく聴かせてくれた。
中でも彼のオリジナル曲、「木陰で」がぢるのお気に入りだった。
30年も前なのにその音色ははっきりと思い出せる・・・
とその時、さっきまでボサノバを演奏していた観光客が静かな曲を演奏を始めた。
麦藁帽子を顔にかけ、白い麻のジャケットを着たその男性は白髪からすると
60代だろうか?音が小さくなったので少し近づいて聴くことにした。
曲はミスティだろうか?少し切ない感じがする。
もう少し近づいてみる。ヤシの木を1本隔てた隣のベンチに腰を下ろしてみた。
「えっ!?・・・この曲・・・」
ぢるは突然の事に何が起こったのか理解できなかった。
あの曲だ。あの曲なのである。そう、山田がオリジナルだと言っていたあの曲・・・
ぢるはヤシの木越しにその男性に話しかけた。
「すいません・・・その曲は・・・何という題名ですか? 日本語解ります?」
男性は演奏をやめぢるの方を伺っている様子である。
「この曲は・・・木陰で といって私の作った曲です・・・」
ぢるは何がなんだか分からなくなっていた。
Wave
http://www.youtube.com/watch?v=O-uOBNw_6MI&feature=related




