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第16話

ここからは短編に無い物語が続きます。

ぢるは思い出のサイパンの海岸を一人で歩いていた。

目も眩みそうな太陽の光と、真っ白な砂浜。

コバルトブルーの海に浮かぶクルーザー。

あの時と何も変わらない風景がそこにあった。

日本から持ってきた新聞にもう一度目を通す。

記事の文面は既に暗記しているのだが・・・・・・


(中川商事のベトナム支店で行方不明であった山田氏は、事故死していた可能性が高い

と現地警察の発表があった。本人のパスポートや所持品が沈没していた船から発見された

らしい。氏の遺体は発見されなかったが、状況から座礁に乗り上げ、乗組員共々死亡した

ものと思われる。船は7人乗りの小型クルーザーであった)


ぢるは信じなかった。

信じることによって、記事が本当の事になるのが怖かったのだ。

不思議と涙が頬をぬらすことはなかった。


水面はあの日と同じようにキラキラと輝いている・・・・


一つ一つの光が、たくさんの思い出を照らしているようであった。

挿絵(By みてみん)

:

そして数年の歳月が流れた・・・・・

ぢるは日常の平凡な生活を取り戻し、上司の勧めで結婚して子供も2人生まれた。

絵に描いたような幸せな家庭ということは無かったが、優しい夫と可愛い子供たち

それに郊外の一軒家で静かな時を過していた・・・・

そんなある日1通の手紙がぢるの元に届いた。

アメリカからのエアメールである。送り主はティエンだ。

ティエンはあの後日本の大手商社に就職が決まり、世界を相手にビジネスをしていた。

現在はアメリカのロスアンゼルス近郊に住んでいるという。

ぢるがベトナムに行かなくなってからも、山田の捜索を続けてくれており

その都度メールや電話をくれていた。

警察の発表後はさすがに回数は減ったが、それでも3年位前までは2ヶ月に一度は

連絡をくれていた。そんな彼も転勤でベトナムを離れてからは音沙汰が無くなった。

ぢるは急いで封筒を開け、便箋に書かれた手書きの文字を読んだ。


お久しぶりです。ぢるさん。

お元気でしょうか?長男の優斗君はもう1年生になったんですよね?

私は今アナハイムで暮らしています。2年前に結婚し去年の2月に男の子を授かりました。名前はチャンといいます。

来月日本に家族と旅行をしようという事になり、折角なのでぢるさんにご紹介しようと

筆を執りました。もし時間を作っていただけるなら、一緒に食事でもいかがですか?

ご連絡をお待ちしております。


メールアドレス ******@****


追伸

そういえば、例の証券の一部が換金されたという情報が入りました。

詳細はお会いした時にでも・・・・


                      グエン・タイン・ティエン



読み終えたぢるは暫らくボーっと窓の外を見つめていた。

何度も見たベトナムの風景が蘇ってくる。

埃っぽい路地の食堂、雄大な農村の営み、突然のスコール・・・・

懐かしい思い出のなか、最後にノイバイ空港で見た山田の姿が重なる。

涙が出た・・・・今まで一度も泣かなかったのに今日は止め処なく流れる涙を

抑える事が出来なかった。忘れようとして忘れられなかったものを、全部洗い流すように

ぢるは泣き続けた・・・・・



Cause We've Ended As Lovers JEFF-BECK

http://www.youtube.com/watch?v=THnbh5lTqSY

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