第10話
:
6時になりぢると田中は待ち合わせをしたロビーから出て、タクシーに乗った。
レストランはホテルからそう離れていない場所にあるヨーロッパ風のレンガ造りだった。
「ぢるさんは嫌いなものはありませんか? この店はカニが美味しいんですよ」
「大丈夫です。カニって、タラバとかそういうの?」
「ちょっと違いますね。クア・ロット。日本ではソフトシェルクラブという名前でたまに
見かけますが脱皮したばかりのカニ・・多分渡り蟹を殻ごと食べる料理です。
美味しいですよ。」
「殻ごと食べるんですか? どんな味だろう?・・・」
「月夜のカニって呼ばれてるんですよ。ほらきました、揚げたてを食べましょう」
カニは少し泥臭かったが味は美味しかった。お酒も少し入ったところでぢるは言った。
「田中さんはしばらくこちらに滞在されるんですか?お仕事なんですよね?」
「ええ、ちょっと仕事で。しばらく居ますよ。ぢるさんは色んなところ行きました?
よかったら案内しますよ。」
「ホントですか! 明日も独りなんですよ」
「じゃあ是非。二人の出会いに乾杯!」
二人はレストランを出たあとホテルのバーで飲んでいた。
「ぢるさん恋人は居ないんですか?」田中が聞いてきた。ぢるを口説く気であろう。
どちらかというとぢるの嫌いなタイプである。年齢は50前後、小太りで声が大きい。
日本のレストランなら絶対に同席したくないはずであるが、山田のためである。
「恋人ですか・・居るのかな?どっちだろ・・どう思いますか?」
「きっと居ますね。でも最近うまくいってない・・・ そんな感じかな?」
「・・・・わかります?」ぢるはそう言ってグラスに唇を近づけた・・・
時間は11時を廻っている。
バーで飲んでる間に仕事の事を色々聞き出した。
それにより最近はどこで仕事をしているのかがわかった。
ハイフォンで仕事をしているという。
「ハイフォンですかぁ。 一度行ってみたいな」
「よかったら明日行きますか? 途中ちょっと用事があるのでコーヒーでも飲んでて
もらって・・・・」
田中は良かったら部屋で飲みなおさないかと誘ってきたが、友達が遅くに戻ってくる
かもしれないと明日の約束だけをしてバーを出た。
部屋に戻ったぢるはすぐにティエンに明日の事を伝えた。
「わかりました。ぢるさんボクが尾行しています。念のために時々連絡してください」
翌日10時にロビーで待ち合わせていた田中とタクシーに乗った。
少し離れてティエンのヒュンダイが後をつけている。
ハイフォンまでの道路は結構込んでいた。昼前タクシーはハイフォン市内に入った。
「ぢるさん、私は少し用がありますのでこの店でお茶でも飲んでいていただけますか。
30分くらいで戻りますよ」
コーヒーショップでぢるを降ろし、タクシーは走り出した。
5台後ろをティエンの車が追っている。
ぢるはコーヒーショップに入りティエンに電話した。
「ぢるさん?今追跡しています。尻尾を出せばいいんですが・・・・・」
「30分で戻ると言っていたわ。そんなに遠くないと思うの」
「わかりました。また連絡します」ぢるは電話を切りコーヒーを一口飲んだ。
苦いコーヒーだった。
Mai Yeu - My Tam
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