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僕の家族になった猫のハチレ

作者: もち雪

他のweb小説サイトで重複投稿しています。

 三学期の1月は、冬の乾燥した風に吹かれてしまったように、僕の前から過ぎ去ってしまった。


 高校の新生活に慣れるだけの、慌ただしい生活も後僅か。


 そんな冬の夕方、学校帰りの僕の前に冬毛をもふもふさせた猫が現れた。


 その猫は顔の鼻から下は白く、鼻から上は白ラインを頭の上近くまで伸ばし、まるで前髪が八の字に分かれた黒いカツラをかぶったような模様。そして体はほぼ黒いハチワレと言う種類の猫だった。


 その猫は、「こんばにゃん」と、言って僕の前で立ち上がった。


 僕は驚き、目を見開いて見つめていると、その猫は二足歩行で僕の前にトテトテ歩いてくる。


「ぼくを飼ってほしいにゃん」何の前触れも無く、猫はそう言い。


 僕は「もちろん。いいよ」と、理由があって言った。


 その時、街灯のあかりが点灯し、僕らをスポットライトのように照らし出す。


 母と離婚し、僕と暮らしていた父は、僕の高校入学を機に新しい奥さんと結婚していた。


 だから僕は以前、3人で住んでいた家に、通いでやって来てくれる家政婦のさつきさんのお世話になって生きている。


 でも、彼女は僕の家族になってくれるわけでもないと、高校生にもなって考える自分を、持て余している時期だった。


 だからとても可愛い、この猫の誘いを断れるはずなかった。僕はちょっとだけ自暴自棄になっていたのかもしれない。


 最終的に飼えない場合は、もちろん猫好きのお金ちに売ると言うことも考え考慮する。


 だって安く手に入れたものに、人は価値を見出せないからだ。父さんにとっと僕はそうだったかは、この際関係ない。


 そして僕は最近パソコンを買い替えたいと思っている事も関係ない。ネットゲームで、古いパソコンの為に起こるラグでイベント失敗はこりごりとかは、異次元の話しだと思って忘れてくれても構わない。


 しかし猫は、僕の思惑など関係無しに――。


「ぼくの世界に来て欲しいにゃん」と言って、僕の手をとり光の中に僕を連れ出す。


 いきなり連れて来られた明るい世界、目が明るい光に慣れるまで少しかかりそうだ。


 こんな勝手な事をされれば逆に僕が、猫に飼われているって説まで出る。しかし飼い猫の責任は僕の責任、素直に受け入れなけばならない。 


 ⭐︎


 僕の前には広いホールが広がり、目の前は2つの椅子が並んでいる。


 そこには校長とまではいかないけれど、副校長ぐらいの年頃の僕たちから見て異国の男女が厳しい顔をして、僕らを見据えていた。


 2人の椅子の下の、朱色の絨毯はとても長く広い。映画の祭典のレッドカーペットの様に、僕の足元、そして多分この大きなホールの入り口まで続いているのだろう。


 その両脇にはお姫様、女騎士に、大臣に、騎士や兵士が並んでいる。皆さんやはり僕とは人種のちがう、白い肌をしている。


 そうするとここはお城で、王様と王妃様のいる謁見室に僕は僕の猫と降りたようだ。


 異世界なのかも知れない。でも、猫の国の異世界でないようで少し残念かもしれない。


 異世界、転移者にとってはお城の謁見室は移動距離を省いた親切設計でとてもいいと思うよ。しかし皆さん僕に対して揃って怪訝な表情を浮かべ、口元を隠し驚きながら盗み見る様な姿を多く見る。


 そんな中、僕は猫を見つめる。猫は猫らしく、毛繕いをしているようだ。もふもふの毛をペロペロ舐めている。


 ……そう言うばまだ、猫の名前は決めてなかった。僕の猫……、ハチワレだからハチレって名前がいいかな? 


 ハチレは、何のために僕を連れて来たのか知らないが、時期早々だったのではないだろうか?


「猫様、彼は勇者なのですか?」


 茶色の長い髪を三つ編みに結った、キリッとした女騎士さんが、僕のハチレに質問する。


「そうです! ぼくのご主人様でーす」


 僕のハチレが立ち上がり、片手をあげて宣言する。しっぽは、ピーンと立ちとても可愛い。


「猫様がそうおっしゃるならそうなんでしょうな……。では、勇者よ! お前には魔王を倒す旅に出て貰おう。冒険の用意をせよ!」


 王様は立ち上がり、赤いマントをひるががえしてそう言い放った!


 ――ハチレが猫様で、その彼がご主人様と言っている僕には、敬称無しの勇者?


 しかしここで刃向かえば、面倒なの事になるの確実で、言う事を聞いて無理そうならバックれよう。もしかして素敵な、スキルが貰えるかもしれない。


「わかりました」


 僕の声に「おおぉ……」と、言う安堵の声がホールの至るところからもれ聞こえる。どうやら必要とされているようで少し安心した。


 その時、ハチレは僕のズボンの裾をクイクイと引っ張る。


 ――抱っこかな? そう思い、座り込みハチレの目線の高さに合わせると……。


「ピキーン、スキル命令が発動されました」

 ハチレが僕の耳もとで囁いた。


「ハチレ、君が言うの?」


「当然さ、ご主人様の世話は僕がみないと、でも1人でみるとしんどいからご主人様に命令した悪い奴は奴隷にする。スキルだよ!」


「ハチレ、二言めに、一言目の言葉全否定する様な事を言うのはやめて、そしてそんな人間の尊厳を破壊するスキルはやめた方がいいよ」


「ぼくを、人間のものさしで計らないでよ」


「ハチレ、お前は猫だもんな……」

「なー」


 うちのもふもふハチレは、異世界でも可愛いかった。


「それよりご主人様、ハチレって僕の名前? 凄く可愛いだけど」


「そうだよ。そして僕の名前は錦織(にしきおり) 耕太(こうた)よろしくな」


「耕太よろしくー。キャー、ハチレって可愛い」

 ハチレは、口もとを押さえてモジモジしている。


「王の御前です! いい加減に内緒話しを辞めなさい!」


 女騎士さんが僕に剣を抜き、僕にその剣先を突きつけた。


 多分、彼女は剣を抜いた時点で無礼度は、彼女の圧倒的な勝利であるが僕は黙って、どこまで無礼であるか未知数の彼女の意見に従った。


「はい、すみません」


 ハチレに、ふたたびズボンの裾を引っ張られ――。


「ピキーン、スキル命令が発動しました」

「リーベ、勇者様になんてなんて無礼な事を言うだ……」


 ハチレのお知らせや、王様の奴隷化具合から来るニュアンスの違いやら1度情報が多すぎる上に、遠くの王様はまだしも、近くハチレの耳に当たる、手のもふもふの気持ち良さとかで、僕はいっぱい、いっぱいになってしまう。


 そして……。

「申し訳ありません。勇者様」と、可憐に泣き始めた、女騎士のリーベさんの事は完全に無視する事になってしまった。


「これで奴隷2人になったね。ぼくの仕事も安泰だよ」


 そしてハチレはそんな事を囁くのだ。


 この困った事態がハチレの仕事をまっとうしようと思う気持ちから来るなら、彼には言わなければいけない事がある。


 でも、僕は贅沢ものなので、少し贅沢な事を言ってみる事にした。それでハチレが、自分は僕にとって十分過ぎる存在って、気付いてくれると嬉しいなぁ。


「ハチレ、ハチレは最初から可愛い、そんな君だけで十分だよ」


「耕太?! 好き!」


 ハチレは僕に抱きついてくる、やっぱりあったかくて太陽の匂い、そして思わずくしやみがでそう。


 今日から僕は完全に猫派となった。


「勇者様たち、いつまで話しているつもり! 向こうの部屋にお茶の用意をするから来なさいよ」


 そう言ったのは美しい令嬢で、形の良い顔の輪郭を引き立たせる様に金色の髪を顎の辺りで切り揃えている。


 これは第三の奴隷が……

 しかしハチレは何も言わない。


 ――えっ?  これはセーフなの?? ハチレを抱っこして彼の顔見る。


「僕的にはツンデレはセーフかな? そこに真心があればセーフなんだよ! 愛や真心は深くてわかりにくいものさ」


 ⭐︎


 城の中庭の小さなドームのドームのような屋根のしたで、お姫様とお茶を飲む。彼女の後ろて、早咲きスノードロップが咲いている。たくさんの花が集まり白く、大勢と共にあるから美しく映える。


 目の前にいる彼女とは逆の花。


「なぜ、そんなに見るの失礼だわ。もしかして髪? 王家の血を引く娘が、短い髪って事がおかしい?」


「いや、君にはその髪型にあってるよ。あごのラインがきれいだからかな?」


「これは教会へ魔法の修行に、行ったのだけれど、修行に専念したいから切ったんであって、貴方に可愛いって言われる為に切ったんじゃないのわかる?」


「わかってる」


 そうわかってるが、それよりうちのハチレが器用にフォークを使っている事に僕は興味があった。


「大丈夫、ハチレ様のは猫用ケーキだから……、だから私の話しを聞きなさい」


 ハチレを見ると、両手を水平に外側へと広げる。


 ――セーフか……。うちのハチレは、野球のサインまで知っていて天才かもしれない。


「ほら、猫様ばかり見ているから、頬にケーキが付いているわ」


 そう言って彼女は、アイロンの匂い、少し太陽に似たその匂いのするハンカチで、僕の頬を拭いてくれた。


「ありがとう……」


 僕は少し恥ずかしくて、彼女のどこを見ていいのかわからない様子で、そう言った。


「こんなことたいした事ではないわ、そう……貴方って貴方に使いたくないいから、名前を聞いてあげるわ貴方に!」


 彼女は赤い顔をして、言いたくないわりに3回も貴方と言って僕に名前を聞いた。


「錦織耕太と猫様、改めてハチレです」


「ぼくは――今日からハチレって名前になったんだよ。よろしくね。エルシー」


「エルシー、よろしくお願いします」


「猫様、じゃないハチレ様はなぜ、私の名前を言っちゃうんですか?! わたくしには素敵な計画があったに!」


 エルシーは、ハチレの椅子まで駆け寄って、左手を腰に、右手はハチレの前に出して人差し指を立てて注意している。そしてハチレの視線は、エルシーの右手に夢中だ。


 ハチレが、エルシーの右手に飛び掛かる前に、ハチレを後ろから抱っこすると、始めはこちらを不思議そうに見たハチレだったが――。


「猫の本能が目覚めちゃった」そう言って僕の首筋に頭を擦り付ける。そしてエルシーの視線は、もちろん可愛いハチレに。


「ハチレ、エルシーに抱っこされても構わない?」


「いいよ――。特別許す!」


「ありがとう……エルシー、ハチレの椅子に座って」


 そう言うと、彼女はハチレの座っていた椅子を引き出し座る。そして僕はゆっくりとエルシーのひざにハチレを置くとハチレは普通の猫のように彼女のひざの上で丸くなり、「ニャーン」と鳴いた。


「ふかふか……」


 そう言って、彼女はハチレの背中を撫でる。こうやって見ていると、彼女は普通の僕と同じ歳くらいの女の子に見える。


 そして彼女の長いまつげが上をむく。そしてきれいな南の海の瞳で僕を見た。


「耕太これからよろしくね」


 彼女はそれだけ言うと、ハチレをふたたび撫で始める。


「ありがとうエルシーこれ以上撫でられると、寝ちゃうからここまでね。耕太、僕は眠いから抱っこしてお部屋に連れて行って」


「はいはい」


 僕はハチレをたてに抱っこすると、ハチレは僕の肩にあごを乗せる」


「またねーエルシー」「エルシー姫、失礼します」


 僕は頭を下げ、ハチレは手を振りながらその場を後にしようとする。


「メイドに! メイドに伝えれば暇ならまた、紅茶を入れてあげない事もないわ!」


「わかった。ありがとうエルシー姫、お茶凄く美味しかった」


 僕はそう言って中庭を1人歩く。ハチレは、歩いてないから、そのカウントに入れない。


 少し色褪せた中庭、刈りそろえられた植木。不思議の国のアリスの世界の様だ。


「ハチレは、僕にどうして欲しいの?」


「面倒な魔王をどうにかして欲しい。君がぼくの飼い主になった事、そして君が望んだ形ではないが、スキルは発動してしまった」


「そうなのか……」


「倒せなんて言わない。僕を守って欲しい」


 そう言って首筋に掴まるハチレの言葉を断る事など出来なかった。彼は僕にとって初めての家族だ……。


「わかった……」


 バサバサバキ――。庭木の細い枝が音をたてて折れた。


「なら、私も行こう……」


 髪に葉っぱや小枝を沢山つけた、女騎士リーべさんが手には太い枝を持ちながら現れた。あれは確実に庭師に怒られるレベルの枝だった。


「なぜ、答えない」


 彼女は折れた枝を水平に持ち、僕の前に突きつけ言う。


 僕は他人から見られたら、庭木が折られた事件の犯人にされるかもしれないと、冤罪に怯えながら彼女の問いに答えようとする。


 何より彼女には早く自首してほしいと思いながら。


「リーベは、行くに当たり前にだよ! 当たり前の事を聞いてきたからびっくりしたんだよね――。耕太」


 うちのハチレはやっぱりの猫だから、空気読めなくてびっくりする。


「でも、リーベさんは庭木を……」


「私は、そんな事は聞いてない!? 連れて行くか、連れって行かないかについて聞いている!!」


 そう言って彼女はこんな時、大事な話しを遮る原因となった原因の庭木をおいっきりの力で投げ、彼女は証拠隠滅をする。庭木は青い空の点となって消えてしまった。


「どういう事ですか?!」


 災いは台風のように全てを巻き込んで行く、僕らの前に姿を現したのはエルシー姫だ。


 目的地は同じ彼女は、普通に追いつき話しを聞いたのだろう……。彼女に隠滅された、リーベの証拠が当たってなくて良かった……。


「その目は……やはり行ってしまう気だったのですね」

 ――へっ!? 何?


「エルシー姫、勇者様はこの私が守ります。ご安心ください」


「黙りなさい。貴方は聖女であると教会に認定された私と違って、旅の予定に入っていないはず……騎士団長にもなれないような腕では怪我しちゃうわ! 絶対ダメよ!」


 エルシー姫は大地に踏ん張り、力を込めて言う。やはりリーベの事を思っての事だろう。


「エルシー姫……、そんな優しい貴方だからこそ私は守りたいのです。貴方をこの剣に懸けて支えると誓います。」


 女騎士リーベに、エルシー姫の心が通じたようだ。彼女は剣を鞘から抜き、地面を貫く。そして姫の前で、姫へ(ひざまず)いた。


 草木は色合いを失っているが、その形は未だ衰えないように。リーベのその忠誠心は、変わる事はないだろう。


 その時、リーベは僕をチラッと見た。


「勇者様、貴方にはこの忠誠心を捧げることを誓います」


 彼女は、そのまま僕に向き直った


「あらあらあら」

 ハチレがリーベを見て、口に手をあてそう言った。


「やっぱり騎士の誓いは、2人にするものではないよね?」


「どうだろうね。騎士の誓いも移り変わるものだからね。ぼくが驚いたのは彼女が君の制御下にありながら、エルシーに忠誠を誓えたって事だよ。凄い、精神力だよね――」


 ハチレは、そんな事を楽しげに言う。しかし真実を知らないエルシー姫は、逆にリーベを見て不安をつのらさせたようだ。一生懸命にリーベに魔法をかけだし……。


「ハチレ様、耕太へのリーベの異常行動は魔王の何かしらの影響なのでしょうか? しかし呪い解除や悪霊退治の魔法を使っても、打ち消す事が出来ません」


「違う彼女は、僕のスキルに心を操られているだけだ。ハチレどうやって、このスキルを解除出来るの?」


「このスキルは君との距離が、物理的に離れれば消えるよ」


「リーベのための旅なら、私も一緒に参ります。決して耕太のためではありません。あくまで私が行くのは、リーベとハチレ様のためですわ」


 彼女は、胸に手を当てて、僕にそっぽを向きながらそう言う。


 そう聖女の資格を持つエルシー姫が、旅立つ事を決意してしまったようだ。


「キャーー、エルシーがぼくのために来てくれるってどう? 凄い?」


 ハチレは、抱っこしている僕の肩に、彼の肉球を乗せながら、少し体を離すようにし、僕の顔をそのまんまるな黒い目で見つめる。


「うん……」

 僕の中にある温かい命、ハチレは、凄く可愛いかった。



 ⭐︎


 そして僕らは謁見室前の待合室、両親と別れ旅立つエルシー姫の親子の別れの場面から席を外して待っている。


 なんとなく校長室や美術準備室を、思い浮かべてしまうこの部屋で。


「ハチレ、エルシー姫には、本当に僕のスキルの効果の作用はないの?」


 豪華なソファの上に立ち、さっきから天井近くの星のような飾りをピョンビョン飛んで、取ろうとしていたハチレに僕は聞いてみた。


 彼は僕を振り返り見つめると……。


「この国の姫は、勇者の旅が終わると彼らと結婚するものだから……」


 そう言って、僕たちの座る長椅子のソファの背の上の部分をペチペチと叩きだしたので、僕は彼を抱っこして座る。彼は人間の様に、僕にもたれ掛け座った。


 ……あぁ――。なるほど――、じゃない。それは良くない、ペットとお嫁さんは全然一緒じゃないよ。同時に二つの命は、僕の手に余るよ!


「ハチレ、2人で逃げよう!」


「ぼくはオスだけどいいの?」

 ハチレは、振り返り僕を見つめる。


「勿論良くない。何がと言われると凄く困る。が、良くないよ――!」


「でも、ぼくと逃げたいんだね。ふんふん」

 そう言って、ハチレは腕を組み、足も組んだ。


 ⭐︎


 そして僕たちは月の出る夜を待って、城から抜け出した。


 怪しい僕らは待てと言われて、待てば良いだけ城を抜け出すのは簡単だった。


「このままでは僕は命令される事にたびに、簡単に悪の道に行きそうだ……」


 そう言うと、僕がエルシー姫に旅のため必要と言って、用意してもらった大きなリックの上に乗っているハチレが、「ぼくが、君を正しい道に道びくよ!」と、僕の頭で体を支えながらそう言う。


 実際、地図を見て話した時、彼は道に詳しいようで僕の事を導いてくれるだろう。


 しかし城からの脱出一歩手前の城の跳ね橋の上で、エルシー姫とリーベが待っていた。橋を渡った先の両脇のかがり火が、彼女たちのシルエットをうつしだす。


「なんで、ここに……」 


 ハチレは僕の背負うリックの上からピョンと、飛ぶとエルシーとリーベの前に立ちこちらを見た。


「2人ともいつもぼくがここへ来たら、美味しい餌やまたたびくれるから、脱出の邪魔を頼まれたら断れなかったにゃん。だからちょっと遠回りしちゃった」


 てへへと、いう感じでハチレは頭をかいた。彼は、ご主人様の僕を結構あっさり裏切っていた。


「これから先、不安なんだ。だから2人について来てもらいたかったんだよ」


「じゃ――今日、彼女たちから貰った分の餌とまたたびは返しなさい」


 そう、あてずっぽうで言ってみる。しかし僕の推測は当たったようで「嫌だ……」と、言ってエルシーの脚の後ろに、彼は隠れてしまう。


 そうしてハチレは、顔だけ出して首を振った。


 結局、僕らは城へと戻る事になる。戻っている間に、ハチレは「眠い」と、言ってリックに入り、グゥ――グゥ――寝てしまった。


 ⭐︎


 そして僕たちはやっぱり豪華な部屋で、屋根のついた広いベッドで横になる。


 もしかしてハチレと別れてしまえば、僕は普通の世界にもどれるのでは? と、そう考える。


 しかしそう思いながらベッドで横になっている僕は、ベッドの中央で寝てるためか少し身長が伸びているハチレ。


 僕の目の前にある、そのお腹のおひさまの匂いに癒されてしまう。


 サラサラの毛の感触。話しも出来て、トイレの世話もいらないし、している様子もない。


 そんな彼の横、ベッドの角にちょっと追いやられながらも至福の気持ちでいる。


 僕は体をベッドから起こし、ハチレの頭を撫でる。彼は「ミャーン」と可愛い声でなく。


 やはり猫は可愛い


 この異世界もし魔王と戦う事になっても、一度飼った猫の世話はしなければならない。食べ物に釣られてしまっても、ハチレだったら許せ気がする。


 ⭐︎


 そして次の朝目を覚ますと、魔王が居た。


 いや、魔王ぽい人かも知れない。背は高く、黒ぼい配色の洋服にマント。結構、筋肉質なダークエルフという感じで、戦場(コミケ)に赴くコスプレーヤーのように気合を入れないとここまで魔王ではないだろう。


 そして彼は言った。「我は魔王である」


「勇者よ、この猫ちゃんを我に寄越せ」


 どうぞと、言ったらどうなるんだ? 魔王を奴隷に出来るのか? それともハチレとさよならした事で、スキルも抹消され普通の人に戻るかもしれない。でも、ハチレは渡せない。


 もし断ったら殺されるかもしれない。だから…僕は魔王聞いた。


「断ったらどうなりますか?」


「猫ちゃんの悲しみ事はできない」魔王は、激的に猫派のようだ。


「だから我は、お前達について行く」


 魔王は、僕の奴隷うんぬんの前に、猫の奴隷の様だ……。しかし僕に人の事は言え無かった。


 僕らは分かり合えるかもしれない。ハチレの仲裁をもってすれば。


 その時、ノックの音と共にエルシー姫と女騎士リーベがやって来る。


「あら、おはよう――」

「「おはようございます」」


 彼女たちは魔王とも普通に挨拶する。魔王も普通に「あぁ、おはよう」と、少しけだるい感じであるが挨拶をする。


 しかしハチレだけは、「魔王の権能ぽいね。小賢しい奴だよね」と、いう彼の立ち位置のわからない強気な姿勢で言ってのける。


「ハチレ、魔王嫌いなの?」


「ぼくの事を探しあてると寝てる時、起こして「ニャーン」って言って来るし、めちゃ撫でて来るからいや! だから耕太、寝てる時は守って!」


「どうやって?」


「美味しい餌やおやつをあげても、寝てる時はダメだって魔王を説得して! 美味しいものあげているからいいではないか、と言うけど……ぼくにしてみれば別なの!! 美味しいもの欲しいけどぼく、猫だし。そこに人間界のお約束は通用しないよ!」


 そうハチレは言う。彼もたいがい小悪魔だった。


 しかし猫だししょうがないかと、ハチレの願いを聞き届けるため僕は魔王と話して見る事にした。


「魔王が思う、猫の好きなところを教えてください」


「我には部下が多くいる。しかし時々、我の人形では無い。ちょつと我儘が可愛さで許せる猫が好きなのだ」


「じゃあ……猫ちゃんが寝てる時、触ったらいやって気持ち許しましょう!」


「お前は可愛くないから、お前の言う事は聞くわけない。だから許すわけないだろう。もし猫ちゃんが……。ダメだ! 我が猫ちゃん不足におちいってしまう」


「でも、猫ちゃんが嫌がって、嫌われてしまいますよ?」


「猫ちゃんいつも寝てしまうから……」


 結構話せば答えてくれる、フレンドリーな魔王は、エルシーとリーベが餌の準備をしているのを僕らの話しをそっちのけにしてベッドの上から熱い視線を向け立って待つ、ハチレの背中を見つめながら寂しそうに呟く。


 きっと彼は忙しいため、ハチレのご飯時には間に合わず、ハチレの健康の為に必要量以上の餌をあげるのを我慢しているのだろう。


 そして今、僕との話しが終われば餌やりに混ざりたいのだろう……。わかる。僕もそうだから……。


 そんな彼はある程度は、猫ちゃん全般に対し常識人ぽいので、魔王が来る時間を予約制にする事で僕らの話し合いは決着がつく。


 僕は出来るだけハチレを説得して、寝ちゃう時もあるが、まぁちょっとだけ2人は歩み寄れたかは、正直全然わからない。


 こうして僕にはハチレを中心として、毎日一緒に暮らす家族みたいな、話す猫と魔王が出来た。


 しかしそんな僕らも、旅をする事が決まった。


 僕、ハチレ、エルシー姫、リーベ、そして仕事が落ち着くと遅い時間にやって来る魔王。


 名目上は、魔王を倒す旅だが、ゆっくり世界をまわって女騎士リーベをまこうと思う。そうすればきっと僕のスキルの効果も解けるはず。


 そうしたらもっと僕らは家族みたいになれると思うんだ。


 では、出発――!!


 終わり




見ていただきありがとうございます!


また、どこかで。

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