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32話──いきなり四天王とかクソゲー

 





 俺らはとにかく走った。それほど深い森ではないし、足下は安定しているから全速力で急ぐ。

 森から出れば、さっきの馬車の所に助けが来ているかもしれん。とりあえずはそこに行って体勢を立て直さなくては。



「はっ、はっ、はっ! ハトエルっ、どうだ?」

「こ、こちらに向かってきてます! もう気づかれたのかもしれません!」


 マジかよ。もう追ってきてんのか?


「アイリ! お前を拐った奴は魔族なのか?!」

「は、はい! 魔族です! それどころかっ……」

「それどころかっ?」

「帝国軍の四天王の一人だと名乗っていました!」

「し、四天王!?」


 おいおい、なんだよそのバトル漫画の超王道な代表格的称号はよ。

 四天王なんてゲームとかだけの存在じゃねえのかよ。


「そんなヤバそうな奴がなんでこんな所に居るんだよ!?」

「わ、分かりません! でも、魔法少女を探してるみたいでっ、私を勘違いして……それで拐われて、縛り上げられて……」


 何だそりゃ。本当に四天王なのか?

 ただ単に魔法少女が好きで誘拐しちゃうパワー系厄介オタクとかじゃねえのか?


 そんな事を考えてる間にも、ハトエルの焦った声が警鐘のように上がった。


「っ! こ、こっちに近づいてます! もの凄い魔力を持った存在です!」

「と、とにかく走れ~!! 捕まったら死ぬぞー!」


「その通りだ。その判断は正しい」


「へ?」


 目の前にヌッとでかい影が立ち塞がった。


 ──ブゥンッ、ドゴッ──


 かと思ったら、丸太みてえな腕が飛んできて、次の瞬間には身体の芯が急停止したような感覚になった。


「がっ?!」


 息が止まる。


 意識が霞み、体が宙を舞っている感覚がおぼろ気にした。


 ──ドカッ──


「かっ、はっ……」


 背中を木に強打する感覚の後、俺は土の味を味わう事になった。


「ぐっへえっ……がっ、はっ……」


「ノゾムさん!」

「安心しろ。俺は弱者を直接殺すのは好かん。その男も死んではない」

「あっ、きゃあ?!」


 頭上で聞こえるアイリの悲鳴。


「あっ、ア、アイリさんを離せー!」

「なんだこの子供は。あっち行ってろ。フーッ!」

「わまま~!?」


 ビョオオッという風の音と共にハトエルの悲鳴が遠ざかっていった。


「まったく、逃げるとはな。来い。こうなればこちらも意地だ。お前には何がなんでも魔法少女に変身してもらうぞ」

「だから、違うっ……!」


 ノシノシと遠ざかっていく巨大な足音と、アイリの悲鳴。


 体が痺れて動かねえ。

 けど、根性だ。早く追わなければ。


 気合いでなんとか立ち上がる。


「ぐ、うごご……ま、待て……」

「の、望さんっ!」


 近くの木の影からハトエルが飛び出してきた。


「だ、大丈夫ですか?! 今、ヒールしますね!」


 ハトエルの癒しの光が俺に流れ込んできて、体の痛みが和らいでいく。


「っ~! ふはあっ! 助かったぜハトエル」

「な、何なんでしょう、今の大きな人は」

「四天王とかいう変態だろ。ちくしょう、挨拶もなくぶん殴りやがって。顔も見えやしなかった」


 しかし、あの威力。

 どうやら手加減しての一撃だったらしいが、それでも戦闘不能に陥りかけたぞ。


「勝てる気がしねえ……」


 追いかけたところで返り討ちにされるのが目に見えている。


「……」

「……」


 ハトエルの奴がじーっとこっちを見ている。


「…………はぁ~。分かったよ。なりゃあいいんだろ、なりゃあよ」

「おおー! 何も言ってないのに伝わるなんて! これって、以心伝心ってやつですよね? ふふ、私達って気が合うのかも。きゃっ」


 可愛いがムカつく。やっぱ腹パンだな。


「さあっ! 愛と正義とアイリさんのためにレッツ変身です!」

「おい、勘違いすんなよ。別にそんな理由でなる訳じゃねえよ。ここは王都のすぐ近く。そして相手は敵対国の軍人。なら、これは王女様の求める魔法少女の義務に当たる。つまり王都防衛のためだ。何より、この俺様をぶっ飛ばしてくれやがったからな。お礼してやるだけだ」

「別にそんな言い訳しなくても……」


 リンク・クリスタルをポケットから取り出す。


「周りに誰も居ないな?」

「はいっ!」

「いくぞ。シャイニーリンクル!」


 ──ヒュイイーンッ──



 ──バキバキッベキッ、ミシミシッ、バキッ──


 ──ドサッ──



「う、ウオエエエェ……」


 ノルマ達成。変身完了。

 戦いの決心とゲロの味はセットだ。


「うっぷ……ふう。マジでどうにか出来ねえかな、この仕様」

「元の身体を出来る限り女の子に近づけさせれば苦痛も軽減されるかも!」


 去勢しろって言ってんのか。


「うし、とにかくあの脳筋マッチョマンを追うぞ」

「望さん! 彼は強敵です! 気を引き締めていって下さい!」

「おう」


 四天王か。流石にこれまでの相手とは違うだろう。


「よし、ハトエル掴まれ。お前は遅いからな」

「はいっ! 一言余計だけどありがとうございます!」

「その言葉返すぜ」


 腕にハトエルをぶら下げて地を蹴る。

 一足だけで木を何本もビュンビュンと超えていく。


「っ! 望さんっ、気配が近いです!」

「よし」


 一旦止まり、ハトエルを降ろす。


「お前は隠れていろ。俺があのデカブツの相手をするからその隙にアイリを連れて逃げろ」

「分かりました……! 望さん!」

「ん? なんだ」

「例え敵の前でも魔法少女としてのキャラは守ってくださいね」

「あのよ。もっと他に『気をつけて!』とか、『進んで戦うなんて偉い!』とかねえのかよ」

「あ、気をつけて! 進んで戦うなんて偉いです!」


 要らんわ、そんな取って付けた真心なぞ。


「ともかく、行ってくる」

「頑張ってー!」


 ここからは一人で進む。


 ハトエルを置いて走っていたら、すぐに巨体が見えてきた。


「……」


「さあ、どうした! 魔法少女に変身してみろ!」

「だ、だから本当に私じゃないんですって!」


 なんか変な問答をしている。

 縛られもしないアイリがしりもちを着いていて、それをさっきのデカブツがズイっと脅している。


「どうしても変身しない気か? それならば──不本意だが、少々痛い目にあって貰おうか」

「っ!」


 男がでけえ手を振り上げる。アイリがギュッと目を瞑る。


「待ちなさい!」


「「!!」」


 二人が同時ににこちらに振り向く。

 アイリの顔が驚きに変わり、大男の顔は初めて拝む事になった。


 厳つい奴だ。幅広で彫りの深い中年くらいの男だが、額に鬼のツノみたいなもん生やしてて魔族っぽさが出ている。


 そして、その鋭い眼光に好戦的な兆しが瞬いた。


 とにかく、まずは人質を解放してもらおう。


「私は通りすがりの魔法少女! その女の子を今すぐ放しなさい!」


 アイリが驚きから喜びに顔色を変える。


「あ、貴女はっ!」

「ほーう。貴様だな?」


 大男はノソリとこちらへ体を向けた。


「その姿。なるほど、それが魔法少女というやつか。そんなふざけた格好で本当に戦えると言うのか?」


 正直その意見には同意だ。こんなフリフリコスプレで戦士とかジョークみたいだぜ。


 大男がアイリの方を自嘲じみた笑いで見下ろす。


「ふん。人違いだったとはな。どうも俺は頭が固すぎるらしい。この小娘が魔法少女だと決めつけていたわ」

「だ、だから違うって言ったのに!」

「そう怒るな」


 抗議するようなアイリに苦笑した大男であったが、俺の方へ向け直した顔はピリッと引き締まっていた。


「ふうむ。本当にこんな淫らな格好をした小娘が伝説の戦士なのか?」

「淫らって……」


 だが、微妙に言い返しにくいのが辛いぜ。

 そして、自分がそんな格好してるんだから辛いぜ。


「まあいい。おっと、自己紹介が遅れたな。俺は帝国軍四天王の一人、オニックス。魔法少女よ、サンセットレイクでモンスターどもを蹴散らした少女とは貴様の事か?」

「そうだと言ったら?」

「ほう。信じがたいが、あの村が落ちていないのは事実だ。ふむ。人は見かけによらんな」


 オニックスとかいう奴の不敵な笑みが浮かぶ。辺りに殺気が立ちこめる。


「ククク、久々に血が滾るわ。最近の前線は退屈な事が多くてな。こうやって血肉沸き立つ戦いは久しぶりだ」

「……」


 魔力なのだろうか。

 なんか気配というかオーラのような波動を肌でひしひしと感じる。


 すぐ近くに居るアイリなんてガタガタ震えて立てないでいる。


「それでは魔法少女よ。お手合わせ願おうか?」

「……お手柔らかに」


 やべえ。

 帰りてー。


 いくらモンスター相手に無双したとは言え、相手は雑魚とは違う。最強クラスの四天王。


 そんなのとこんな序盤で戦わなくちゃならねえなんて。ツキがねえぜ。


「ふん! そらああっ!!」


 唸りを上げて飛んでくるパンチ。


「うっ!」


 それを咄嗟に避ける。


 風圧が髪の毛を靡かせていった。


「ふんっ!」


 ──ブウウンッ──


 また飛んでくる拳を避ける。


「……ん?」


 こいつ、迫力はあるが隙が多いな?


 腹パン出来そうだぞ。


「っ!」

「ほう、くるか」


 俺の握りしめた拳を見てニヤリとするオニックス。


「だが、俺の鍛えぬかれた肉体に、果たしてそんなガラス細工のような手で何か出来るか?」

「せいっ!」


 ダメ元だ。食らえ。


 あまり期待せずに正拳突きをレバー部分に叩き込む。


 だが──


 ──ズドンッ──


「ぬぐおっ!!?」

「あり?」


 オニックスの巨体が軽々と吹き飛び、後ろの大木にめり込むように叩きつけられた。




お疲れ様です。次話に続きます。

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