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30話──思わぬ緊急クエスト

 





 俺とハトエルは昨日の森へと入った。俺らのクエスト、薬草採集はまだ終わってないからな。


「よーし。ハトエル、ナビは任せるぞ」

「はいっ! バッチシお任せ!」


 手帳を手にフンスと鼻息をふかせるハトエル。

 昨晩の内にアイリから聞いておいた各薬草のありそうな場所の特徴や採集のコツなどがメモされている。今回は昨日よりは順調に捗るだろう。


「だが、またあのナメクジにも会うかもしれん。油断は禁物だ」

「はいっ」


 俺らは気を引き締めて森を進んだ。



 が、モンスターには全く遭遇せず、お目当ての薬草達があれよあれよと手に入っていく。


 キュア草がほとんどだが、ややレア度が高めというヒールシードまで見つかった。アイリからのアドバイス通り、平凡な色合いの花の中にあった。種みたいな粒。


「なんだ、あっさりだな?」

「ですねえ」


 ワクワクドキドキの冒険もなく、十分な量を確保した。もちろん、それでいいんだが、ちょっと拍子抜けだ。


「ま、無事これクエスト達成なり。戻るか」

「はいっ。報告までがクエストですからね! まだまだ気を引き締めていきましょう!」


 帰りの森も、モンスターの気配すら無く、道に迷うこともなく(ハトエルが天使の勘を持っていて良かったと初めて思った)俺らは村へ戻れた。クエスト終了に一時間もかかってない。


 ギルドに行き、受付にクエストの依頼書を提出して確認してもらう。


「はい、王都支部で受けた依頼ですね。一律依頼なので、こちらで受理させて頂きます」


 一律依頼とは、期限や特別な条件などが基本的になく、多数のギルド支部に大量発注された依頼の事をそう呼ぶらしい。アイリが教えてくれた。

 一律依頼は多数のギルドで共有している依頼なので、依頼書を貰った支部でない別のギルドでも達成報告出来るのが便利だとのこと。

 何時でもどこでも請け負える仕事なので、特に駆け出し冒険者にとって助かる形式のクエストだそうだ。


「採集クエストのため、ただいま奥で鑑定中です。30分ほどでお呼び出来ると思いますので、どうぞ酒場にてお待ち下さい」

「あいよ」


 淡々と進む手続き。まあ、初クエストにしては感動もない淡白な達成になりそうだが、よしとしよう。


 ハトエルとそこら辺の席に着いて水を飲む。


「どんくらい貰えるだろうな。1000リルクは欲しいな」

「そんなには無いんじゃないですか? 最高額はそのくらいだったかもしれませんが」


 とりあえず、ここは王都に近いし、薬草の探し方も少しは理解した。何度も通う事になるだろう。

 そんでもってランクを上げて、ウハウハの金持ちになればハーレムも夢じゃないぜえ。


 そんな風に今後の青写真を頭に浮かべていた時だった。


 ──バタンッ──


「た、大変だー!!」


 ギルドの扉が勢いよく開けられ、一人の冒険者らしき男が転がり込んできた。

 なんとなく見覚えがある。昨日、キングガーニンと戦ってた冒険者の一人のようだ。


「どうした?」

「なんだ、なんだ?」


 付近に居た他の冒険者らがその男を立たせてやる。よく見ると、頭から血を流していた。


「どうした?! またモンスターどもが現れたのか?!」

「ち、違う! さっきまで乗っていた馬車便が変な奴に襲われて……」


「!」


 さっきまでの馬車便?

 それはアイリが乗っていた馬車じゃないのか?


 男が苦しげに呻く。


「お、恐ろしく強い相手にやられた……多分、魔族だと思うっ……」

「な、なに?!」


「っ! ハトエル!」

「はいっ!」


 俺が立ち上がると、ハトエルはピューっとその負傷した男に飛び付き、ヒールを施した。


「お、おお。こんな幼い子がこんなに優れたヒールを……」

「その襲われた馬車便に女の子が乗っていませんでしたか?! 赤い髪のっ」

「あ、ああ、乗ってた。いきなり馬車を襲われて、みんなで戦ったんだが、呆気なく蹴散らされて……でも、俺は逃げてくるだけで必死で……どうなったかは分からない」

「そうですか……望さんっ!」

「行くぞ!」


 ハトエルと共にギルドを飛び出し、男が乗ってきたであろう馬に飛び乗る。


「ちくしょうっ、俺は馬なんか乗った事ねえのによ!」

「それなら私にお任せを!」


 ハトエルが俺の前に座り、馬の首にペタっと手を当てる。


「お馬さん、私達を馬車が襲われた場所に連れてって下さいっ」


 すると、言葉が通じたのか、馬がヒヒーンっと一つ嘶いてぐるんっと村の入り口へと首を向けた。


「お馬さんが私達を案内してくれます! 望さんは振り落とされないように掴まっていて下さい!」

「くう~! 思ったよりグラグラ揺れるんだな、馬の背中ってよ!」


 走り出す馬。振り落とされないようにするだけでも精一杯だ。

 競馬ならよく観てたのに、まさか走る馬がこんなにも揺れるもんだとは思わなかった。ジョッキーってすげえんだな。


「くっ! 急いでくれよ、俺の三冠馬!」


 アイリが心配だ。


 ……。


 いや、ちょっと待て。

 俺は何やってんだ?


 別にあいつは昨日会っただけの少女。

 そりゃあ、世話にはなったし、心配するのは変じゃないかもしんないが……。


 だけど、こんななりふり構わず飛び出していく理由がどこにある?

 乗った事もねえ馬の背に必死にしがみついて行くほどの理由はあるのか?


「……」

「望さん? どうかしたんですか?」

「いや、何でもない」



 とにかく、急がないと。



 ──ドッ、ドドッ、ドドッ──


 20分かそんくらいか。


 馬の走りが急にゆっくりになった。


「あっ! ありました! 馬車です!」


 ハトエルが叫んだ。

 前方には横転した馬車がある。間違いない、俺らも使った定期便だ。


 止まった馬から降りて辺りを見回すと、何人かの人影が倒れていた。


「御者と冒険者の方々です!」


 ハトエルと共に倒れた者の元へ向かう。


「大丈夫! まだ息があります!」


 すぐにヒールをしていくハトエル。

 倒れていた連中は怪我こそしてたものの、みな気絶しているだけであった。


「くう、ぬう! くそ、おめえ……」


 まだ気絶している奴らを馬車の横に引きずっていき、集めておく。

 辺りに倒れていた人間は全部手当てして馬車に集めたがアイリの姿はない。


「う、うぅ~ん……ハッ! こ、ここは?」


 気絶していた一人が目を覚まして辺りをキョロキョロと見回す。


「あ、あんたらが助けてくれたのか?」

「はいっ、もう大丈夫ですよ!」

「なあ、ここで何があったんだ?」

「わ、分からない。突然馬車が何者かに薙ぎ倒されて……みんなで慌てて外に出たら大男が立っていて……それで襲ってきたんだ……間違いない、あれは魔族だ……!」


 魔族。確か、今この国と戦争中のシャドー帝国の奴らの事だよな。トワールとか何とかいう。


「なあ、女の子はどこだ? この馬車に15歳くらいの赤い髪の少女が乗っていたはずなんだが……」

「あ、あの子は大男に連れていかれた……」

「なんだと?!」


 男が悔しげに歯を食い縛る。


「奴の目的はあの子だったらしい。何か妙な事を言っていた。『こいつが魔法少女なのか』とか……」

「なんだって?」


 アイリは魔法少女じゃない。つうか、ここに魔法少女本人が居る。


 その大男が何者で、なんで魔法少女を探していたのかは知らないが、見る目がないな。完全に人違いだ。


 いや、よく考えりゃ見る目があるから間違えてアイリを連れていったのか。年頃も近いし。


「そいつはどっちに行った?!」

「あ、あっちの方だ」


 男の指差す方。森の方角だ。


「よしっ、俺らは後を追う。一人でここを守れるか?!」

「大丈夫とは言えないが……俺も冒険者のはしくれだ。なんとかする」

「すみませんっ、よろしくお願いします!」


 俺とハトエルはその場を後にして、アイリを拐ったという大男が行った方へ向かった。


「しかし、一体何者なんだその男はっ……」

「分かりませんが、冒険者の皆さんをみんな倒してしまった相手ですっ! 気をつけましょう!」

「相当強そうだな……」



 せり上がる不安を胸に押し止め、ハトエルと森の中を走る。


「こっちです! 天使の第六感がこっちだと言っています!」



お疲れ様です。次話に続きます。

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