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29話──別れも冒険の醍醐味

 




 熱の入ったアイリの魔法少女語りはクソ長く続き、気がつけば外は真っ暗。


 壁の置時計は9時の位置を指していた。


「あっ、いけない。私、つい夢中になって。ごめんなさいハトエルちゃん、ノゾムさん」

「ううん、私もすごく勉強になりましたから! ありがとう、アイリさん!」


 確かに勉強になった。

 興味ねえ話に適当に相づち打つコツを学べる良い機会だったぜ。


「それじゃあ、そろそろ寝ましょうか。部屋に案内しますね」

「おう、頼むわ」


 食事も終わり、大きな荷物を持ったアイリに従い、奢りで泊まれる部屋へ三人で向かう。


「ごめんね、私、魔法少女の事になるとちょっと我を忘れちゃって」

「ふふ、アイリさんは魔法少女が好きなんですね」

「うん。憧れなの」


 うっとりするアイリ。


「だって、あんなに強くて、あんなにカッコよくて、あんなに優しくて、すっごく可愛いんだもの。もう、女の子の理想そのものって感じ。伝説の通りだったなー」


 ふ。褒めてくれてありがとよ。

 正体が俺だと知ったら自殺するかもしんないな。一人の少女の尊い命のためにも守秘せねば。


「でも、どうして今になって魔法少女が現れたんだろう? もうなん百年も前の存在なのに。というか、同じ人なのかな? うーん」


 勝手に一人で悩み出していた。

 まあ、多分その伝説とは別人だぜ。果たして本当に実在していたならの話だが。



 二階に上がり、軋む音の床を歩いていき、突き当たりの部屋でアイリがカギを差し込む。


 ──カチャ──


「どうぞ」

「わあー! 宿屋だー!」


 ガキっぽくはしゃいだハトエルが部屋の中へと走り込んでいく。

 俺も後に続く。


「おおー」


 中はまさにファンタジーで見るような内装の部屋だ。

 木で出来た床に壁、天井。窓の枠も素材そのままの木で造られたような感じだ。

 壁紙は少し古びていて、備え付けのテーブルも味のある古臭さを醸し出している。


 部屋の天井の中央に大きなランプがぶら下がっており、明かりはそれだけだ。

 ほんのりと中途半端な明るさが部屋の雰囲気にマッチしている。


 粗末で素朴な感じが、未発達な文明力を感じさせて、異世界らしさを味あわせてくれる。


「へえー。良い部屋じゃんか」

「見て下さい、パパー! ほら、これ可愛いスタンドライトです!」

「おう、良いな。お、こっちには備え付けのチェストか。ちっ、空か。金とか忘れ物があるかと期待したんだが」

「もー、考え方がセコいですってー」


 俺らのアホなやりとりを、アイリはニコニコと楽しそうに笑って見ていた。


「ふふ。もしかして、ギルドに泊まるのは初めてですか?」

「おう、初めてだ。なんかワクワクするな」

「私もです! わーいっ、ベッドへダイブー! ばっふーん!」


 ボフンっとベッドに飛び込むハトエル。二つある内の一つでコロンっと寝転ぶ。


「ふあー。眠くなる~」

「おい、何やってんだ」


 ベッドからハトエルを引きずり落とす。


「な、何するんですか~」

「見て分からんのか。ベッドは二つだ」

「だからなんですか?」

「俺らは三人だ」

「だからなんですか?」

「つまり、一つ足りない」

「だからなんですか?」

「なるほど、理解力も足りないようだな」


 ハトエルを押しやりながらベッドに座る。


「要は一人はベッドに寝れないって事だ。俺はもちろんベッドだし、アイリは金を払ってくれてるんだから当然ベッド。という事は消去法的にいくとお前が床で寝るという事になる」

「なんでですか~! 消去法で言ったらのぞ……パパが床じゃないですかー!」

「俺はVIPだぞ!」

「うえ~ん! ほんとにろくでなしだー!」

「あ、あのっ、大丈夫ですよ?」


 ベッドをよじ登るハトエルを足で弾き落としていたところで、アイリが困ったように言った。


「私が床で寝ますので、二人はベッドを使って下さい」

「え? マジ?」


 こいつ正気か? 自分で金払っておいて床で寝るだと?


 だが、それなら話はスムーズで助かる。ここは遠慮なく寝させてもらうぜ。


「そうか、悪いな。ほれ、ハトエルお礼を言っておけ」

「ちょっとパパ!」


 ハトエルが耳元で小声で怒る。


「こんなにお世話になっておきながら、床で寝させようなんて、貴方には良心が無いのですか?!」

「うるせえっ。本人が良いって言ってるんだからいいだろ」

「なら、女の子を床で寝させるんですね? そして望さんはベッドでグースカなんですね?」

「う……」


 アイリは何も気にする様子もなく、荷物からゴソゴソと布を出している。多分、野宿用の寝具だろう。


 少しは不満そうな顔をしてもいいだろうに。


「……はぁ~……分かったよ。なら──」

「おおっ、流石大人!」

「俺とお前でじゃんけんな。負けたら床だ」

「私の感心を返して!」


 ──じゃんけん……──


 ──ポン──






「ちくしょう……」

「あ、あの。本当にノゾムさんが床で良いんですか?」

「あー、いい、いい。まあ、女の子を床で寝させていたら寝つきが悪くなるからな。これでぐっすり眠れるってもんだ」

「はあ、そうですか」

「グピ~、クゥー、クピ~」


 馬鹿天使は早くもだらしなく眠ってやがる。このまま腹パンして永眠させてやろうか。


「その代わりって言っちゃなんだがよ、この寝具借りてもいいか?」

「はい、もちろんです。それじゃあ、そろそろ寝ましょうか」


 アイリが照明の灯を落とす。

 すぐに真っ暗になった。


「ノゾムさん」

「ん?」

「ありがとうございます。お休みなさい」

「ああ、おつかれさん」


 まあ。

 これでいっか。






 ─────────────────





 ───チチッ、チュンチュン……───



「う、ふぉ……」


 小鳥のさえずりと共に爽やかな朝の目覚めが訪れる。


「……朝、か」


 窓から入ってくる清らかな日の光が眩しいぜ。床で寝たからちょっと体が痛いけど。


 だが、悪くないじゃないか。こういう目覚めも。さて、起きるか二度寝するか迷うな。


「クピ~、ンム~」


 ──ゴロン、ドサッ──


「おっぐっふう!?」

「ムニャ~」


 朝の爽やかムードを、寝ぼけハトエル隕石が絶滅させてきた。





「うぅ~、アイリさん! お腹の上に落ちちゃっただけなのに酷いと思いませんか?!」

「ノゾムさん、子供の寝相の悪さくらい大目に見てあげなきゃ駄目ですよ」

「寝相の悪さ以外にも、頭の悪さとツキの悪さと相性の悪さも大目に見なきゃいけねえな」

「わ~ん! 私が諸悪の根源みたいになってる!」


 元凶だろうが。俺のこのシュールな異世界生活の。



 朝起きて、ハトエルにお仕置きグリグリをやってから、俺らは朝食をとることにした。もちろん、またしてもアイリの奢りだ。

 聞くところによると、アイリは15歳だそうだ。自分の半分近くしか生きてない少女に養われるあたり、俺にはニートとヒモの才能があったようだ。


「何時までも世話になるわけにもいかねえからな。ハトエル、飯食ったらクエストの続きだ」

「はい、そうですね。アイリさんに一泊のお金と二食分のお金を返せるように稼がなきゃ」

「あ、いいんだよハトエルちゃん。私の事は気にしないで。お父さんと一緒にクエスト頑張ってね」

「ほんとにアイリさんは素晴らしい方です。あーあー。アイリさんが魔法少女なら良かったのに~」


 ムカつくが、その意見には同意だ。


「あはは、魔法少女かあ。私もあんな風になれたらな~」


 やはり、アイリは夢見るようにどこか遠くを見ていた。

 おそらく、俺のあの姿を思い浮かべているのだろう。




 飯を食った後、ちょうど定期便の馬車が来た。アイリはそれに乗って王都に行くのだそうだ。


「じゃあ、世話になったな。まあ、ハトエルじゃねえけど、何かで借りを返してやれるようボチボチやるわ」

「いえ、そんな。お気になさらず。私も久しぶりに楽しい時間を過ごせましたし。ハトエルちゃん、元気でね」

「うぅ、アイリさんとお別れなんて寂しいよ~」

「泣くなよ。王都に住んでるってんならご近所さんだ。また会えるだろ」

「ずずっ、そうですね……」


 まあ、また困った時に頼る気まんまんなのは我ながら情けないが。


「それじゃあ、さよなら。王都のギルドにもちょくちょくお昼とか食べに行くと思うので、良かったら顔を出してみて下さい」

「おう、そうするわ」

「また会いましょう!」


 他にも数人の冒険者らを乗せて、馬車はゴトゴトと走り出した。



 遠ざかるアイリを最後まで見送り、俺とハトエルは森へと向かった。



お疲れ様です。次話に続きます。

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