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25話──またまた変身

 





「っ!?」


「ええぇ~んっ!! うえええぇぇん!」


 隠れていたのだろうか。

 近くの物置小屋らしき中で幼い女の子が泣いている。


 そこへ、例のアッシドスラッグが這い寄ってきていた。


「!! 危ないっ!」


「ええぇ~んっ! うわわああ~ん!」


 剣を抜き払い、女の子とナメクジの間に駆け込む。


「やめろおおおおっ!!」


 今にも女の子に襲いかかりそうなスラッグに切っ先を突き刺す。


『ジュルルル……』


 気味の悪いうねり。この動作は知っている。


「っ!」


 咄嗟に女の子を抱き寄せて包む。

 その直後、背中に何かがかかる感触がして、すぐに激痛が走った。


「ぐわあっ!?」


 まるで、ヤスリで背中全面を一気に削がれたかのようだ。


「くっ、うおおお!!」


 痛みを堪え、もう一度剣の切っ先をスラッグに突き刺す。


 ──ズドッッ──


『ジュルルルル……』


 今度は頭部らしき部位に深々と突き刺さった。殺意が消えていき、ナメクジモンスターがグニャリと脱力して倒れる。


「はあっ、はあっ、くっ、いってえ……」

「うえぇ、うぅ、ひっぐ……」


「望さん! 大丈夫ですか?!」


 ハトエルが飛び込んでくる。


「!? 望さんっ! 背中がっ……」

「ハ、ハトエル。この子を安全な所まで……」

「は、はいっ! さ、もう泣かないで? 私達が居るから」

「うええええんっ、ママ~!!」


 泣き喚く子供を連れて、迫るモンスター達を横目にギルドへと急ぐ。


「と、ともかく、ギルドに預けるぞ……つっ……ちくしょう、ビリビリしてきやがる……!」

「ま、待って下さい、今すぐヒールを……」

「んな事より走れ! モタモタしてたら囲まれるぞ!」

「は、はいっ!」


 くそ、背中が痛すぎて思考が回らねえ。


 だが、なんとか耐えて走っていると、兵士と思われる二人組が俺らに気づいて駆け寄ってきた。


「大丈夫か?! やられたのか?!」

「その子は?!」

「俺は平気だっ……どうやら母親とはぐれたらしい、保護してやってくれっ……」

「分かった!」

「さ、早く!」


 未だに泣き止まない女の子を兵士らが手を握って連れていく。


「つつっ……くそっ……!」


 背中の痛みがヤバい。かなり酷くやられたようだ。


「じっとしててください! 神よ、どうかこの方に癒しを、ヒール!」


 ハトエルの声と共に、じんわりとした温かみが背中に伝わってきた。

 そして、全神経をつついていた痛みがスゥーっと消えていった。


「っふうぅ~! い、生き返った~! ハトエル、この世界で初めてお前に感謝したぜ」

「いえ、そんな……あ、あの、望さん」

「ん? なんだ?」

「あの、望さんは──」


「うわああ!!?」


「「!?」」


 兵士らの去った方。

 そっちから悲鳴が聞こえた。


 さっきの兵士達と女の子がアッシドスラッグの群れに襲われていた。


 建物や地形によって袋小路のようになってしまっている場所に、三人は追い詰められている。


「っ、しまった!」


 剣で──


「!」


 さっきの奴に突き刺したままだ。

 それに、例え剣があったところであんな数相手じゃ……。


「う、うわああ!!?」

「く、くそお! や、やめろお!」

「うええぇ~ん、ええ~んっ!」


「っ!!」

「あ、望さん!? どこへ!?」


 踵を返して走り出した俺の腕をハトエルが掴んだ。


「お願いです! 助けてあげてください! もう義務だとか、やらなきゃいけないとは言いませんっ、でも……!」

「離せっ!」


 ハトエルの手を振りほどく。


 俺はそのまま、家屋の物陰に飛び込んだ。

 ハトエルも追いかけるように滑り込んできた。


「あんな子供まで見捨てるんですか?!」

「馬鹿っ! 見られる訳にはいかないだろ!」

「えっ?!」


 ポケットに手を突っ込む。指先に触れる宝石の感触。


「おいっ、ハトエル、誰も周りに居ねえな?!」

「!! はいっ!」


 ハトエルの泣き面が、喜び一色に変わった。



「……シャイニー・リンクル!」


 クリスタルを引き抜いて、掲げて叫ぶ。


 辺りに光の洪水が溢れ、全てが包みこまれていく。またあの変身空間に誘われていく。



 光の帯がスルスルと全身を包んでいき、弾ける輝きが俺を変えていく。




 ──バキッ、ベキッ、ボキッボキッ──


 ──ドサッ──


「う、うげげぇ……た、頼むからよ……変身する度に瀕死になる仕様はどうにかしてくれ……ウオエエェ……」

「ホ、ホープ! 大丈夫ですか?」


 せっかく人が自ら進んで変身したって言うのに、無慈悲な吐き気。

 やっぱやんなきゃよかった……。


 だが、これで変身完了だ。


 俺の全身は、あの憎たらしいフリフリドレスにフォームアップされていた。

 頭の上で羽飾りが揺れる感覚がする。


「オエエェッ、うッぷ……ふぅ、よしっ! まずは、あのナメクジどもから!」


「うわああああ?!」


 一際大きな悲鳴が聞こえたと同時に物陰から飛び出す。


 さっきよりもさらにアッシドスラッグの数は増え、群れとなってそこらに溢れている。


「げええ、気持ちわりい……」

「ホープっ、ほら、王女様に言われたように魔法少女としての振る舞いを!」

「チッ、せっかく変身したのに説教かよ」


 まあ、だがやってやる。


「って……よくよく考えたら、こいつら素手で殴んなきゃならねえのか……」


 そもそも、剣も通さない肉体にパンチなんか効くのか?


「ああっ、もうヤケだ! オラアッ!」


 ──ズドッ──


『ジュ……』


 向かってきたアッシドスラッグを殴った。

 殴った瞬間、その身体が破裂するように弾けた。

 俺の渾身の剣をほとんど寄せ付けなかったあのナメクジが爆散。


「うええっ?! ま、マジで威力ヤバくねえか?」


『ジュルルル……』


 一匹を倒したら、通りに居るアッシドスラッグが全て俺の方へ向いた。

 襲われていた兵士らも俺に気づいて声を上げた。


「き、君っ、逃げなさい!」

「こっちに来ちゃ駄目だ!」


「えっと~……」


 演技、演技……魔法少女、魔法少女……。優しくて可憐な正義の味方……。


「……待っててね! 私がすぐ助けに行くから!」


 くそ。

 めっちゃ恥ずかしい。


 だが、ここは我慢だ。


「だ、駄目だ!」

「来るな! 逃げろ!」


 スラッグどもは兵士らには目もくれず、全部俺へと押し寄せてきた。


「ホープっ、来ます!」

「! っしゃ!」


 ──ズドッ──


 先頭のナメクジを殴り飛ばすと、4、5体を巻き込みながら、通りの端っこまで吹き飛んでいった。


 ──ドオオンッ──


 土ボコりが爆煙のように立ち上る。


「らあっ!」


 ──ドオオッ──


 蹴りをくれてやると、不恰好な肉体は塵のように舞い上がって、はるか遠くでべちゃっと落ちた。


「どりゃあ!」


 ──ズッドオオンッ──


 ナメクジ達はあれよあれよと破裂していき、そこら中に無惨な屍が横たわっていった。


 回し蹴りをかますと、蹴りの風圧だけでドミノ倒しに吹き飛び、殴り飛ばした個体が砲弾のようになって周囲の奴を巻き込む。


『ジュルルル』


「うっわ?!」


 あのきたねえ汁を一度にぶっかけられる。が、全く痛くない。


「全然効かねえ……」

「魔法少女ですから! 物理、魔法、状態異常、全てに対して驚異的な耐性を持ってます!」

「うげ~、ヌルヌルして気持ちわりい……」


 しかし、そのヌルヌルや汚れも身体から滲む不思議な光によってスゥーっと消えていく。どうやらこの姿は浄化作用付きのようだ。


「でやあっ!!」


 ──ズガアアアッ──



 1分かからないくらいで、通りに溢れていたアッシドスラッグは全滅した。


「ふうー。終わった……」


 周囲を警戒しつつ、さっき襲われていた兵士らの元へ行くと、唖然として俺を見ていた。


「う、嘘だろ?」

「し、信じられない……」

「お姉ちゃん、すごーいっ!」


 女の子は泣き止んで、キラキラした目を俺に向けていた。


 兵士達は酸を浴びたのか、ところどころ怪我しているが、子供は無事のようだ。


「えーっと……大丈夫だった?」


 演技、演技……。


 女の子の頭に手を置く。


「もう大丈夫だからね。兵士のお兄さん達と一緒に安全な所で隠れていてね」

「うんっ! ありがとう、綺麗なお姉ちゃん!」

「き、君っ、君は誰なんだ?!」


 立ち去ろうとする俺の背中に兵士の声がかかった。


「その凄まじい力っ、君は一体……?」

「……私は通りすがりの魔法少女」

「えっ?」

「もう行かなくちゃ。他にも戦ってる人達が居るから」

「あっ、君!」


 その場を離れ、船着き場の方へと走る。

 物陰から見守っていたハトエルが飛び出して、俺の腕に掴まった。


「いいですよ、ホープ! その調子です! 魔法少女らしさもバッチシですよ!」

「はぁ~。戦いよりもこっちで疲れる……」


 やっぱ変身しなきゃよかった……。




お疲れ様です。次話に続きます。

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