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23話──薬草探し

 





 もう日がだいぶ傾いてきて、森の中が暗くなり始めている。


「あのー。もうすぐ夕方になりますし、明日にしませんか?」

「もちろん明日も探す。が、今日の内に一つでもいいからポイントを見つけておきたい」

「はあ」


 俺、ハトエル、そしてアイリの三人は森へ来ている。

 あの屈辱的な退却を余儀なくされたナメクジ森だ。




 先ほどのギルドで、俺は薬草クエストと森での敗退をアイリに話し、ぜひ協力して欲しいと頼んだ。すなわち、薬草の探し方といざという時の援護をだ。


 まあ、会った初日から随分と図々しい頼みなのは承知だが、こちとら生活がかかってるんでなりふり構わずだ。


 正直言って断られると思ったし、断られても仕方ないと思っていたが、なんとアイリは承諾してくれ、今こうして森へのクエストに同伴してくれているのだ。


 聞くところによると、冒険者になってまだ半年かそんくらいらしいが、この手のクエストは既に何度もやった事があるらしく、俺にとっては大先輩に当たる。


 それにしても、今日会ったばかりの男にホイホイついてくるなんて、警戒心足りなくないか?

 俺が紳士的なナイスガイで命拾いしたな、冒険者美少女よ。悪い大人だったら今頃睡眠薬コースでエロい、じゃなくて、エライ目にあってたぞ。


 どうやら温厚なだけではなく、かなりお人好しな性格のようだ。




「くそ~。あのクソザコナメクジどもめ~。今度会ったらリベンジして全部駆除してやる」

「でも、まさかノゾムさんがルーキーだったとは。今日が初クエストなんて大変ですね」


 アイリが先を歩いて、薬草のポイントを探しながら言う。


「戦闘経験があまり無いなら無理はしない方がいいですよ。アッシドスラッグは比較的弱いモンスターとは言え、弾力があって頑丈な肉質をしてますから。魔法にもある程度の耐性はありますが、氷魔法は弱点なので、それを会得してから挑むのがオススメです」

「ほう、そのアドバイス。お主、できるな」

「あはは、一応先輩ですから」


 先輩という立場がこそばゆいのか、嬉しそうにくすぐったがっている。


「えっと、ヒールシードはもう少し奥に行かないと見つからないと思うけど、キュア草なら……あ、ありました!」

「おおっ、マジで?!」


 早速、あっさりと目的の物を見つけたアイリ。なかなか有能だ。


「こちらがキュア草になりますね」


 地面に張り巡らされた木の根の間から生える抹茶色の地味な草。一見するとそこらの雑草と変わらないが、葉の裏側に特徴的なまだら模様がある。


 薬屋で買った見本と比べても特徴が一致する。


「キュア草は木の根の間に生える事が多い薬草です。群生する事は稀ですが、樹齢の重なった大木の密集する森などでは多く取る事が出来ます」

「へえ、勉強になるな。まるでキノコだ。ハトエル、メモっておけ」

「はいっ……て、自分でもメモして下さいよー」


 早速、その薬草を採取する。

 慎重に根元を持って引くと、簡単に採れた。


「よーしっ。俺の初めての獲物だー!」


 ポーチに入れるこの快感よ。充実感が高まる。


「ふはははっ、クエスト達成も近いな!」

「……ふふ」

「ん?」

「あ、ごめんなさい」


 俺を見て小さく笑ったアイリ。


「なんだか、そんなに喜んでいるのを見てたら私も嬉しくなっちゃって」

「そうか?」

「はい。やっぱり、誰かが楽しそうにしてたり、喜んでいるのって良いですよね。そういうのに出会えると、ああ、良かったなーって」


 頭お花畑はハトエルだけかと思っていたが、こいつも負けず劣らずのボケ加減を感じるぞ。

 と、やはりというか、ハトエルが感極まったようにうるうるしてアイリの手を握った。


「す、素晴らしい心の持ち主です! なんて清らかで愛に満ちた心でしょう! 貴女のような人はきっと天の加護に恵まれるでしょう!」

「な、なんだか壮大だね。でも、ありがとうねハトエルちゃん。ふふ、今のまるで本物の天使様みたいだったよ」

「えへへ~、そうですか~? むふふ~」


 能天気どうし気が合ったようで何よりだ。


「ありがとなアイリ。おかげで俺も一つクエスト達成に近づいたぜ」

「いえいえ、お役に立てて光栄です。じゃあ、もうそろそろ暗くなりますし、今日は戻りましょうか」

「そうだな。出来りゃこの勢いでもっとクエスト進めたいが、先輩の判断だ。従おう」

「ふふ、ありがとうございます」


 ここは経験者の意見に従い、クエストを一旦切り上げる事にしよう。



 森を歩き、村を目指す。

 その途中でアイリと色々話す。


「でも、どうしてお父さんのクエストにハトエルちゃんはついてきてるの?」

「それはもちろん、パパを守るためです」

「守る?」

「えーっと、パパは冒険者になったばかりだし、この土地の事はよく知らないから私がナビゲートしてあげてるんです」

「偉そうな事ほざいてるが、要は暇だからついてきたんだよ」

「違いますよ!」


 アイリはまたも不思議そうな目で俺らを見た。


「なんだが、父娘っぽくないような?」

「そんな事ないぞ。俺みたいなナイスガイの子で生まれてハトエルも幸せだもんな」

「え~ん、もっと素敵なパパの子に生まれたかったー」

「このガキ……」


 やっぱ腹パンだな。後でおみまいしてやる。


 アイリはと言うと不審に思ってるのか、じっとこちらを見ていたが、柔らかく微笑んだ。


「なんだか羨ましいです。お父さんと一緒だなんて」

「そうか?」

「はい。私は父を幼い頃に亡くしてますから」


 少し寂しそうな笑み。


「だから、仲の良い二人が羨ましいです」


 しんみりとしてるとこ悪いがアイリちゃんよ。

 目腐ってんのか? 俺らのどこが仲良く見えるってんだよ。


「あ、そろそろ森を抜けますね」


 話してる内に村へと戻れた。黄金色の光が湖をキラキラと黄金郷へと変えている。


 なんだかんだ言って疲れたな。

 次の馬車便が何時来るか知らんが、ギルドで水でも飲みながら待つか。


「ふうー。戻れたな。アイリ、今日はサンキューな。報酬は無いが、俺からの真心を込めた礼をやろう」

「あ、あはは……わ、わーい。嬉しいな」

「おい、無理すんな。笑顔がひきつってるぞ」

「い、いえっ。嬉しいですよ、うん」


 気を遣いやがって。俺みたいな冴えないアラサーの言葉なんて価値ねえか。やっぱ礼なんて言うもんじゃねえな。


「もう。パパ、そんな高慢なお礼なんかありませんよ。こうやるんです」


 ハトエルが満面の笑みをにこにこと上げて、アイリの手を握った。


「ありがとうございましたっ、アイリさん!」

「ふふっ、どういたしまして」


 俺とは表情も態度も違う対応をするアイリ。

 くそ、やはり独身男はこういうとこで損するぜ。

 いや。俺という人間性のせいか。


「ちっ、ガキのあざとさを使いやがって。俺もあと二十年若かったら同じ事してるぜ」

「でも、望さん──パパは中身がな~」

「このガキっ!」

「た、助けてアイリさん~!」


 自分の腰の後ろに隠れたハトエルに、アイリは困ったように笑っていた。


 その少女の小さな笑顔は、不思議と羨ましいような気持ちになった。



 そんな風に楽しげな雰囲気になっていた時だ。



「大変だー!!」


「「「!?」」」


 突然、岸辺の方から緊迫した大声がした。


「大変だー!! 船着き場に“キングガーニン”が現れたぞー!」


 血相を変えた男が走りながら、村中に警鐘のように喚き散らしていく。


 隣でアイリが息を飲む音がした。


「キ、キングガーニンが……」

「おい、なんなんだよ、そのふざけたがに股星人みたいな名前のは」


 そう聞くと、アイリは強張った顔で答えた。


「上級モンスターです。普段は対岸側のエリアを住み処にしているカニに似た大型のモンスター。ガーニンガという中型のモンスターの中で巨大化したものをそう呼びます」

「強いのか?」

「かなり……」


 マジかよ。そんなのがこの漁村に現れたのか。


「と、とにかくっ、ギルドへ戻りましょう! おそらくクエストとして緊急の要請が入ってるはずです!」


 そう言って走り出すアイリ。

 俺とハトエルはその場で顔を見合わせた。


「どうする?」

「事態は切迫してるみたいですし、ここは手助けした方がいいですよ!」

「でもなあ、上級モンスターだろ? 俺はザコナメクジ相手でも手こずってるからな」

「えっ、まさか戦わないんですか?」

「ああ」

「な、なんでですか!?」

「なんでも何も、そんなの俺の勝手だろ?」


 ここは要所じゃないっぽいし、王女様からの依頼も無いからな。


「それに、他の冒険者だって居るんだろ? なら、そいつらに任せときゃいいじゃん」

「そ、そうかもしれませんが……」

「とりあえず、状況確認しにギルドへ行くか」

「……」


 まだ何か言いたげなハトエルを連れてギルドの方へと向かう。




お疲れ様です。次話に続きます。

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