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22話──異世界少女アイリ

 





 突如声を掛けてきた謎の美少女。


 冒険者風の格好と言うか、サマになる外套を肩に掛けて、手にはいかにも魔法使いのロッド的な杖を持っている。


 歳の頃は10代半ばくらいか。

 柔らかな丸い目尻は人の善さを伝えてくるようで、純粋で澄んだ瞳だ。

 口元は、まだあどけない少女の未熟さを嫌味のない色香で彩っており、瑞々しさがある。

 人懐っこくて優しそうな、あどけなさの残る顔立ちだが、赤い髪は少し大人びた美しさを醸している。


 これぞファンタジー醍醐味の謎の美少女じゃないか。



「あ、あの。そちらの女の子は? 嫌がってるようですが……」


 と、挨拶もなく遠慮がちに、しかし少し非難めいた目を俺に向けてくる謎の少女。


「子供に暴力を振るっているのですか?」

「あん? んだよ、お嬢ちゃん。人の事情に首突っ込まないでもらいてえな、ああん?」


 俺が誠実な態度をもってして、この教育の正当性を主張すると、ハトエルが逃げ出して少女に飛びついた。


「助けてください、お姉さん! このおじさんが虐めるんです!」

「おじっ……! それは言ってはいけない言葉だぞおっ! このクソガキ~!」

「わ~ん! 怖いよ~!」

「やめてください!」


 ハトエルに制裁グリグリをしようとしたところで、少女が立ちはだかった。


「いい歳した大人が、こんな幼い子をいじめて恥ずかしくないんですか!」


 絵に描いたような正義感溢れる良い子ちゃんだ。普通なら厄介事なんか見て見ぬふりするのが社会常識だというのに、自らの身を盾にして子供(アホ天使)を庇うとは。


 しかし、見ず知らずの年下のガキにこんな咎められるような態度をとられると、俺のやさぐれ根性の火に油を注ぐようなもんだぜ。


「うるせえ。人の家庭の事情に口出すんじゃ……ん? あれ? お前……」


 あれ? この謎の美少女。どっかで見た事あるような。


「んん? おい、お前。どっかで会ったか?」

「貴方みたいな悪漢なんか知りません!」


 けっこう傷ついたぞ。今の言葉。


「んん~? あれ? お姉さん、どこかで会った事ありませんか?」


 と、そこでハトエルも同じ感想を抱いたらしく、少女の顔をまじまじと見上げていた。


「あれー。どこかで……」

「?」

「んー…………あっ!? ああっ!?」

「わっ?! ど、どうしたの?!」


 ハトエルが驚きの声を上げたかと思うと、こちらに飛び戻ってきて、俺の耳を引っ張った。


「いててっ!? 何しやがる!?」

「あの子、この間森で助けた女の子ですよ!」

「えっ?」


 少女には聞こえないくらいの音量で、声を弾ませて耳打ちするハトエル。


「ほら、あの綺麗な髪とか。見覚えありませんか?」

「言われてみりゃあ、確かに……」


 なるほど。確かにこの間の気絶少女だ。あの時はほとんど動いてるとこを見なかったから気がつかなかった。


「よかったー。あの後無事に目を覚ましたんですね。なんか、自分で助けた人が元気でいると嬉しい感動がありますね」

「助けてやったのは俺だろうがっ」


 いや、待てよ。

 そうだ、そうじゃないか。

 俺が助けてやったのに、生意気にも俺の事を悪漢呼ばわりしやがったな。


「よおし」


 ハトエルを引き離して、少女に指差してやる。


「おいっ、聞け! 謎の冒険者少女!」

「えっ? わ、私の事ですか?」

「そうだ。お前、命の恩人に対してなんだその態度は?! 恥を知れ、恥を!」

「は、はあ? 私の命の恩人?」

「そうだっ、俺がお前を介抱してやって──ぐぼっ!」


 良いところでハトエルヘッドアタックが鳩尾に入り、俺はダウンした。


「う、ごごごごぉ……」

「何考えてるんですかーっ」


 小声で詰めてくるハトエル。


「貴方が魔法少女という事は秘密なんですからね!」

「そ、そうだった……」


 俺だってあんな姿の本人だなんて身バレはまっぴらごめんだ。


「だが──このクソガキー!!」


 ──ガシッ、グリリ~──


「わまま~!!」

「よくもやりやがったな!」

「うまがまま~! 助けて~!」


「……仲、良いのかな?」


 冒険者少女の困惑したような視線がこちらに向けられていた。







「そうですか。父娘だったんですね」

「ああ、まあな。頭が壊滅的に悪く、世間知らずで出来の悪い娘だが」

「ひどいっ。ねえ、お姉さん! ひどいと思いませんか?!」

「そ、そうだね。お父さん、あまり子供を悪く言っちゃ可哀想ですよ」

「こいつは図に乗りやすいからいいんだ」



 とりあえず、三人でギルドへ入り、俺とハトエルは親子だという嘘を少女に吹き込んだ。

 お子様でも安心な木の実ジュースとナッツクッキーのおやつを囲んでの会話が進む。


「あ、自己紹介がまだでしたね。私はアイリと言います。冒険者をやっています」

「俺は望。こっちはハトエル」

「ノゾム? 変わったお名前ですね。それに、ハトエルちゃんですか。ふふ、エルって付いてるってことは天使様の名前を貰ったんだね~」

「そうなんですっ。ほら、私ってば天使みたいって言われるんですっ」

「うん。天使様に負けないくらい可愛いね」

「えへへ~。アイリさん優しくて好き~」


 アホ天使の戯れ言にも笑顔で接するあたり、心の広い人種なのだろう。



 それにしても、アイリか。

 改めて見ると、けっこう可愛い。ファンタジー系冒険者あるあるの美少女だ。

 第一印象から思った通り、真面目で優しくて、人当たりの良い娘のようだな。

 性格もだが(つら)も良い。


「あ、あの。私の顔に何か付いてますか?」

「おっと、これは失礼」


 普通に遠慮なく観察してたら訝しげな目で見られた。


「いや、その若さで冒険者なんて職業やってるからよ。苦労してんなーって思ってさ」

「いえ、それほどは。まだルーキーみたいなものですし」

「ふーん」


 しかし、こんな少女が冒険者ねえ。

 よくよく考えたら、未成年のガキどもが毎日のように命を賭ける冒険者なんかやってるのって物騒だよな。

 まあ、こいつも何か事情があるんだろう。


「なるほど。事情があるんだな」

「ええ、まあ」


 ちょっと言葉を濁すアイリ。ここは場を和やかにするジョークでも言ってやるか。


「ふっ、当ててやろう。きっと、幼い頃から貧しい生活をしてて、病弱な母親の薬代を稼ぐために冒険者なんかやってるんだろう」

「えっ?! す、すごいですね。まさにその通りです」

「え!? 嘘?! 当てちまった!?」

「望さん!! じゃなくて、パパ!」


 ハトエルがポコポコと叩いてきた。


「なんて失礼な事言ってるんですかー! ノンデリにも程がありますよ!!」

「いててっ、わ、悪かったって! 悪気はなかったんだ!」


 まさかデタラメが当たるとは。しかし、流石に今のは失礼だったな。


 気まずい思いでアイリの方を伺うと、不思議そうな表情で俺らを見ていた。


「なんだか、お二人は不思議な父娘ですね?」

「そ、そうか?」

「はい。その、失礼ですがあまり似てないような」

「ハハ、よく言われるよ~。なあ、ハトエル~」

「うん、パパ~っ」


 こんなバカが俺の子だったら即DNA鑑定だ。


「あっ。ノゾムさん、その腕」


 アイリがハッとして俺の腕を指差した。


「怪我されてるじゃないですか」

「ん? ああ、そういやそうだったな」


 もうあんまし痛くないから忘れていたが、俺の腕はまだ酷い有り様だった。


「一体どうされたんですか?」

「いや、さっき森で変なナメクジに汚え汁ぶっかけられてよ」

「アッシドスラッグですか? でも、なんで森に?」

「ああ、それはだな。俺も同業者でな」


 そうだ。せっかく貰った腕章を着けてなかった。


 ポーチん中に入れておいたギルド腕章を見せる。


「ほれ、俺も冒険者だ」

「あ、本当ですね」


 心配そうな顔になるアイリ。


「大丈夫ですか? アッシドスラッグの溶解液はヒールしても傷に残りやすいですよ」

「そうなんか?」

「ともかく、今治しますね」


 そう言うや杖を持って、その先端を俺の傷に向けた。


「いきますね。“ヒール”」


 味気ない詠唱と共に淡い光が生まれ、腕の傷がみるみる治っていった。痛みも完全に消える。


「はい、もう大丈夫ですよ」

「おおー、サンキュー。助かった」


 何気にハトエル以外の魔法を初めて見た。


「魔法って便利だなー。やっぱ異世界ファンタジーはこうでなくちゃな」

「いせかいファンタジー?」

「いや、気にすんな。それより、その杖といい、今のヒールといい、お前は魔法使いか?」

「はい。私は後衛の補助魔術師です。そこまで高位の魔法は使えませんが、一般的な回復魔法や補助魔法ならそこそこ使えます」

「おお、すげー」


 いいなー。俺も魔法使いてーな。て言うか、使えるのか?


 まあ、それよりもだ。

 閃いたぞ。


「なあ、アイリ。少しお願いがあるんだが~」

「?」



 やっぱRPGと言ったら、パーティーだよな。



お疲れ様です。次話に続きます。

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