21話──出会い
ガタガタ揺れる馬車。広大な草原に、豊かな森。それらを眺めながら、たっぷりの太陽と爽やかな風を頬張るのどかな昼下がり。
「ああ、これぞ旅って感じだな。生きてるーって実感するなあ」
「えへへ。こんなに天気良いならお弁当でも持ってくれば良かったですね」
「そうだなあ。玉子サンド、ハムサンド、それに唐揚げ。ああ、腹減ったな」
「いいですね~。ですが、パパっ」
ハトエルがくっと眉を寄せて、口元をむっと結んで、懸命にキリッとした表情を作る。
「冒険者は危険な職業です。気を引き締めていきましょう!」
「おう、そうだな」
「あ、でも。パパならその心配は要らないかなあ」
「お? お前もようやく俺の才能に気づいたか」
「いえ、そうじゃなくて」
ハトエルは周囲をキョロキョロしながら声を潜めて耳打ちしてきた。
「だって、望さんは魔法少女になれるんだから、どんな強力モンスターでも討伐なんて余裕でしょ?」
「……先に言っておくぞハトエル」
「はい?」
「俺はクエスト時には魔法少女には変身しないからな」
「えっ!? なんでですか?」
ハッと口に手を当ててから、ハトエルはまたひそひそと聞いてきた。
「何でですか? 魔法少女になれば魔王以外に恐れるものなんてありませんよ?」
「例えそうでも、あんな姿になりたくなんかねえ」
「な、何でですか~。あの姿になればどんなクエストだって余裕ですよ?」
「この間の変身は死にたくない一心でなったんだ。王女ん時も証明するために仕方なく。つまり、ならなくても良い時は絶対にならん。なりたいとも思わん」
「可愛いのに~。何がそんなに嫌なんですか?」
「嫌なもんは嫌なんだよ」
あんな姿でモンスター倒しても、全然燃えてくるものがない。そもそもあんな姿になる度に自分でもおぞましくなる。しかも、変身する度に全身粉砕骨折と内臓破裂の苦しみを味わうんだから、まあ嫌だ。というか結構トラウマ物だぞアレ。
本当ならなあ。マカロニウェスタンみたいなしぶ~い姿でリボルバーとかリピーターライフルとかぶっぱなしたかったんだよなあ。
「第一な、そんなインチキチート能力に頼ってたんじゃ人間は成長なんか出来ねえぜ。男なら、神頼みな力じゃなくて己の力一つで未来を切り開いていくってもんだ」
「転生時にチートハーレムどーのこーのとか言ってたような……」
「ともかく。自由時間はどう過ごしてようと俺の勝手だろ?」
「それはそうですね。分かりました。望さんには望さんのこだわりがありますもんね」
一応、納得したらしいハトエル。
そんな事を話してる内に景色が変わってきた。街道に沿うように巨大な河川が現れる。
「わー、大きな川ー」
「さしずめ、異世界アマゾンってとこか」
「すごいですね。人間界って大地の雰囲気がこう、雄大って言うか、雄々しいって言うか、なんかドーンッて感じですね」
「語彙力メルトめ」
だが、確かにこんな大自然の景色なんてテレビかネットでしか見た事ないな。
考えてみると、俺すげえ体験してるんだな。
川を眺めるのに飽き始めたころ。
「あっ! パパっ、ほら、見て下さい! あれ、海でしょ?!」
「あん? 海?」
言われて見てみると、前方に巨大な水面が迫っていた。
「おお、海か。いや、けど待てよ。海にしちゃ向こう岸とかあるっつうか、果てしない水平線が無いようだが」
「はは、あれは湖だよ」
目を凝らしていると、御者のオッチャンが教えてくれた。
「サンセットレイク。王国有数の面積を誇る湖さ。まるで海みたいだろ」
「湖ですかあ。広いな~。こんなに広い湖もあるんですね~」
「そうだな。まるで海みたいだ」
その巨大な湖がどんどん近づき、水辺に小さな村があるのが見えてきた。森と湖の間に栄えた集落らしい。
「はいよ、着いたぞー」
『ようこそサンセットレイクへ』と書かれたゲートを潜り、馬車は村の中心通りの半ばで止まった。目の前にはギルドマーク看板をぶら下げた宿。
「さ、着いたよ」
「あざす」
「ありがとうございましたー!」
馬車から下りて、早速村を見回す。
のどかな村だ。規模は小さいが、あちこちに魚などを売る露店がたくさん開かれていて活気がある。
観光と洒落こみたいが、今日は生憎とビジネスで来てる。観光はまたの機会だな。
「さて、早速クエスト始めるぞ」
「でも望さん。依頼書にあるこの薬草、知ってるんですか?」
「知らん。だが、考えはある」
クエスト前は情報収集。これはRPGの鉄則だ。
「え~っと……お、あそこがそうだな。ハトエル、ついてこい」
「? はい」
俺らは近くにあった一つの店に入った。看板のイラストからして、薬屋と見ていいだろう。
中へ入ると、やはり薬屋であった。乾燥した薬草や、ビンに入った薬らしき液体といい、ツンっとした薬品っぽい臭いは薬屋満点だ。
店主らしき爺さんに話しかける。
「なあ、ちょっといいか?」
「はいよ、いらっしゃい」
「薬草を探してるんだ。キュア草とエイド花、それにヒールシードって言うんだが」
「ああ、あるよ。最近高騰しちまって困るよ、ほんとに」
それらしき物を三つ並べる店主。全て乾燥させらていた。
「一つずつかね?」
「ああ」
「それなら全部で50リルクだね」
少量なのに燻製ハムと同じくらいしやがる。ちょいと痛い出費だが、これは将来への投資だ。
「貰おう」
薬草類を購入して店を出ると、ハトエルが首を傾げた。
「それを提出するつもりですか? でも、多分その量じゃ報酬は貰えないんじゃ……」
「ちげえよ。これを見本にして森ん中を探すんだよ」
「なーるほど。そういう事ですか」
「お前の天使的シックスセンスにも期待してるからな」
まあ、どこら辺に生えてるかなんて知らんが、ここら辺で採集出来るらしいからな。なんとかなるだろ。
「よしっ! 行くぞハトエル!」
「はいっ!」
二人で意気揚々と森へと入った。
そして数十分。
「一つもねえじゃねえか!!」
「疲れたよ~」
歩けども歩けども、同じ森の中。
それらしい薬草なんて全く見当たらない。
「ちくしょうが。なんで雑草ごときにこんな手間かけなくちゃなんねーんだよ。ゲームなら開始3分で見つかるもんだぞ」
「そんなうまい話はないもんですね……あっ!」
途端に声を上げるハトエル。
「どうした?! 見つかったか?!」
「い、いえ、そうではなく……」
「んだよ、ションベンか? ほら、そこで済ませてこい」
「だから違いますって! モンスターが近づいてます!」
「ああん? モンスター?」
──ジュルジュル……──
なんて言ってたら、近くの茂みからハトエルサイズくらいの巨大ナメクジが現れた。
俺らを認識しているのか、触角をうねらせて迫ってくる。
「うおお?! きめえ!?」
「に、逃げましょう!」
「何言ってんだよ、俺はドラゴンワンパンの猛者だぞ。いかにもザコモンスターなこんなナメクジなんてナマス切りの刺身にしてやるぜ」
殺気のようなものも感じる。どうやらやる気らしい。
『ジュルルル……』
「っしゃあ!」
剣で切りつける。
いかにも鈍重でザコそうなモンスター。
であったが──
──ムニュウ──
「ぬおっ?!」
弾力性のある肉に剣が阻まれ、切れない。いや、少しは切れているようだが、肉に包まれて切り辛い。
「こ、この野郎! クソザコナメクジのくせしやがって!」
なんとか刀身を引き抜いて再度切りつける。
今度は浅いが、少し切れた。
が──
──シュウゥッ──
ナメクジが身をくねらせて妙な液体を飛ばしてきた。
「っ?! あいつつ?!」
その液体が腕にかかり、激しい痛みに襲われた。裾を捲ってみると、腕があっという間に腫れ上がり、皮膚が爛れていた。
「な、なんだ!? 酸、か?!」
「わ、わあっ!? 望さんっ、囲まれてます!」
「ぬあにいっ?!」
気がついたらナメクジの群れに囲まれていた。
「うおおっ?! や、ヤバい!」
「ど、どうするんですかー?!」
「こういう時は…………戦略的撤退だー!」
「え、ええ~っ?!」
ザコモンスターを前にして、俺らは脇目も振らずに尻尾巻いて逃げた。
「ぜえ、ぜえ、ぜえ……」
「はあっ、はあっ、はぁ……」
命からがら逃げ延びた俺とハトエルはギルド前で座り込んでいた。
あんないかにも序盤の村周辺で経験値にされてそうなザ・雑魚モンスターを相手になんとも無様な結末となった。
これもそれも、さっさとエンカウントを報せなかったこのポンコツ天使のせいだ!
「いっつつつ……おいっ、群れなら群れって最初に言え!」
「望さんが変な事ばっか言うから気配をキャッチ出来なかったんですー!」
「んだとお?!」
ちくしょう、腕が痛んできてイライラする。
「このポンコツ天使が!」
「いーっだ! ナメクジアラサー!」
「このクソガキが~!」
「うえぇ~ん! グリグリいや~!」
こうなったらハトエルに八つ当たりだ。
必殺頭グリグリ攻撃でストレス発散だぜ。
「大体な~、天使なら薬草の在処くらい嗅ぎ分けろー!」
「無茶言わないでくださいー!」
『あの……』
「あん?」
ハトエルに大人の教育を施していたら、誰かの声がかかった。
振り向くと、そこには見事な赤い髪をサラサラとなびかせた美少女が立っていた。
お疲れ様です。次話に続きます。




