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20話──俺らのクエストはこれからだ

 






 もう昼近い。


 爽やかな目覚めじゃないか。



「おはようございまーす、望さん」

「おう、よく眠れたか?」

「はいっ。体調も回復しましたー!」


 ハトエルも元気を取り戻し、ピョコピョコとはしゃいでる。




 一昨日、つまり異世界初日の晩餐会は悲惨なものとして終わり、その次の日は丸一日寝て過ごすハメになった。

 俺らの闇鍋は、常人なら数日間は寝込むほどのスパイス過剰摂取だったらしく、むしろ一日寝ただけで治ったのは流石は天使、流石は魔法少女ってことらしい。


 昨日はアルメが付きっきりで看病してくれ、まともな飯も作ってくれた。まあ、材料は俺らの所から使いやがったが。


 そんなこんなでゆっくり寝て休んだから体調は回復。起きたのは昼近くになっちまったが、まだ半日以上ある。今日こそ本気出して有意義な一日にせねば。



「えっとー。まずは、こっちの野菜から入れて、スパイスはこれを使って……」

「早くしろ~。俺は腹ペコだ~」

「望さんも手伝って下さいよ~」


 キッチンに立って一生懸命に料理するハトエルの小さな後ろ姿に、不覚にも萌えた。



 ややして、シンプルな野菜スープが俺の前によそられた。


「モグモグ。まあ、食えなくはないな。味薄いけど」

「せっかく作ってあげたのにっ。美味しいの一言くらい無いんですか~」

「十年早いぞ、チビッ子」




 食事も終わり、皿洗いしてるハトエルの背中に今日の予定を投げ掛ける。


「おいハトエル。今日はクエスト行ってくるからな」

「え? もうですか?」

「本当なら昨日がデビュー戦のはずだったが、誰かさんのポイズン鍋のせいでオジャンになったからな」

「気にしなくていいですよ。私だって望さんに任せてしまった部分ありますから」

「お前のせいだって言ってんだよっ!」

「なんでですかー! 自分で反省してると思ったのに、責任を天使に擦り付けるなんて!」

「ともかく! 俺はクエスト行って来るから、お前はしっかり家事でもしておけ」

「もう。本当に横柄なんだから」


 さて、と。

 とりあえず、支度するか。


「くくく。あの貧乏王女め、流石に武器の類いは潤沢のようだな」


 アルメへ看病ついでにリクエストしておいた武器一式が既に届いている。俺はそれを吟味する事にした。


 何が良いのか分かんなかったので、とりあえず冒険者用の剣と防具と言っておいたら、それっぽい物が揃えられた。武器以外にも、丈夫そうな外套とポーチも付いていてサービスが良い。


「どーれ、剣は、と」


 ──スラッ──


「おお~っ」


 手にズシリとくる重さ、鞘から身を現す艶やかな美しい刀身。男のロマンを大いにくすぐる。


 貧乏とは言え、武器の類いはちゃんと蓄えが十分らしく、かなり良い物をくれたようだ。


「ふーむ。防具は何の素材で出来てるんだ?」


 軽くて滑らかな手触りだ。鉄などの金属ではないし、かと言って動物の革にも感じない。

 あえて言うなら植物っぽいな。滑らかに削られた木の表面といった感じ。


 胸から鳩尾を守る部位と、各間接部を守る部位のセットだ。ご丁寧に、取り付け方の説明書まで付いてきている。


 あの没落王女もやる時はやりやがる。



「しゃっ! 早速装備して出発だ!!」






 そして、昨日登録をしたギルド前に到着。


「で? なんでお前まで来てるんだ?」

「だって私は望さんの守護天使ですよ。一緒に行くに決まってるじゃないですか」


 別に冒険者登録してないハトエルまでついてきた。当然、装備は無し。


「お前が一緒だと余計なトラブルとかに巻き込まれそうだから嫌なんだよな……」

「ひどいっ。私は天使ですよ? 人間なら誰もが一緒に居て欲しいと願ってるくらいありがたい存在なのに~」

「まあ、いいや。確かにここの事なんかまだよくわかんねえからな。ポンコツでもカーナビ代わりくらいにはなるだろう」

「何にも悪い事してないのにボコボコだ~……」


 涙目になるハトエルを連れて、とりあえずギルドへと入る。


 中は相変わらずの独特な空気に包まれていたが、今は俺の格好もそれほど浮いてはいない。

 受付に赴くと、受付嬢がにこやかに迎えた。


「ようこそ。確か、一昨日に登録なされた方ですね?」

「おお、覚えててくれたんか。早速クエストを受けたいんだが、やり方を教えてくんないか?」

「はい。受注手続きは簡単です。そちらの掲示板にクエスト依頼書が貼ってあるので、その中から受けたい物を選んでここへ提示して下さい」


 すぐ隣にある掲示板とやらを見てみると、依頼書がごちゃごちゃと貼りまくられている。


「ふうむ。この中からか。しかし、どれが良いのか分からないな」

「ランクと表記された箇所を見ればよろしいかと。今現在の自分のランク以下の場合は適性クエストとなります」

「おおっ、ランクか」


 Sランクパーティーに入ると何故か無能扱いにされて追い出されるあのシステムだな。

 依頼書を良くみると、BとかCとかのハンコが押されている。


「でも、今の俺のランクはどこで分かるんだ?」

「お渡ししたメンバーズカードをご覧下さい。右下に空欄があるかと思います」


 確認してみると、確かに四角い枠だけの空欄がある。


「ルーキーの場合はランク無しです。一つ上がDとなり、C、B、A、Sとなっていきます。依頼を達成する事で功績が貯まっていき、一定の功績を越える度にランクが上がります。高ランクになると掲示板には無い高報酬クエスト等を受けられるようになり、他にもギルドから特別なアイテムや待遇を賞与されます」

「おお、やっぱ冒険者ギルドったらこうだよなあ。どれ、俺に相応しい依頼は……」


 依頼書の大半はランクDからBの間の物が多いが、中にはランクのハンコが無い物もある。これが俺の適性ランクって事か。


「ふーん。報酬金は500リルク以下が大半だな。まあ、ルーキーだし仕方ねえか。お?」


『〈薬草採集〉・キュア草、エイド花、ヒールシード。クエスト推奨地域、サンセットレイク村周辺。報酬、採取量により変動(200から1000程度)。期限無し』


 薬草採取か。

 地味だが、いかにも駆け出しのためのクエストって感じで良いじゃないか。

 場所とかは受付嬢に聞けば良さそうだ。


 早速依頼書を取って受付に出す。


「これで頼む」

「はい。承りました。こちらは王家からの一律依頼になりますので、違約金は発生いたしません。期限も無いので、ゆっくり挑んで下さいね」

「おう、そうか。ちなみに、このサンセットレイクって場所はどこにあるんだ?」

「サンセットレイクはこの王都から南街道を行った場所に位置し、馬車でなら一時間半程で着きます。ギルドの提携便ならメンバーズカードを提示さえすればタダで乗せてもらえますのでご利用をオススメします。今なら南門にて待機中のはずです。なお、そちらのクエストならサンセットレイク支部のギルドでも達成報告出来ますので、そのままあちらで採集品を提出して依頼達成出来ますよ」

「おお~、すげえ丁寧な案内だ~」

「ふふ、ありがとうございます」


 流石はプロだ。今までの異世界案内天使がポンコツ過ぎたから、こっちの方が天使に見えてきた。


「むっ。今、私の悪口考えてたでしょう」

「よく分かったな」

「むうっ。ぷいっ、だ!」



 いざ、初クエストへと赴くために南門へと向かう。


 初めて行く方向にはなるが、大通りを真っ直ぐ南下してけば平気なので楽に行く事が出来た。

 門の前に馬車が停車していたので、声を掛けてみると例の提携便だと分かった。御者のオヤジが対応してくれた。


「ちょうど今から出発するところだよ。乗るかい?」

「おう、頼む」

「おや? そちらのお嬢ちゃんは?」

「あー、こいつは俺の娘だ」

「え~ん、もっと甲斐性のあるお家に生まれたかったよ~」

「んだとコラ!?」

「はは、まあ今日は空いてるし、ついでだから乗せてあげるよ」


 気の良いオヤジのお陰と言うか、この世界の文化なのか分からないが、意外にゆるい部分もある。


 ハトエルと二人で吹きさらしの荷台に乗り込む。


「いいか、ハトエル。俺は仕事しに行くんだ。だから邪魔するんじゃないぞ」

「偉い! 仕事に積極的だなんて、望さんの真っ当やり直し人生の大きな一歩ですよ」

「褒めてるんだろうが、なんかムカつく」

「なんでですか~。褒めてるのに~。望さんは少しひねくれ過ぎですよー」

「お前が能天気なだけだ」


 が、まあ。人生やり直しか。

 ここで俺の事知るのはこのアホ天使くらいだし、人生リセットにはちょうどいいか。


「よし。ハトエル、見てろよ。俺はここで一旗揚げてエリートになるぞ!」

「頑張って! 私も協力しますよー!」


 気合い入ったところで


「じゃあ、行くぞー」


 というオッサンの声により馬車が動き出した。




お疲れ様です。次話に続きます。

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