19話──別視点②〈出会い〉
時はやや進み……。
──望達が寝込んだ次の日の午後──
〈王都近郊 サンセットレイク〉
王都南に位置する広大な湖で、王国の中でも有数の面積を誇る。
王国の要所を結ぶ大河とも繋がっており、漁獲量も高い。地政学的にも、食料元としても王都の重要な生命線である。
湖の水辺には古くからの漁村があり、そこには冒険者ギルド“サンセットレイク支部”が存在する。
「よーし、着いたぞお嬢ちゃん」
「ありがとうございました」
そのギルドの前に停まる馬車。村や町の間を定期的に行き来する馬便だ。そこから一人の少女が降りる。
冒険者少女のアイリであった。
「ふう……」
(少し急ぎ過ぎたかな。なんだか疲れちゃった)
早馬便を何度か経由し、二日ほどで東の大森林から王都のすぐ近くまで来たのだ。一般的な旅から見れば実に慌ただしい強行軍であった。
(別に急ぐ必要はなかったかな。でも、やっと帰ってこれた)
アイリは懐から手紙を取り出して開いた。そこには、柔らかい文字で次のように綴られていた。
『アイリへ──
お元気ですか? もう春になったとは言え、まだ寒さの残る季節です。風邪などはひいていませんか?
貴女の仕送りのおかげで、お母さんも良い薬を買えて元気になりました。本当にありがとう。アイリが一人前で逞しく生きていって、しかもこんなに親孝行してくれている事にお母さんはとても誇らしい気持ちです。
でも、モンスターと戦う冒険者をしている貴女がお母さんは心配です。
アイリ。一度家に帰って顔を見せてくれませんか? アイリの元気な顔を見たいです。それに、貴女にも元気になったお母さんを見せてあげたいです。私の我が儘です。
いつでも貴女の帰りを待っています。
母より──』
「…………お母さん、元気になって本当に良かった」
手紙を懐にしまうアイリ。
(ドラゴンに殺されかけた事は話さないでおこ。また体調悪くしちゃうかもしんないもん)
アイリが冒険者として王都を出てから半年近く経っていた。今やっと手前の村にまで戻ってこれたのだ。
幼い頃に父親を亡くしたアイリは母親と二人だけで暮らしていた。
本来なら学校へ進学するつもりであったが、経済的な理由や母親の病気などが重なってしまい、その道は諦めて冒険者の道に進んだ。母親の薬代を稼ぐためである。
帝国のモンスター攻撃の激化によって、対モンスター戦闘のプロである冒険者の需要は跳ね上がっており、王家を始めとしたあらゆる貴族や地主などからの依頼がギルドには絶えない。
よって、仕事が無いという事態には陥らないのである。
元より冒険者は危険が伴う職業であったが、帝国との開戦以来その危険度は比にならない。運が悪ければ、モンスターどころか帝国の正規軍との突発的戦闘もあり得るからだ。
それでも、アイリにとってはチャンスと言えた。ハイリスク、ハイリターンであったが、早急に資金を必要としていた彼女の事情には則していた。
この半年で稼いだ金額は、一般的な商人や職人の平均年収をも上回っており、そのお陰で母親の薬を不足なく買えるだけの仕送りが可能になったのである。
そして、母親の病が治ったことを手紙で知り、王都にある実家に帰る事にしたのだった。
アイリは大きな荷物を運んでギルドへと入っていった。中には数人の冒険者が居るのみで、ギルドの酒場にしては静かであった。
部屋の空きを確認するため、アイリは受付に向かった。
「ようこそ冒険者ギルドへ。メンバーの方ですね」
受付嬢が肩の紋章を見て言う。
アイリは自身の懐事情を頭の中で勘定しながら尋ねた。
「あの、今さっきここに着いたんですけど、お部屋って空いてますか?」
「お部屋なら十分に空いてますよ」
アイリは考えた。
(どうしよっかな。ここから王都までなら定期便の馬車でもニ時間かからないで着くし。このまま家に帰ろうかな)
時計に目をやると、時刻は昼をとっくに過ぎ、三時近くになっていた。
「あのー、すみません。次の定期便は何時になりますか?」
そう尋ねると、受付嬢はにこやかに答えた。
「次は五時の最終便になりますね」
「そうですか」
(五時に出発じゃ王都に着くのは夜になっちゃう。あんまり忙しなく帰ってお母さんに無理させちゃうのも良くないな……)
一日遅れるくらいなら泊まっていってもいいだろう。アイリはそう判断した。
「それじゃあ部屋をお借りします」
「かしこまりました。個室も空いておりますが、今は二人用のお部屋にも空きがあります。料金は変わりませんが、どうしますか?」
(料金は同じかあ。でも、別に一人用でも十分かな。無駄に私が独占する事もないし)
「では、個室で──」
『このクソガキが~!』
『うえぇ~ん! グリグリいや~!』
「?」
部屋を選ぼうとしたところで、ギルドの外から騒がしい声が聞こえてきた。
「何だろう?」
お疲れ様です。次話に続きます。




