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18話──最初の晩餐

 






「さて、と。今日は豪勢に行くか」



 帰宅。


 ギルドでの冒険者登録が終わった後、俺らは帰り道の売店などでちょっと贅沢に買い物をした。今晩の飯の材料を揃えるためだ。


 ほんとは異世界都市観光したかったんだが、売っている物の半分は知らない食品だったから、ハトエルのメモを一々見ながらの買い物となってしまったため時間がかかり、帰宅した時には夕方になってしまっていた。



「だが、見ろハトエル。これだけあれば豪勢なもんが食えるぞ!」


 早速配置したテーブルの上に食材をボコボコとひっくり返す。つい調子にのって4000リルクくらい使っちまった。だが、これなら今月はもつだろう。


「すげーだろー。これで今晩は異世界パーリィだー!」

「わーいっ! 何が出来るか楽しみです!」

「そうだろ、そうだろー。じゃ、ほい」


 ハトエルに包丁やおたまを授ける。

 首を傾げるハトエル。


「これは?」

「なんだ、天使は調理器具も知らないのか? これはな、食べ物を調理する道具で……」

「いえ、それは知ってます。でも、なんで私に?」

「おいおい、俺にやらせようって訳じゃねえだろうな? 俺は魔法少女だぞ。家事はやらん」

「なんですかその理屈は! と言うか、私は料理した事ないです」

「なんだと?! おいおい、いい歳して料理も出来ねえのかよ100歳児がよお!?」

「人の事言えないでしょ! そういう望さんだって一人で暮らしていた時代ありましたよね? 得意料理とか無かったんですか?」

「カップラーメンとカップ焼きそば、レトルトカレーとコンビニ弁当なら俺の得意料理なんだが、生憎とこの世界には材料も調理器具も揃ってないんだ」

「ええっ? 困りましたね。どうしましょう?」


 しまった。食材があっても、それをご馳走にする料理スキルが俺らには無かった。


 このポンコツ天使め。可愛い姿してんだから料理の一つや二つくらい出来やがれってんだ。


「仕方ねえ。適当に野菜と肉切って鍋にぶちこむか」

「えっ、大丈夫なんですか?」

「なんとかなるだろ。よーし、まずはこのじゃが芋的な芋と、どう見てもニンジンな根菜類と、玉ねぎ確定の球根から切っていってだな……」


 ──サクッ、サクッ、トントン、ザクッ──


「いっでええええっ?! ゆ、指切っぢっだああああー!?」

「わ、わわわー?! お、落ち着いてくださいっ、今ヒールしますから!」


 ──ポワ~ン……サクサク、トントン、ザシュッ──


「あんぎゃああー! 今度は手首リストカットしちまったあああ~!?」

「ヒ、ヒールです!」


 ──ポワ~ン……サクサク、ズドッ──


「うぎゃあああ~!? 今度は手の平にナイフが突き刺さっちまったあああ~?!」

「も~うっ! 何をどうしたらそうなるんですか~! ヒ~ル~! 私がやります! どいてくださいっ!」


 ──ズイッ、サクサク、トントン、ザクッ──


「うわああ~んっ! 指切っちゃった~!!」

「お前もかよ!」

「痛いよ~!!」


 その後も悪戦苦闘したが、なんとか野菜は切り終えた。少し血のドレッシングがかかってるけど。


「よし、それで今度は鍋に水を入れて……火にかけて。そんでもって……ん? 最初に炒めるんだっけ? つうか、水から入れるんだっけ、お湯になってから入れるんだっけ? えーいっ、いーや、めんどっちい!」


 ──ボチャボチャ~──


 切った野菜を全部鍋にぶちこむ。後は火がなんとかしてくれるだろう。


「望さん、お肉は?」

「おっと、そうだった。このハムを切って、そいっ」


 ──ザブン──


 燻製肉の湯治だ。これで凝り固まった肉も柔らかくなるだろう。


「さあて、味付けは塩と、この適当に買ってきたスパイスだな。どうやって入れるか」

「とりあえず、全部入れてみたら一気に全部のスパイスの味が試せるんじゃないですか?」

「お前頭いいな~。それでいこう。そおいっ!」


 ──バサバサッ、ポチャンッ、ボチョボチョ──


 粉状のスパイスから乾燥させた種やら茎やら葉やらの原型もぶちこむ。この圧倒的スパイスの量ならガラムマサラになってカレーが完成するはずだ。


「後は煮るだけだ!」

「わ~いっ! ぱっぱ~ぱらら~! おいし~いゆうは~ん!」

「おお、食膳の舞いか。俺もやるぞ!」


 テンションの上がった俺とハトエルは、鍋が煮えるまで喜びの舞いを踊った。端から見れば鍋を前に儀式をする原始人に見えるだろう。





 数十分後。



 ──グツグツグツグツグツグツッ……──


 ヘドロみたいな色と、凄まじい刺激臭をボコボコ泡立たせた鍋が煮えくり返っていた。


「……」

「の、望さん。私は人間界の食べ物に関しては詳しくないのですが、これは本当に食べられるんでしょうか?」

「お、おう。当たり前だろ~。食べられる物を入れて出来た鍋なんだから、そりゃ食べられるに決まってんだろ~」

「で、ですが……」


 ──ボコボコボコボコボコボコッ……──


「ど、どれかと言うと、何十年か前に社会見学で行った地獄で見た地獄の釜に似てるのですが……」

「ば、馬鹿やろう。ここは人間界だぞ。そんな禍々しい呪物があるわけねえだろ。という事でハトエル、お前味見しろ」

「ええっ?! わ、私が?!」


 涙目になるハトエル。


「こ、こんなの食べたら転移魔法使わなくても天界に帰れちゃいますよ!」

「うるせー! こんなバイオテロ兵器食ってみる勇気は俺にはねえー! いいから毒味しろお!」

「わ~んっ! 味見から毒味に進化してる~!」


 ハトエルを捕まえ、おたまに掬ったスープを近づける。


「ほら、フーフーしろ。熱いからな。火傷しないように気をつけろ」

「気にかけるとこはそこじゃないです~!!」

「うるせえ! まずは動物実験からだ! 人体に害が無いか調べるんだ! 観念しろ天国産モルモット!」

「うわわ~んっ! 女神様っ、助けて~!」


 往生際悪く暴れるハトエル。


「あっ、暴れるな!」

「わーんっ! やだよー!」


 ──ゴンッ──


「へぐっ?!」


 暴れたクソガキ天使の頭突きが顎にクリーンヒット。


「う、うぐお~……あちっ!!」


 その拍子にこぼれたスープが俺の足にかかった。


「あっち~!?」

「今だ~!」


 その隙をついて脱出したハトエルが、おたまを俺の口へと押し込んだ。


「むぐうっ?! ……!!?!?」


 口の中に凄まじい刺激が溢れかえった。


「くwafごnyyんじぃagvuはぎぃu?!!」


 言葉に出来ねえ味だ。


「わ、うわあ……の、望さん。大丈夫ですか?」

「~~~っ!! …………? お、おお? 意外に旨いぞ?」

「本当ですか?!」

「あ、ああ。最初はやばかったけど。なんか、段々うま味が……」


 恐る恐る二杯目も飲んでみる。


「おっ!? 旨い」

「ゴ、ゴクリ」


 ハトエルも恐る恐る飲み、一口目は同じく悶絶したが、おや? と表情を変えた。


「意外に美味しいかも?」

「おう、結果オーライだ。うめ~!」

「お代わりー!」


 一時はどうなるかと思ったが、俺らのファーストディナーはこうして大成功を修めたのであった。





 …………と、思っていた。この時は。





 翌日。




「……様子を見に来てみれば、まさかこのような事になっていたなんて……」

「うぐお~……び、貧乏王女~、お、お前のせいだ~……」

「う、うぅ~ん。気持ち悪いよ~……」


 昨日の鍋がマズかったのだろう。俺とハトエルは朝起きたら猛烈な吐き気や眩暈、頭痛に襲われて、寝込んでしまった。


「先ほど鍋の中身を少し味見させて頂きました。味覚覚醒スパイスのグルテーと、痛覚麻痺薬にも使われるモルネンの多量摂取によって一時的な味覚障害になったのでしょう。あんな量のスパイスを一度に摂取すれば体調を崩して当然です」


 様子を見にきたアルメが呆れたように俺を見下ろしていた。


「天使様まで寝込ませてしまうとは。もう少し魔法少女としての自覚を持って下さい」

「だ、だまれ~……金もくれねえ貧乏没落王女が~……お、お前のせいだぞ~……責任持って看病しやがれ、凋落姫~……」

「それだけ悪態がつければ心配要りませんね」


 アルメはため息をついてから、ハトエルのベッドに寄り添って頭を撫でた。


「今日は私がお二人の看病をいたします。幸い、この手のスパイス中毒に効果のある薬膳料理を知っておりますから、それを作りますね。それと、今後同じような事が無いよう、レシピの基本書を持ってきますね」

「うう~、ありがとうございます王女様~……」

「さっさと助けろ~、没落王女~……」




 こうして、俺らの貴重な異世界生活二日目はまさかの安静ベッド生活にて消費された。



お疲れ様です。次話に続きます。

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