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17話──異世界のジョブと言えば……

 






「ふ~む」


 通りかかった小さな空き地にて、俺とハトエルは作戦会議を開いた。


 議題は『俺らでも出来そうな仕事を探そう』だ。



「それでは望さん。前職を教えて下さい」

「ニート」

「ニートの前は?」

「バイト。工場の」

「その前は?」

「スチューデント。学生」

「むむぅ」


 ハトエルが難しい顔で唸る。


「残念ながら、この世界には工場と呼べる程の施設が存在していません。よって、望さんの前職を活かせる職業がありません」

「いや、工場でのバイトってラインで物詰めるだけの仕事だったから。技術とかスキルとか身に付けた訳じゃねえから」

「どうしましょう。私のメモによれば、この世界での一般的な仕事は一に農業、ニに商業、三に職人らしいのですが、私達には土地も無ければ商いのノウハウも無いし、職人芸も身についてないです」


 つまり、働き口がない。


「他にあるのは──」

「おい、ハトエル」

「はい、なんでしょう」

「お前は何も分かっちゃいない」

「え?」


 農業? 商業? 職人? まあ、確かにどれも素晴らしい職業だ。世の中に無くてはならない業種だ。


 だが。


「いいか? 異世界、転生転移、ファンタジー、ニートときたら、やるべき職業は一つしかない」

「えっ、そうなんですか?」


 ハトエルが期待に満ちた目を輝かせる。


「それは一体?」

「それはもちろん──」



 ──ザッ──


「冒険者に決まってるよなあ?!」


 たまたま見つかった冒険者ギルドの建物らしき前に立ち、二人で見上げる。

 木造だが、三階まであるし、他の商業施設などと比べても立派だ。


 看板には剣とドラゴンの紋章が描かれている。ギルドのマークなのだろう。


「はあ。冒険者、ですか?」

「そうだ。くく、異世界に来たニートがなる職業の99パーセントが冒険者だ」

「そ、そうなんですか?! それは初めて知りました! 勉強になります!」


 カキカキと手帳にメモしていくハトエル。


「でも、私が予め学んだ知識によりますと、冒険者は全職業の中でも殉職率が異常に高い職業の一つだそうですが……」

「え。マジ?」

「はい。そりゃあ、毎日が命懸けの冒険ですから。他の職業より危険ですよ」

「……大丈夫だって! それはモブ君達の話だ。俺みたいな選ばれし転生者は問題無しだぜ。とりあえず、こういう時はまず最初に冒険者登録するところから始めるんだ」

「私も冒険者になれるんですか?」

「んー。流石にお前ほどお子ちゃまだと無理なんじゃないか?」

「これでも望さんの何倍も生きてるのになー。でも、見た目は人間の子供だししょうがないかー」



 二人で中へと入る。


 傷んだドアを開けると、中は少し薄暗い酒場になっていた。そこらに屈強な男や肉感的な姉ちゃん達が、物騒な武器などを傍らに置いて肉とか食いながら酒を飲み交わしている。


 酒臭さとか、正体不明の刺激臭など、独特な香りに満ちた空間だ。


「ウィ~、ねえちゃーん! こっち五杯追加だ~!」

「おーい、こっちは肉盛り合わせを三人前だー!」

「おいおいキッド、お前昨日シンシアとどこまでいったんだよ~、ん~?」

「っしゃあ! まーた俺の勝ち~! どうだ、シェリ~、俺はカードつええだろー」

「オークには、尻尾巻いて逃げ出すのにねえ」


 流石は殉職率の高い職種を選んだ奴らだ。なんと言うのか、猛者が持つオーラのような物を感じる。


「お、おおっ……武者震いしてきたぜ。これが冒険者ギルドか」

「なんだかワイワイしていて楽しそうですねー」


 明らかに場違いな雰囲気の俺とハトエルだが、中に入っていっても特に不審がられる事もなかった。


「えーっと。こういう場合は、と。おっ、あれだな」


 カウンターらしき場所があり、そこに綺麗めな姉ちゃんが立っている。

 そう、冒険者ギルドと言ったらこれだ。美人受付嬢。


「見ろよハトエル。やっぱギルドはこうでなきゃな~。ボンキュッボンなお美人様だぞ」

「綺麗な女性なのは同感ですが、変な事しちゃ駄目ですよ?」

「くくく、そいつはどうかな? 転生者ってのは異世界美女を悩殺するフェロモンをプンプンに振り撒いてるもんだからなぁ」

「転移者にそんな特典も特性もありません!」


 ぐへへ。すぐに俺TUEEEEEEEでハーレム要員にしちまうか。


 こちらに気づき、愛想の良い笑みを浮かべる受付嬢。


「いらっしゃいませ。ようこそ、冒険者ギルド“ソレイル支部”へ。クエストのご依頼でしょうか?」

「依頼?」


 ああ、そうか。冒険者と言えばクエストだが、そのクエストの依頼をするのは冒険者ではない人種がするものだ。


 俺らはクエスト依頼者、つまりクライアントだと思われた訳か。


「ああ、違う違う。俺は冒険者志望だ。登録したいんだけど」

「登録を?」


 受付嬢が僅かに眉をひそめた。


「冒険者ギルドに冒険者として名義登録し、メンバーカードを作成したいという事でよろしいでしょうか」

「そう、それそれ」

「……しかし、冒険者は過酷な肉体労働職です。以前に冒険者もしくは傭兵や兵士などの戦闘職に就いていたご経験は?」

「ちょっと前まではニートだった」

「ニー、ト? 失礼、聞いた事のないご職業なのですが、どういった職業で?」


 なんだか面接みたいになってきたぞ。


「簡単に言うとだなあ。誰も居ない建物に一人で待機していて、24時間警備するような仕事だ」

「はあ。衛兵、のようなものでしょうか。では、一応武器の扱いや心得はあるのですね?」

「んなもん、ない──ああ、バリバリだ。常に(世間の目や無言の圧と)戦う心構えや、自分の身を(将来の不安や、社会への恐怖から)守るだけの技を磨いてきたつもりだ」

「分かりました。念のために申し上げておきますと、冒険者はとても過酷で危険な仕事です。その危険性は承知していますね?」

「おう、いつでもカマーン。ドラゴンだってワンパン出来る力を持ってるぜ」

「そ、そうですか」


 話してる内に受付嬢の事務的な表情が段々と苦笑いとか引き顔に変わってきているが、登録出来そうだ。


「では、登録手続きを致します。何か身分を証明出来る物はお持ちですか?」

「んあ? 身分? 冒険者ギルドって身分によっては入れなかったりすんのか?」

「いえ、身分によって登録できないという事は特例を除いてありません。しかし、逆に身分を証明出来る物がなければ登録のための試験や面接を受けてもらう事になります」

「ええ~。時間とかかかるのか?」

「テストや面接を規定の日時に行うので時間はかかりますね」

「マジかあ」


 こんな異世界に来たばっかなのに、そんな身分を保証する物なんてねえよ。


「望さん、望さんっ!」

「ん?」


 そんな風に面倒くさくなったあたりで、ハトエルが嬉しそうに袖を引っ張ってきた。


「これっ!」


 そう言って差し出してきたのは、王女様から届いた身分証。さっき支給品の中に入ってたやつ。


「これの使い時ですよ!」

「ああ、それか」


 確かに、いかにも使えそうな感じだが、これまでの事だ。どーせ役に立たない紙切れだろう。


 そう思ったが、その身分証を見た受付嬢が声色を変えた。


「あ、王家公認の証書をお待ちなのですね。それがあれば全ての手続きは簡略化されます」

「え、マジ?」

「はい。どうしますか? お渡しして下されば2分程度で手続きが終わりますが」


 まさかの有能アイテムだと? ここに来てから初めて期待通りの効果だ。


「ぜひ頼む」

「それではお借りしますね」


 身分証を渡すと、受付嬢はそれを見ながら手元の書類に何かメモしていった。


「えーっと。お名前はノゾム・マホショージョさん。ご家族は娘さんのハトエル・マホショージョさんですね。そちらのお嬢さんでしょうか?」

「お、おう。そうだ」

「えへへー、パパー」

「お、おい、くっつくな」


 どうやら偽造文書のようだ。あの王女、サラリと犯罪発行してやがる。

 だが、公的機関の行う犯罪は犯罪にはならないのだ。



「はい、ギルドの登録が完了いたしました。最後にカードの個人登録を行います。こちらがメンバーズカードになります」


 そう言って運転免許証より少し大きいくらいのカードを出してきた。


「こちらに、このクリスタルクランで印をお願いいたします」


 そして、もう一つガラスで出来たチェスのキングみたいな物を渡された。


「特殊な魔法を施した印です。それをしっかり握って、右下の空欄に押し付けて下さい」


 言われた通りにすると、カードの表面に魔法陣のような紋様がボンヤリ光った。


「はい。これで登録手続きは完了となります。こちらのギルド所属腕章もお渡ししますね。どうか気をつけて冒険者ライフをお送り下さい。もう一つ、こちらはギルドからの入会祝いの冒険者手帳です。この町でお勧めの武器屋や薬屋などの、冒険者ライフに必要な情報が記載されております。ぜひ有効活用して下さい」

「おお、サンキュー」


 最後にメンバーズカードと腕章を貰って、俺の登録は無事に完了した。


「うお~っ、なんだか異世界生活、やる気になってきたぞ~!」

「おめでとうございます、望さん! あ、おめでとう! パパ~!」

「はっはっは! ハトエルよ、お祝いに何か食べに行くか」

「わーいっ! わたあめ食べたいですー!」

「よーし、買ってやるぞ~」



 俺らは意気揚々とギルドを出た。



お疲れ様です。次話に続きます。

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