16話──とりあえず異世界町へ
「わーいっ! ふかふかのお布団だー!」
早速届いた寝具の上にポフンポフンと転がるハトエル。
「むふーっ。今日からここが私のお家かー。楽しみだな~。人間界の暮らしってどんな感じなんだろう」
「おい、遊んでないで手伝え。まだ掃除も終わってないんだぞ」
「あ、ごめんなさーい。でも、えっへへ。なんだかワクワクが止まらなくて!」
「お前は気楽で良いよな。羨ましいぜ」
アルメ王女が帰った後、少しして俺らの家に家具やら日用品やらが届いた。
この世界にも引っ越し業者的なものが存在しているらしく、でかい馬車でもって運んできたのだ。
馬車も、馬ではなく、なんか毛むくじゃらのでかいマンモスみてえな動物が引いている。どうやらいわゆるトラック的な牽引動物らしい。
「それじゃあな。代金はもう貰ってるから俺達はこのまま引き上げるぞ」
「おー、サンキュー」
家具を家に運んでくれたオッサン達が引き上げていき、俺とハトエルは掃除の続きをする。
「ちくしょう。VIPに掃除させるとはな。俺らも舐められたもんだ」
「でも、自分で何かを綺麗にするって楽しいですね! ふんふんふ~ん」
鼻歌うたいながら、床を雑巾で拭いていくハトエル。俺も仕方なく続ける。
──グゥ~──
「腹減ったなあ。なあ、まずは飯にしないか?」
「そうですね。私もお腹空いちゃいましたし。じゃあ、さっそく異世界初料理大会を開催しましょう! わ~、パチパチ~」
人間界でのホームステイが楽しみなのかハトエルのテンションが高い。能天気で羨ましいぜ。
食料品の入った箱を開ける。
「ふーん。あんまし多くねえな。けど、ビン詰めとかあるんだな」
保存食らしき物が多い。それに、ラグビーボールくらいありそうな塊パンと、魅力的な燻製肉。
「お、手紙が入ってる」
中にはアルメからと思わしき手紙。
「ふ。俺に惚れ直してラブレターでも書いたか。恥ずかしがり屋め」
早速開いて、中を確認してみる。
『こちらが1ヶ月分の食料となります。同じく、1ヶ月分の生活費も同封してありますので、有意義にお使い下さい』
「……は? 1ヶ月?」
ダンボール一箱分くらいの食料。
ナイスガイの俺と、食い盛りそうなアホ天使のハトエル二人には少々足りない。
もって二週間ってとこだろう。多分、そんなにもたない。
「なら、金は──」
手紙の収まっていた箇所のすぐ下にそれらしき小袋があった。触ってみると、布越しでも分かる硬貨の心地よい感触。
「ふ。金の触り心地は万国共通、異世界共通だな。さて、どんくらい入ってるんだ?」
口を開いて中を覗く。
──ジャラッ──
「おおーっ、結構あるじゃんかー」
赤茶色のコインがたくさん。それに銀色のコインがちらほら入っている。
「けど、よく考えたらこの世界の金の単位とか価値ってわかんねーや」
「それならお任せを! 天界でこの世界の基本的知識のデータを写してありますので!」
そう言ってハトエルが手帳を取り出す。
「えーっと。この世界──というより、この国含めた主要国家の通貨は“リルク”って言うらしいですね。で、1リルク銅貨から始まって、10万リルク金貨まであるらしいですね。ちなみに、平均的な男性の一ヶ月の生活に必要なお金は大体2万リルクくらいらしいです」
「ほーん。金貨がねえぞ?」
まあ、2万ありゃいいって言うんなら10万金貨は無くても仕方ねえか。
ハトエルはガキだし、二人で揃って3万ちょいくらいありゃ良さそうだな。
食料の支給を考えるなら、2万くらいでも何とかなるだろう。アルメは家計が苦しいらしいし、ここはハードルを低く見積もってやる事にしよう。
「数えてみるか」
袋をひっくり返して床にジャラジャラコインを広げる。
「えーっと、これが1リルクか?」
「はいっ、で、この小さいのが10リルク。これが100リルク。この四角いのが50リルク。こっちの銀のが500リルク。あっ、1000リルク銀貨もありますっ」
二人で仕分け作業を始める。選別した貨幣を並べて計算していく。
「えーっと、これが500だから……千、二千、三千…………んんっ?」
おかしいな。既に銀貨や最大銅貨などの主力を数え終わったが、七千とちょいくらいしかないぞ。
「……九千、七百、ごじゅう、に?」
おかしい。桁が千の台で止まってる。これはどうした事だ。
もう一度数え直す。
変わらなかった。
あれ?
おかしいなー。
俺一人でも2万必要なのに、その半分も無いぞー?
「おい、ハトエル。あの没落クソ貧乏王女を娼館にでも売り捌きに行くぞ」
「そんなことで怒っちゃいけませんよ~!」
「そんな事だあ?! 生活費の半分すら届いてねえのに、そんな事だあ?! 俺だって予想を大幅に下方修正して構えてやったんだぞ! なのにその下限の底をぶち破るってどういう事だぁ?!」
「お、落ち着いてください~! きっと王女様も精一杯工面したんですよ!」
「んなこと知るかあ! ご恩が無えんならご奉公も無しだ! 俺は魔法少女なんかやらねえからな!」
「もーうっ! さっきはすこーしだけ良いとこ見せたのに、やっぱり望さんは性悪アラサーですー!」
「うるせー!」
ちくしょう。やっぱりもっとゴネてまともな支援を要求するべきだった。
「ちっ! あーあっ、やーめたっ! 掃除する気も失せた。適当に燻製でも食って寝るべ」
「もー。すぐに拗ねるんだから~」
くそ。なんだってどいつもこいつも期待させておいてから叩き落とすんだ。
「あ、お金の下に何かありますよ。封筒?」
「んだよ。謝罪の手紙か? 暖炉の燃料にでもしておけ」
「違いますよ。何か立派な証書のようです。あ、手紙も。なになに、ふーむ」
ハトエルが読み上げる。
「えーっと。『金銭の工面は思うようになりませんでしたが、代わりに王家公認の身分証をお渡しします。きっと役に立つはずです』ですって」
「身分証だー?」
そんなので腹が脹れるか、財布が厚くなるか。
「王女様がわざわざくれたんです。きっと役に立ちますよ」
「んな物より金だよ、金。それか食いもん。あ~あ~、お腹が空いて変身出来ないかも~」
「もう。大人なのに困った人ですね」
ほっとけ。
「あ、そうだ!」
ハトエルがパチンと手を叩いた。
「望さん、外に行きましょう、外。せっかくファンタジーな異世界に来たんですよ。改めてゆっくり見て回りましょうよ!」
「……ふぅ。そうだな」
確かにここで腐ってても仕方ない。ハトエルの言う通りせっかく異世界に来たんだ。
そうだよ。俺ってば異世界に来てるんじゃねえか。
転生チートハーレムのワクワクファンタジーにはならなかったが、それでも異世界な事に変わりはない。
気分転換に外へ行くのもアリじゃないか。
「よしっ! 行くぞハトエル! 異世界都市観光だ!」
「はい!」
いつまでも不貞腐れてても仕方ないから、気分転換に外へ出る事にした。
──ガサッ、ガサッ──
「ちっ、ここの庭の雑草も早く苅って貰わねえとな」
「前が見えないですー」
改めて周りを見ると、ここらは質素な住宅街のようだ。似たような小さい家がいくつも並んでいる。
「ふーん。庶民街って感じだな」
「これからここを出入りする事が多くなるはずです。道とか覚えておきましょう」
出来りゃもっと良い所に引早くっ越したいから、覚えたくもないが。
道なりに歩いていくと、段々と人通りが多くなってきた。
「ふーむ。パッと見は特別違う人間のようには見えない」
「私も人間界に来るのは初めてですが、“人間”という種族は異世界でも基本形は変わらないそうです」
「へえ。そうなんか」
たまに頭にケモ耳らしき物が付いていたり、耳が尖ってる奴も居る。獣人やエルフだろうか。ゲームやアニメで見慣れてるからか驚きはしないが、やはり新鮮というか感動はある。
道が広くなり、大通りになった。
「おー。大通りか。なんか露店みたいなもんがたくさん出てるな」
「なんだか美味しそうな食べ物もたくさん売ってますね!」
確かに、屋台のような店も多く、美味そうな匂いもする。
「肉の串焼きに、ホットケーキみたいな奴やドーナッツみたいなやつ。うーん。意外に俺の居た世界の物とあんまし変わらんな」
だが、これなら食うのにハードル高くない。カルチャーショック薄めなのは住みやすさに直結する。のれんのような旗には『出来立てっ、美味しい!』とか書いてあって、元の世界ののぼり文化と遜色ない。
「それにしてもよ、今さらなんだが、どうして俺はこの世界の言語とか文字が分かるんだ?」
「あ、それは転移時に“認識の加護”という神様からの祝福を受けているからですね。本当は望さんにとって全く未知の言語が用いられているのですが、理解も出来ますし話せてもいます。ただ、固有名詞や翻訳に該当する物がない単語などはそのまま聞こえる事があります」
そうだったのか。そいつは便利だ。
「出来ればその口の悪さは加護の不良であって欲しかったですがね」
「生意気言うな」
「まあまあ。それより望さん。何のお仕事したいですか? 加護のおかげで言語の壁は無い訳ですし、選びたい放題ですよ」
「働きたくないでごわす」
「そんな事言ったってしょうがないですよ! 支給される食料とお金が足りないなら、何かで稼がないと!」
ハトエルがビシッと明日へ向かって指差す。
「さあっ! 仕事を探しますよ!」
「え~~~……」
こうして、新たなクエスト、『異世界ハロワ』が始まってしまった。
お疲れ様です。次話に続きます。




