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15話──別視点①〈冒険者の少女〉

 






「う、うぅ~ん……はっ……」


 目が開くと同時に、慌てて起き上がる少女。ベッドの上であった。


 見事な赤い髪がサラリと肩から滑り落ちる。


「こ、ここは?」


 清潔で簡素な部屋であった。温かみのある丸太の組まれた壁で、少女はそこが馴染みのある大森林入り口前の“トールツリー”ギルド支部の部屋である事をすぐに悟った。


「ギ、ギルド? あ、あれ? 私……」


 混乱する少女。そこへ、ドアが開けられる音がした。二つの人影が現れる。


「あっ! アイリ、目が覚めたんだね?」

「おう、気分はどうだ?」


 入ってきたのは長弓を背負った若い女性と、腰に剣を差した青年であった。二人は喜んだように駆け寄ってベッドの横に立った。


「あんた生きてたんだねえ。あんな中でさ」

「おいおい、縁起でもない事言うなよ」

「でもさ、何人も死んでるんだ。それもBランクのベテランとかだって。そんな中、ルーキーのあんたが生き残ったなんて、ほんとラッキーだよ」


 女性はそう言いながら、ベッドに座ったままの少女の頭を撫でた。


「運やツキだって立派な素質さ。あんた、将来大物になるよ」

「エルダさん、それにザイドさん……」

「気分はどうだ?」

「はい……ちょっと頭が重いけど……」


 少女──アイリはぼんやりとした目で室内を見回した。


「ここはギルドですか?」

「そうだよ。あんた、数時間前にここへ運ばれてね。気絶してたんだよ」

「そう、だったんですか……」

「ああ、怪我も無くてよかった」


 アイリ少女はまだ重い思考をなんとか巡らし、気を失う前の自身の記憶を引き出した。


「そうだっ、私っ……」


 引き出されたのは恐怖の記憶であった。







 冒険者ギルド、トールツリー支部。通称、大森林ギルド。

 アイリはその支部に数日前から滞在していた。



 今現在、サンライズ王国はシャドー帝国と交戦状態にあり、帝国はモンスターを使役して侵攻を続けている。


 モンスターに対抗するため、王家は莫大な資金を用いて冒険者ギルドへモンスター討伐の依頼を出しており、冒険者らも半ば正規軍のように戦闘に参加している。

 しかし、前線付近のエリアは野生モンスター討伐などの通常クエストに加え、帝国の駆使するモンスターの相手もしなくてはならないため、冒険者の数が足りていない。


 ここトールツリー支部も人手が不足してしまい、各支部から援軍として冒険者が多数呼び出されたのだ。森林に巣くうモンスターの群れを討伐するために。


 アイリはそんな中、旅の途中でたまたま立ち寄っていたのであった。


(そうだ……それで、私も皆の役に立とうと……)


 数時間前。

 モンスターの群れが森林内の小さな前哨基地を強襲。軍からの緊急要請を受けてトールツリー支部の冒険者多数が討伐に赴いた。

 アイリも、不足していた補助役であるヒーラーとして討伐部隊に参加した。


 しかし、モンスターの群れは想定よりも遥かに多く、冒険者らは手痛い反撃を食らう事になった。

 特に、途中で強襲してきた二体のドラゴンにより戦況は一気に傾き、冒険者らは散り散りになって退却した。



 アイリはその途中で仲間とはぐれてしまい、一人で森を逃げ回っている内にドラゴンに追いつかれてしまったのであった。




「そ、そうだ……わ、私、ドラゴンに……」


 脳裏にフラッシュバックする、凶悪なアギト。目の前で踊る血塗れの牙を思い出し、アイリの肩は細かく震えた。


「震えてるよアイリ。大丈夫さ、あたいらで一体は何とか倒したんだし、もう一体も逃げたさ」


 女性冒険者こと、エルダがアイリの体を抱き締める。


「おかげでかなりボロボロになってね。あんたのヒールが恋しかったよ」

「王家が支給してくれた高級ポーションのおかげでこの通りピンピンしてるけどな。さっきまでギルドは負傷者でいっぱいだったんだ」


 剣士の青年、ザイドが苦い顔を浮かべてみせる。


 “ドラゴン一頭の首は、兵士百人と天秤で釣り合う”


 そのような諺があるほど、ドラゴンとは古来より脅威とされるモンスターであった。

 モンスター討伐専門の冒険者と言えども簡単な相手ではなく、数人の死者と数十人の負傷者を出したにも関わらず、倒せたのは一体。もう一体は行方知れずとなっていた。


 その一体がアイリを発見して襲っていた訳である。



「もう一体がどこに居るか分からないのが不安だが……近くに居ない事を祈るしかないな」

「アイリ、腹減ってないかい? あたいが何か奢ってやるよ。生還祝いにね」

「あ、ありがとうございます」



 病室として使われていた二階の宿泊部屋を出て、三人の冒険者は一回のロビー兼酒場に下りた。


 席はほとんど埋まっており、腕自慢の冒険者らが、さっき出来たばかりの傷を見せあって自慢していた。


「さ、精のつくモン食べなきゃね。ねーっ、こっちにスパイスグリルセット三人前ー!」


 すぐに料理が運ばれ、三人は食事にとりかかった。



「……でも、なんでだろう」


 フォークを肉に突いたままのアイリが呟くように言った。


「どうして私助かったんだろう?」

「実は変な子がお前をここに届けてくれたんだ」

「変な子?」


 アイリが聞き返すと、エルダも大きく頷いた。


「あー、そうそう。そうらしいね。あたいはその場に居合わせなかったけど、なんか変な子があんたをここに運んで来てくれたって話題になってたよ」

「えっ、そうなんですか?」


 驚いて尋ねるアイリに、ザイドが頷く。


「気絶してるお前を抱えた女の子が現れてな。年はお前より少し下か同じくらいかな。14とか15くらいだと思うけど。何て言うのかなー、すごい派手な服装って言うか、キラキラしてたって言うか」

「あたいが聞いた話ではすごく可愛い子だったらしいよ。でも、なんでそんな子がアイリを抱えていたんだろうね。て言うか、ここで何してたんだろ? ギルドの人間じゃないみたいだし」

「…………」


『通りすがりの魔法少女。かな?』


「! そ、そうだっ。私、魔法少女に会ったんです!」


 思わず大声で立ち上がるアイリ。周囲の冒険者らが驚いて振り返る。


「す、すみません」


 慌てて謝りながら席に座り直る。


「ご、ごめんなさい。つい」

「はは。でも、魔法少女か。そういや、あの子も同じ事言ってたなあ」

「えっ?」

「お前を運んでくれた子。名前を聞こうとしたらな。通りすがりの魔法少女だって言ってどっか行っちゃったんだ」

「あっはははは。魔法少女ねえ」


 エルダが声を立てて笑う。


「懐かしいねえ。あたいも子供の頃には憧れたもんさ。清らかで可憐、嫋やかで麗しく、乙女の鏡。しかしその力は天下無双。地を割り、天を震わせ、悪しき存在を全て無に還し、人々の心に光を灯せし神の使い。たしかそんな感じの言い伝えだよね」

「俺も聞いた事はあるが、嫋やかで可憐なのに剛力とかってイマイチ分からんよなあ」

「ま、多分作り話だし、事実だったとしても大昔の話だからね。その変な子が本当に魔法少女な訳ないっしょ」

「……」


 アイリは手元に視線を落として考え込んだ。


(あれは夢……? ううん、確かに私は見た。話した。魔法少女と。それに、私がこうして生きてるのは魔法少女がドラゴンから助けてくれたからなんじゃ?)


 そんな予感のようなものが頭に浮かんだ。



 と、そこへ。


「おーいっ! 近くのエリアでドラゴンの死体が見つかったそうだぞ!」


 冒険者の興奮しきった声がギルドへと駆け込んできた。


「誰かが倒したらしい!」

「マジかよ! どこのパーティーがやったんだ?!」

「おーいっ、誰がやったんだー?」

「俺だ、俺ー!」

「嘘つくなっ、てめえは俺と一緒に逃げてただろう!」

「じゃあ、一体どこのパーティーが?」

「なんでも、外傷は一つだけだそうだ。まるで、殴り飛ばしたかのような……」

「嘘つくなよっ、どこの世界にドラゴンを殴り殺せる化け物が居るんだよ!」

「最上級魔法で吹っ飛ばしたんだろ? まあ、ドラゴン一撃なんて大賢者でもなければ無理だろうがな」

「んな奴ここには居ねえよ」


 盛り上がり、現場に行こうと浮き立って出てく者もあった。



 アイリはそんな彼らをじっと見ていた。


「で、アイリ。あんたはどうすんだい?」

「え?」

「このままここで新しいパーティーでも組むのか、それとも王都に行くのか。確か、ここに寄ったのは王都に行く途中だったからだろう?」

「はい。私はこのまま王都を目指します。すみません、お役に立てなくて」

「そんな事ないさ。ねえ、ザイド」

「ああ。短い間だったがありがとな。こんな世の中だ。旅の道中は気をつけてな」

「は、はいっ」


 アイリはその場で頭をペコリと下げた。


(そうだ。せっかくこうして生き延びられたんだ。王都に帰らなくちゃ)


 手のついていなかった料理を黙々と口に運ぶアイリ。


(それにしても……魔法少女……。可愛いかったなあ。また会えるかな?)


 もし会えるような事があれば、礼を言おう。



 そんなほのかな決意を持つ冒険者の少女であった。



お疲れ様です。次話に続きます。

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