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13話──我らの住居へ

 






「よしっと……」


 最後にこのベルトみたいなのでズボンを止めれば、と。

 やや大きめのバックルの止め金を固定し、着替え完了。


 この世界での一般的だという服を提供してもらい、それに着替えた。鏡の中にはいかにもパッとしないモブっぽいナイスガイが居る。


「意外にそんな奇抜な格好でもないな」


 少し古風なデザインだが、シャツにズボンなどの作りはあまり変わらない。

 俺は着替え用に使った空き部屋から出て、隣の王女の部屋をノックした。


「おーい。着替え終わったぞー」

『はーい。私も終わりましたー』


 ハトエルの返事を受けて中へと入る。


「あっ、望さん似合ってますよ」

「おう、そうか」


 ハトエルも、これまたこの世界の子供の一般的な服装であるという服に着替えていた。髪をアルメが櫛で丁寧にすいている。


「どうですかー? 望さんっ、可愛いですか?」

「ふーん。まあ、悪くないな」


 白いワンピースの服と薄茶の上着の地味な色合いだが、ちょこっと小さな赤い靴といい、童話から出てきたかのような女の子になってる。


「天使っぽく振る舞わなければお前も天使のように可愛いな」

「えへへ~、そんな~。天使のように可愛いだなんて~。私は天使ですようっ。きゃっ」


 まあ、可愛いし何も言うまい。


「はい。これで大丈夫です。ノゾムさんも良くお似合いですよ」

「しかし、VIPにしては貧相な感じだなあ。もっとカッケエのは無いのか? 黒と深紅、深紫を基調としたクラシックコート的なやつとか」

「いえ、こちらの服装は住居に馴染んで怪しまれずに済むかと思って用意したものです。正体を隠す以上、王家との繋がりもバレないようにしなければなりませんから」

「ふーん?」


 まあ、目立たない方が好都合ってわけか。


「それではお二人とも参りましょう。裏門に馬車を用意してあります。私も少し遅れて参りますので、先にお待ちになっていて下さい」


 アルメが呼び鈴を鳴らすと、上品な雰囲気の年配の紳士がやってきた。


「こちらの者が案内いたします。彼は最も信用のおける人間ですので、お二人の正体も知っております。爺や、粗相の無いようお願いね」

「かしこまりました。どうぞ、こちらへ」


 アルメは何か用意があるらしく、俺らだけで城の裏門とやらに案内される事になった。


 城の廊下を歩いてる最中、紳士が話し掛けてくる。


「申し遅れました。私、アルメ王女の元教育係のオーネットと申します。お二人の事は伺っておりますので、どうぞご安心ください」

「私、ハトエルです!」

「俺は望」

「ご丁寧にありがとうございます。天使様につきましては、天使だとバレないよう、お名前のハトエル様で呼ばさせていただきます」


 流石は紳士だ。なんか言動の端々に物腰の柔らかさのような気品がある。


 オーネット爺さんの案内で、城から出る。

 裏口らしく、周囲は壁や庭木に囲まれていて、これでは外側からも見れないだろう。


「どうぞこちらへ」


 さらに歩き、似たような狭い道を通っていくと、ようやく小さな門が見えた。前に馬車が停まってる。馬は俺の知る馬と変わらない。


「私が御者を務めさせて頂きます。お二人はどうぞ中でお待ち下さい」


 そう言って、オーネットの爺さんがバサッと古びた外套と帽子を手早く装備する。先ほどまでのエレガントな紳士姿から、どこにでも居そうな爺さんへと早変わりだ。

 俺らは言われた通り、そのまま馬車へと乗った。


「間もなくアルメ王女も来る事でしょう」


 その言葉通り、俺らが来た道から一つの人影が現れた。フード付きのくたびれた外套を着た女性。近くに来てアルメだと分かった。どうやらドレスではなく、俺らのような庶民的服装になってるようだ。顔を布で覆っている。



「大変お待たせしました。それでは参りましょう。爺や、お願いね」

「かしこまりました」


 アルメも乗せて、オーネットの発声と馬のいななきによって馬車がゴトッと動き出した。


 車体には窓が付いていたが、カーテンが閉められていて、薄暗く、外はほとんど見えない。


「今からお二人の住居に向かいます。このまま馬車で行けば三十分もしないでしょう」

「そうか。それにしても、あんたのその格好は?」

「住居近くには一般の民家もあります。ですので、私が来ているのを見られたら騒ぎになりますので」


 なるほど。お忍びってやつか。


「けどよ、王女様が一人で外出なんて危なくないか? お付きのイケメンナイトは居ないのか?」

「そちらはご心配なく。オーネットは元親衛隊隊長でもあります。兵士百人を連れるよりも確実でしょう」

「へえ。あの爺さんそんな強いのか」


 馬車がガタンっと揺れる。


「多分、町の道に出たのでしょう。少し揺れますのでお気をつけ下さい」

「おおっ、町か!」


 カーテンをちょいっと開けて覗いてみる。


「おお~っ」


 ちゃんとは見えないが、いかにもRPGなどに出てきそうな風体の建物や、思ったよりも近代的な建物などが入り交じった町の姿があった。

 石畳の道に、レンガの壁の家や、真っ白なセメント壁の家。木造の宿らしき建物や、通りに立ち並ぶ露店。俺らと似たような服を着た人間が忙しなく歩き回っている。


「うん! RPGの最先端都市の外観のイメージピッタリじゃねえか。やっぱこうでなくちゃな~!」

「望さん、私にも見せて~」

「駄目だ、駄目だ。ここは俺の窓だ」

「ケチっ」

「まだ時間もありますから、改めてノゾムさんのお役目について話しておきますか」


 アルメが姿勢を改める。


「ノゾムさん。改めまして、私からのお願いを申し上げます。貴方にはいざという時に魔法少女になって帝国と戦ってもらいたいのです」

「いざってどんな時だよ」

「例えば重要拠点が陥落しそうな時。この王都に敵が攻めてきた時。逆に魔王との決戦の時。そういう大事な時に真価を発揮して頂きます。その際は、先ほど話したように魔法少女としてのイメージも損なわないように気をつけて下さい」


 嫌だけどな。が、大事なスポンサーだ。仕方ない、ここは表向き了承しておこう。


「まあ、しゃあないな」

「しかし、それ以外はご自由に暮らして頂いて構いません。平和が戻るまでは今の話でよろしくお願いいたします」



 外の景色が賑やかな町から、段々と静かな家並みへと変わっていく。


「静かになってきたな」

「もう間もなくです」

「しかし、一般の居住区の中に王家から支給される家があるとはな。いや~、どんな豪邸だろうな~」

「豪邸?」

「ああ。城ほどでなくとも、さぞかしリッチな家なんだろ? 楽しみだな~。な、ハトエル」

「はいっ! 私、庭にブランコが欲しいです!」

「おう、買ってやるぞ。なんなら庭ごと買ってブランコだけじゃなくて、シーソーとジャングルジムも付けてやる」

「わ~い! 木で出来たベンチも欲しいです~!」

「はっはっは、しょうがねえなあ。王女様、後で金もよろしくな」

「は、はい……いや、あの、えっと~。その件なんですが、先に言っておかなければならない事が……」


「どうどう」


 ──ゴトッ……──


 馬車が止まった。


「……着きました」


 アルメがドアを開けて先に下りる。俺とハトエルが後に続く。


「うっ」


 外に出た途端、眩しい太陽の光に迎えられた。今は真昼間のようだ。


「マブいぜ。おお、これはまた……」


 辺りは素朴な民家が並ぶ住宅街だった。

 白い石壁が横に伸びて、いくつもドアや窓の付いた集合住宅的な居住区も多いようだ。


 ふ。こんな庶民住宅街の中に王家提供の豪邸があるとはな。嫌みったらしいじゃないか。俺好みだ。


「で? 俺らのキャッスルはどれだ?」

「……こちらになります」

「ん? 何も無くないか?」


 王女が手で示す方。そこには豪邸が無い。

 代わりに、雑草の樹海に沈んだ小さなわらぶき屋根の家があった。この辺りで一番みすぼらしい。と言うか、廃墟だなこりゃ。


「おいおい、廃墟じゃねえか。あ、ここは物置で、こっから歩いて居城に行くわけか」

「いえ……あの…………ここが、提供出来る住居でして……」

「……フッ。王女様はご冗談がお好きだな。そういうとこもチャーミングだ」

「な、なんと言えばよろしいのでしょうか……信じてもらえなくても仕方ないかもしれないのですが、ここが今の私に用意出来る精一杯の場所でして……」

「…………嘘だよな?」

「いえ。嘘でも冗談でもありません……」

「…………は、 ハハ。なるほど、外観は悪いが、中は魔法の力なんかで大豪邸になってる感じか。そうだよなー、こんな庶民街角の中で豪邸なんて空気読めないもんな。うん、カモフラージュは大事だ」


 まあまあ。まだ焦る時じゃない。ドッキリには簡単にひっかからないぞ。


 アルメはしゅんっとして、俯きながら先立って廃墟へと歩き出した。


「ノゾムさんのお気持ちはもっともです。しかし、私は私の責務を果たさねばなりません。どうぞ、天使様もこちらへ」

「はーいっ」


 パタパタと走ってくハトエルの背中を、俺も冷え始めた肝のまま追った。



お疲れ様です。次話に続きます。

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