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スライム 人間になる  作者: 浅川 大輝
屋敷生活編
9/50

一旦全てを忘れて

 俺は今、ベッドに横たわり天井を見上げている。ただ見上げている。何もせずぼーっと、見ている。

ソウカの事を調べない訳じゃない。俺の力についても同じだ。では何故今俺は何もしていないのか。そうだな。しいて言うならば。


 人間の生活が最高すぎる。


―――――――――

病院でのあれこれが終わった後、いくつかの事を付き添いのメイドと先生が話していたが、その時ちょうどソウカの事や力の事など色々と考えていたから聞き逃してしまった。


 が、付き添いのメイドが病院からの帰り道に教えてくれた。今ソウカは記憶喪失。でも無理に思い出そうとせず、しばらくは安静にとの事だ。


 だが待て。俺はスライムだ。つまり何が言いたいかと言うとこのままソウカになりすまして屋敷に行くのはマズイのではという事だ。


 別にソウカとして生きていく事に不満がある訳では無い。むしろソウカという貴族(仮)になれた事は幸運な事であろう。


 絶対な金と安全が保証されているからだ。


俺も出来る事ならばこのまま一生ソウカとして生きていたい。


 しかし、万が一バレたらどうなるだろう。相手からみたら俺は貴族殺し&貴族の体乗っ取り。当然お説教なんかで済むはずも無く、多分死刑だ。バレたその瞬間殺される可能性さえある。


 ならば俺はどうするか。正直人間の体を諦めるという選択肢は無い。今ソウカの体を諦めれば、今後の俺の人生で次にいつ人間になれるか分からないからだ。もしかしたら今後一生なれる事はないかもしれない。


 と、なれば今日の夜にでも屋敷を抜け、顔を隠し遠く離れた街で、誰もソウカを知らない街へ行くしかない。


よし、これで行こう。


――――――――――――――


 そう思っていた。屋敷に着くまでは。


屋敷に着いたらまず自室に案内された。その自室はとにかく広く。豪華だった。これまでも色々な部屋を見て来たが、今まで部屋と比べると、人間とその辺の魔物ぐらいの差があった。


 次に時刻は昼時という事で、食事を取る事になった。


 スライムは何かを飲み食い出来ない。故にこれは初めての食事になるのだが、普通に美味しかった。


 こんな美味しい物が食べられなかったスライムの体を改めて恨んだ。


 安静にとの事で、食事を取った後は自室に戻って休んでいた。


 部屋には天井まで届く大きい本棚が三つあったので試しに本を読んでみた。


 言葉は理解出来るが、喋れない&文字を書けない俺。

ならば言葉は読めるのか……


 結果は何故か読めた。この流れからして絶対に読めないと思ったのに。


 が、特別本の内容が気になる訳でもなく、パラパラと数ページ巡って本棚に戻した。


 魔法に関する本があれば別だが、それ以外には興味は無い。


 この辺でそろそろ今日の脱出計画を練ろうと思い色々考える。


すると、何やら下腹部が痛くなって来た。


 これはあれだ。催しているんだ。スライムはそういう事はないが知識としては知っている。

 

 身振り手振りで、トイレの場所をメイドから聞き出し、トイレに。


 初めてのトイレ、思いっきり溢した。全部床に垂れた。というか体から液体が出る感覚が気持ち悪い。


 とりあえずメイドに指差し報告して、掃除してもらった。


人間として生きていくならトイレの練習は必須だ。


 この屋敷に来て、俺の能力について、少し分かって来た事がある。


 俺は人間になったばかりだというのに体はなんの違和感もなく、普通に動かす事が出来る。言葉の意味も分かる。だが喋れない。


 というように、人間としての基本動作は出来るが知識がない物や感覚として分からない、声の出し方などは出来ないのだと分かった。


 そんな感じで次は夕食。食べ終わって次は入浴。


 今までのザディとの旅で水浴びならばあるが温かい湯にはいるのは初めてだ。


 恐る恐る足を湯につける。次にもう片足と入っていって、最後には全身を浸からせる。


 滅茶苦茶気持ち良かった。最高だ。


 そして一日の最後は就寝。と、行くのだが俺の一日はむしろここから。何故ならここから脱出するのだから。


 しかし、一つの心残りが俺にはある。


それはベッドだ。以前旅の途中何度かザディと宿に止まった事がある。旅に疲れ切ったザディがベッドに叫びながら飛び込み、沈むように眠る。


 俺もやりたいと体で表現したら、スライムはベトベトしているから駄目だとお預けをくらったベッドが、今俺の目の前にある。


 今の俺は人間。ベトベトのスライムじゃない。


 最後にベッドに飛び込んでから脱出しよう。そうしよう。


 憧れのベッド。まずは深呼吸。


「^*%#」


相変わらず吐息の様な声しかでない。まあ深呼吸も吐息のようなものだから今は良い。


 「#%!」


俺は意を決してベッドに飛び込んだ。


瞬間。沈みゆく体。意識が飛びそうになった。


 気持ちよすぎる。風呂で温まった体を柔らかなベッドで包み込む。


 どんどんと意識が薄れてゆく。


 最後の瞬間。思う事はただ一つ。今まで碌な人生じゃ無かった分、何も考えず今を最大限楽しめば良いじゃないか。

―――――――――


 朝起きて、冒頭に戻る。この一連の流れが俺を狂わせた。

もちろん色々な事を放棄するつもりではない。ソウカに成り済ます危険性。俺の力とソウカの事件。


 でも少しくらい今を楽しんだっていいではないか。今まで苦渋を舐め続けた人生の分。今の金持ち生活を謳歌したって良いじゃないか。

 今だけは一旦全てを忘れても良いじゃないか。


あと二日程はダラダラする事にした。


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