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スライム 人間になる  作者: 浅川 大輝
屋敷生活編
7/50

番外編中編 その目

 俺は弱い。今までの旅を全否定するようで、認めたくはなかったが。この結果になった以上認めざるを得ないだろう。


 父から貰った剣は折れ、守るべき人も守れず。それにここまでの道のりで路銀も空だ。文字通り俺には何も残っていない。


  その夜は思いっきり泣いた。


泣いた理由は色々ある。でもそれを引き摺ってこのままでいるのは一人前の戦士がする事ではない。


泣くのは今日で最後だ。


―――――――――


 いくら決意しようとも旅にお金は絶対になくてはならない。その為今いる街を拠点にしばらくは働く事にした。


 それからの俺の生活はかなり変化した。


まずは朝起きたら走り込みと軽く体を覚ます。その後適当に身支度を済ませて、仕事に行く。


仕事は体を動かせる物にした。土木作業から物運びなど。


 夕方に帰り少し休んでから筋トレ。以前までは筋トレとセットで剣の素振りをやっていたが、今その剣は持っていない。日々の仕事のお陰で安い剣ならば買うお金は貯まったが、しばらく剣を買うのは辞めておいた。


 父は大きい方の剣を一人前の戦士の剣と言っていた。ならば短剣の方はなんだと考えた時、短剣は半人前の剣だと思った。


 俺はその半人前の剣ですら守れなかった。ならばしばらく剣を持つのは辞めようと思ったのだ。次に剣を持つのは、体も心も強くなり慢心を自信に変えられた時だ。


 その様な生活をして、一年と少し。村を出てから二年程たった頃。


 しばらくは余裕を持って旅を続けられるくらいに金も貯まったので街を出た。


 もう旅行にはさせない。改めて決意し、自分の頬をピシャリと叩く。


――――――――


 とある森の中。何やら向こうが騒がしい。


行って木の影から様子を見ると一匹のスライムが複数の魔物に襲われている。


一匹のスライムに対し、空中にも吸血鬼の魔物。下には木の棒を持った豚頭族。どちらの魔物も小さく子供のようだが、スライム一匹を倒すのには過剰すぎる戦力だろう。


 誰がどう見ても絶望以外の言葉では言い表されない状況だ。


なのに、俺はスライムの姿を見て、自身の目を疑った。


スライム自身も今の状況を理解出来てない訳ではないだろう。過剰な戦力の相手。それに対するのは最弱の魔物と名高いスライム。


なのにスライムはその小さな体を必死に動かし、策ありと言わんばかりに目の前の木に向かって這うように移動している。


スライムはこの絶望的な状況で、諦めていないのだ。


この状況。複数人で一人を虐めるこの状況。助けに行かない理由はどこにも無い。今度こそ助けて見せる。


 以前の自身が強いと勘違いしていた俺は真正面から突撃していただろう。


 しかし今は自分自身の力を理解している。間違いなく今の俺では奴らに勝てない。不意打ちをしようにも剣を持っていない。


 せめて木剣だけでも街で買っておくんだった。と後悔する。


なら俺が取れる択はただ一つ。奴らの死角から現れスライムを抱えて、ただ逃げる。


空には吸血鬼が二匹。地には豚頭族が三匹。


そのまま歩いて行くのは駄目だ。ならば。


俺は遠くの木から、虐めの現場近くの木を目指して、付近の木を飛び乗って移動した。


 スライムの真上の木に、音を立てずに飛び乗る。木の枝と葉のお陰で上からは多分見つかってない。


 豚頭族は鈍いと聞いていた通り、こちらには気づいていない。


 豚頭族が逃げるスライムに木の棒を振り上げる。


が、自身の力とその棒の大きさが合っていないらしく、少し豚頭族はよろける。


 それを見て、勢いよく俺はスライムの前に飛び降りた。


と、同時にスライムを抱えて瞬時に走り出す。


 豚頭族の一人はいまだ、よろめいていて、残りはトロイ為反応が遅れている。吸血鬼はワンテンポ遅れて追いかけて来たが、一度走り出した獣族は反応が遅れた吸血鬼なんかには追いつく事は出来ない。


後ろからは奴らの叫び声が聞こえるが、そんなの無視だ。


 俺達は逃げ切る事が出来た。


そう逃げ切る事が出来たのだ。不意をついた形とは言え俺は、虐められていたスライムを助ける事が出来たのだ。


 この一年の生活は、努力は今度こそ無駄には終わらなかった。


そういえばと思い出すように、手からスライムを下ろす。少し手がベタベタしていた。まあ別に気にはしないが。


「やったな。逃げ切れたな。」


返事が返って来ない。


そういえばスライムは喋れないんだったか。


「怪我はないか?」


スライムは縦に頷く。


「怪我してるか?」


スライムは横に体を振る。


質問形式でいけば意思疎通は出来そうだ。


が、後は一言二言話してスライムとは別れるつもりだった。


 だが、不意に見たスライムの目を見て、その気は完全に失せた。


 「スライム。俺と旅に出よう。」


気づけばそう、口から言葉に出ていた。


スライムは申し訳なさそうな顔をしているが、そんなのどうでも良い。


「強くなりたいんだろ。大丈夫。俺は一人前の戦士になる男だ。スライム一匹荷物が増えた所でなんともないぜ。」


なおもスライムは申し訳なさそうな顔首を横に振り、断ってくる。


 「じゃあお前が目標を達成出来るまでで良い。俺と行こうぜ。」


というと、スライムは折れてくれたようで、渋々といった顔で俺について来た。


 「よろしくな。スライム。」


この時は何故俺がスライムを旅に誘ったのか自分の事なのに分からなかった。


 でもスライムと別れた今ならば分かる。あの時のスライムの目に強さへの憧れを見たからだ。


 俺が一人前の戦士を見る目をスライムは俺に向けて来た。


その目で俺を見てくれた事。


きっとスライムも強さに憧れがあるのだろう。でも所詮スライムには出来る事に限界がある。


一人旅に出たところで、先程の様に魔物に何もできずに終わってしまう。


 強さに憧れたまま何も出来ないのはどれほど辛いだろう。


強さに憧れを持つものは旅に出るべきだ。


俺という護衛がいればスライムは旅を出来る。


 そう思ったから俺はスライムを旅に誘った。






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