昔々の物語
その日、俺は例の仕事で手に入れたお金で山のように積めるだけの本を買ったので朝から一日かけて、全て読破しようと意気込んでいた。
が、しかし。そんな俺の予定はミネラさんの一言で、身を翻すように覆る事となった。
「スレイヤさん」
「なんですか」
横からの声に、俺はどこかの愚か者とは違いすぐに本を閉じて相手の目を見る。
「今日って何か予定はありますか?」
ちらりと積み上げられた本を見て、俺は答えた。
「何もないです。暇です」
「良かった、じゃあこれをグランド君に届けてくれませんか?」
手に持っていたのは弁当箱。
「あの子、いつも研究研究って。きっとまたロクなものも食べていないだろうから」
全く優しい事だね。
「任せて下さい」
俺は無くなった胸を張って、何かを宣言するかの様な立ち振る舞いで、堂々と即答した。
いや前の身体も胸は無かったか。
しかし、こうもアッサリと今日の予定が変わると実感するが、どうも俺は周りに流されやすいというか、なんというか。
今回は他ならぬミネラさんの頼み事というのもあるのだけども、最近でいうと好きな小説の主人公に影響を受けた俺が、ついその口調で喋ってしまったり。
古く昔の記憶を掘り起こすと、俺が性別の無いスライムであるのにも関わらずこの一人称なのは、当時一緒に旅をしていたザディの影響によるところだし。
こう見ると俺は流されやすいというより、影響を受けやすい。または、自分を持っていない。という事になるんだろうな。
そんな事を友人の家に行く道すがらで考えていると、ようやく目的地のグランド宅に着いた。
少ない予算で購入した割には中々な外見で、立地も悪く無い所だった。
扉を叩く。
「遊びに来たぞ」
返事が無い。
ただの…と思ったら中から慌ただしい足音と、物がぶつかりまくってる音が聞こえる。
そうして、中からくたびれた様子のグランドが出て来た。
「やあ、どうぞ入ってよ」
「おう」
足を上げて一歩踏み出そうとして、空中で足を止める。
ゴミが散乱する踏み場の無い床。どこに足を付ければいいんだこれ。
俺はどうやらとんでもないゴミ屋敷に来てしまったみたいだ。
「少しくらいは片付ける気無いのか、この床を見て」
「気はあるよ。時間が無いんだ」
俺は少し迷って、これを片付けてやろうと思った。
コイツには少なからずどころか、かなりの恩がある。
ここで、少しくらい恩返しをするのは俺としてもやぶさかではないし、バチなんて当然当たりはしないだろう。
一見、ゴミのように見えるが、よく見ると何かの資料にも見えるし、失敗作の発明品らしき物も転がっている。
俺は逐一確認をとりながら、いる物いらない物を分別して捨てていった。
一時間後、この部屋は生まれ変わった。
キチンと踏み場のある床に、整頓された棚上。お手本のように寸分狂いもなくしまわれた本棚。見間違える程に部屋は生まれ変わった。
いや、俺がそうしたのだ。まさか自分にこんな才能があったとは。
片付けは意外にも楽しかったし、仕事にしたら天職になるかもしれない。今後の参考にしよう。
「いやー助かったよ」
「いいって事よ」
俺は当初の目的であった、弁当袋を渡した。
「久しぶりのミネラさんのご飯。何か込み上げてくるものがあるよ」
良かったなグランドよ。と、クールに去ろうとした俺をグランドは呼び止める。
「待って、久しぶりにあれをやりたいんだけど」
あれとはなんだろうと、数秒考えて。
あぁ。と思い出す。
「まだ、君の能力というか不思議な力については何も分からずじまいだったからね」
あれはまだ俺達がソウカの件に着手していた頃から始まり、俺が人間の身体をグランドから貰った時にも、一度研究をして、そして今日に三度目の俺の能力解剖をしようと、グランドは言っているのである。
三度目。三度目の正直というやつだ。そろそろ何か判明すれば良いのだが。
俺はともかく、気になる事はなんでも知りたいグランドが、一向に研究成果を得られない様を見るのはもう懲り懲りだからな。
早速俺達は実験、研究に入った。
の、だけど。結果から言えば俺達は二時間をドブに捨てた事となった。
俺の能力の解剖とは、具体的に言えば
何故俺がソウカに入った時に、ボロボロだったソウカの身体は綺麗サッパリ傷がなくなったのか。
何故相手の言語は理解出来るのに、当初俺は喋る、書くが出来なくて、読むは出来たのか。
入った相手の人格が、俺に侵食する。
そもそも何故、何かに入る事が出来るか。
など、他にも細かな所も調べているが大まかに挙げるとこんな感じ。
グランドが、メモ書きばかりで何の答えも書かれていない髪を机に置いて、腕を上げ伸びをする。
「いやーお手上げだね。全く何も分からなかった現状に悲しくなって来たよ」
「もう一度訊くけど、その力ってのはいつ頃から使えたんだっけ?」
「いつ頃っていっても詳しくは覚えてないんだよな。」
「その力は生まれ持ったものだったのかな」
どうなんだろう。俺も火事場の馬鹿力でたまたま使えた能力だと思ってるからな。
結局、これ以降も諦めの付かないグランドに付き合って俺は何度も研究に望むのだが、得られた成果は変わらずのゼロだった。
―――
その日、俺は最近訪れていなかった友人宅に遊びに来ていた。いつぞやとは違い、今回は誰に頼まれた訳では無い。
扉を叩き、俺を出迎えた友人とその後ろに広がる部屋はいつも通り汚かったので、これまたいつも通り俺が片付けて、綺麗になった部屋で俺は一息ついて席についた。
そしてその対面に座るグランド。
しはらくは二人でたわいもない話を繰り広げていた訳だが、その間ずっと俺の目を引く、一冊の真っ黒い、ドス黒い本が、棚からチラ見えしている。
いい感じに話も落ち着いた所で、俺は立ち上がり本に手をかける。
そこで、ここは研究室兼家だったと思い出し、何か大事な書類だとか、見られたく無い物だったら…と、俺はグランドに許可を取りようやくその本を開いた。
一体どんな悪々しい、禍々しい内容なんだと、やや覚悟して恐る恐る中身を見ると、一番最初のページの上にデカデカと「世界の謎」と書かれている。
次のページは目次
そん次は白紙。
次を飛ばして、いよいよ活字びっしりのページに辿り着いたので読み進めていく。
「消えた大陸」
長いので内容は割愛する。
端的に言えば、栄えに栄え。繁栄に繁栄を重ねた大国がほんの一夜にして跡形も無くなった。そういう話だった。
「遥かなる大海に浮かぶ金の島」
長いので内容は割愛する。
端的に言えば、読んだままの通りで、海に全体が金で出来ている島があった。そういう話。
「あるはずの無い大陸」
長いので内容は割愛する。
端的に言えば長年使われて来た、地図には載っていなかった大陸が突如として現れた。そういう話だった。
他にも何十個かの物語はあったが、長いので内容は割愛する。
しかしどの物語も現実離れしていて、とても面白かった。満足。
どの物語にも、探検家の名前が乗っていたのはちと気になるが。まさか実話ではないだろう。
「大昔にそんな事があったなんて驚きだよね」
「え」
本を読み終えたのを見計らった様に、グランドが横から突っ込んでくる。
「全部実話、本当にあった話なのか?」
「そうらしいよ。その本の著者の人は古代人の生き残りで、世界各地を回った人だから信憑性は高いんじゃないかな」
そういうと、グランドは奥の部屋から二冊の古書を持って来た。
「それは?」
「その本と同じ人が書いた本だよ。『世界の謎』の答え合わせというか、そういうのが載ってる。読んでみてよ」
渡された古書を、受け取り中身を見る。
これまた内容は長いので割愛する。
が端的に言えば。
古代と呼ばれる時代よりさらに前の時代。世の中には今でいう神がいて。神は人類のありとあらゆる要望を叶える為に世界を周り歩いた。
食糧難に貧する奴らに会えば、神はその場で海を創り、大地を創り、食べられる生物を生み出した。
まあ全部まとめていうとこの神は何でも造れて、なんでも知ってて。いわゆる全知全能ってやつだな。
この本の著者は、全ての世界の謎は神が生み出したと考えているようだ。
しかし、そんな神はある時を境に姿を消した。
そのある時というのが、古代大戦が終わる頃。
ちょうど、世界が今の世界に生まれ変わった頃。
それから今日に至るまで、神はいまだにその姿を見せていない。
「どう思う?」
またまた、読み終わった頃にグランドが突っ込んでくる。
どうと言われても、実際に証拠なんかがある訳でもないからな。なんとも言えないのが正直な所だ。
「分からん」
俺はそれしか答えられなかった。




