二転三転四転
相手の言葉に、思わず固まってしまう。
A班?他にも班があるのか。
いやそんな事じゃなくて、ソウカ様?
誰じゃそりゃ。
ああ、俺か。そうだそうだ。今俺はこの身体を手に入れて、人間なんだった。
「ソウカ様。まずはご無事で何よりです。」
人間の言葉に、思わず緊張する。
話しかけられたのだから、何か返さなければ。
でも何を話せばいいのだろう。
挨拶?それとも、相手の話に合わせるべきか。
いや何事もまずは挨拶から。
よし、やるぞ。
「#%*£€」
あれ。上手く、口を動かせない。
上手く、言葉が話せない。
そもそも、どうやって声を発するのか…分からない。
「え?あっ……。」
マズイ。相手の人も困惑してる。気まずい雰囲気になっちまった。
でも当の俺も困惑してる。
なんで上手く喋る事が出来ない?相手の言葉はハッキリと理解出来ているし、喋る事はできると思ったんだが。
「あ、あのソウカ様。とりあえず一旦お屋敷に帰りましょう。ミネラさんも心配しておりますので。」
…とても。腫れ物を見る様な、関わりたく無い様な態度をとられた。
絶対変な人だと思われたよ、俺。
制服の人につれられ、森を抜け、付近に停めてあった犬が引く乗り物に乗る。
馬車では無く犬だ。
馬は何度も見た事はあるけど、犬の引く車は初めてだ。
確か馬より数段性能が良いのが犬だったか。
昔にザディにねだって乗せてもらおうとして、金が高いんだと断られた記憶が蘇る。
制服の奴と馬車改めて犬車に揺られること数分。
犬車は、大きな屋敷の前に止まった。
「さ、行きましょう。」
俺達は、犬から降りると、運転手は犬を屋敷の裏庭へと連れて行った。
ここで、飼っている犬なのだろうか。
あのバカ高い犬車といい、この屋敷といい。ここはとんでもない金持ちの家だな。
制服の人間は、屋敷の門を抜け、荷物を持っては絶対歩きたく無い長い道を通り、これまた大きな扉の前で足を止める。
扉を叩き、一言。
「ソウカ様をお連れしました。」
それから一秒の間を開ける事なく、扉は全てを吹き飛ばす勢いでぶち開けられた。
「ソウカ!良かった無事で。」
突風の如く、屋敷の中から飛び出して来た人間に俺は抱き付かれた。
「本当に良かった。駄目でしょ。勝手にいなくなっちゃ。」
人間の声は、少し掠れて涙ぐんでいた。
涙…?
なんで、急に泣いてんのこの人。
強く抱きしめる、腕がちょっと窮屈で、俺は人間の肩を軽く叩く。
「ごめんね、思わず力入っちゃった。」
パッと俺から離れた、人間のは俺を見て、次に自分の服を見る。
人間の身に付けている白い服が、泥と少しの血で汚れている。
それを見たメイドの顔がみるみると青ざめていく。
そして震えた声で俺に問うた。
「…ソウカ。その汚れは?あと少し赤…。」
色々と答えてやりたいとこだけど、俺話せないんだよね。
どうしたもんかと黙っていると、まだいたらしい制服の人間が横から口を出す。
「どうやら、ソウカ様は喋る事が出来ないようでして。」
「え!」
泣いた人間が、俺を恐る恐る見る。
俺はすぐに、頷いた。
メイドはそれを見て、もう一度俺の服に視線を落として。
最後に自分の意識も落としたようで、その場に倒れた。