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子分

 ある日の事。俺も人にとやかく言えないほどにダラリとした体制で本を読み耽っていた時である。


 何やらガチャガチャと弄っているグランドが顔を上げて俺に言った。


 「そういえば、この近くで戦争が起きるみたいだね。」


と。


「ほぉ………。」


 グランドの奴が何の気なしに、世間話の様にとんでもない事を言い出した。


 「え!戦争?」


だからという訳ではないけれど、それだけが理由という訳ではないけれど。


 決して俺が戦争の単語にビビった訳でもないけれど。


俺は次の瞬間には買ったばかりの木剣を握りしめて、庭にいた。


 せめて自分の身は自分で守れるくらいまでは強くなろうと特訓し、力をつけようしようとしたのだ。


 しかしいざ握ると分かるけれど、ここから次にどう動けばいいのか分からない。


 なんせ剣を構えるのは初めてみたいなもんだ。


ではなんでそんな俺が早くに力を付けたいのに、触った事の無い剣術からやりだしたのかというと。


 答えは単純。単に俺がやりたかったから。


やっとこさ自分だけの体を手に入れたのだから、自分がずっとやりたいと願った事を片っ端からやろうと思ったのだ。


 その手始めに剣術という訳だ。でも、グランドによると人は剣士を極めたら魔法使いにはなれないし、その逆もまた然り。との事。


 だから俺はその間をとって、魔法剣士を目指そうと思っている。


 遠距離なら魔法。近距離なら剣で。そんな二つのいいとこ取りみたいな役職だけれど、これには欠点があった。


 魔法と剣術は、体の動かし方も、魔力の流し方も異なる。なので、その二つを両方使うならば、どちらか一方を極めている人には絶対に敵わないし、どちらか一方を極める事も叶わない。


 そんな絶対の決まり。定められたなんちゃら。みたいなのがあるが、俺は元より、自分が何かを極められるとは思っていない。


 良くて一般人よりちょい弱い。くらいまでしかいけないだろうと思っている。


 だから、そんな俺にはどちらもいい塩梅に使える魔法剣士という役職はうってつけなのだ。


と、意気込んで始めたはいいものの、やはり剣のあれこれはサッパリ分からん。


 魔法ならこういう時は本を読み、その内容を頭に叩き込み、実戦で体に覚えさせる。ってのが鉄板なやり方だが、剣術は誰かにやり方を教わって、ひたすら体を動かすしか覚え方は無いのだ。


 その為、どうにかこうにか師範になってくれそうな人を探したいんだけど、どうしたものかね。俺の人脈は狭いし、その狭い中を探っても、剣に長けた奴なんて見当たらない。


 まあ、一人いない事もないんだけど、そいつとは諸事情によりこちらから物事を頼みづらいからな。おまけにどこにいるか分かんないし。


 俺は剣を置いた。決して諦めた訳では無いけれど、今日の所は魔法の修行をした方が時間を有意義に使えると判断したのだ。


 ――


朝、目が覚めたミネラさんはその日の天気の良さに気分も良くなり、すぐに家中のカーテンを開けた。 朝日が差し込み、暖かなリビングに「眩しい。」と悪態をつき、ソウカはカーテンを閉めた。


 それを「暗いところで本を読むな。目が悪くなる」と、どこかの母親みたいな事言ってミネラさんがカーテンを開ける。


 しばらくは言いつけを守ったソウカだけども、ミネラさんが買い出しに出掛けた途端に、再度カーテンを閉めて一息ついた。


 一応、俺の為に言っておくと、ミネラさんの買い出しには俺も手伝いとして同行しようとした。それをミネラさんが一人で十分だと断ったのだ。


 せっかくの天気の良さの恩恵を何一つ受けずに、真っ暗な部屋。空気も雰囲気もやや冷めたリビングで、俺達二人、静かに読書に明け暮れていた。


 家には俺達以外には誰もいない。グランドはいつもいないが、ケイはどうしたのだろうか。


 と、一瞬考えたけどそういえば昨日、グランドに着いて行くとか言ってたなと思い出して、再び手に持つ本に目を落とす。


 こういう何気ない、何もない時間を過ごしているとふと思う事がある。自分はここにいて良い存在なのかと。


 俺は、ここの家主であるソウカに、本来は許されざる事を犯してしまった。


 だから、俺はソウカを生き返らせるというので、罪の償いをしようと思ったのだが、結局の所、生き返らせたは良いものの、罪を償えたのかはいまだに分からない。


 グランドとケイは勿論何も言わないし、深く関わるミネラさんも俺を一欠片も咎めようとはしなかった。


 当人である、ソウカに関しては何も分からない。俺は、あの空間での最後のソウカの言葉がいまだに聞けずじまいなのだから。許してくれたのか、それとも他の何かを言ったのか。


 まあ、こうやって家に住まわせてくれている以上は、少なくとも絶交!とかまでの恨みは俺に抱いていないと見ていいのだろうが、ソウカは俺に何も言わない。


 たまに話しかけられたと思えば、冷たい声。それに怖い顔。本当は恨みは抱いているけれど、お情けで住まわせてくれているのではと考えてしまう。


 いや待て。そもそもソウカは最後の言葉を、俺がちゃんと聞いたものだと思っているのでは無いか。


 よく考えると、その可能性が高い気がして来た。


そうならば、ソウカは俺に何も言わない事にも、納得出来る。


 よし。いつまでもウジウジ考えるのは俺らしくも無い。思い切って訊いてみよう。


 「なあ。」と言い切る前に、鳴る扉に俺の声は遮られた。


「客か?なんたってこんな時に。」


「私。ここから動きたく無いから。」


ソウカは一瞬だけ、本から目を俺に向け、そう言ってからまた本に目を戻す。


 「分かった。俺が出るよ。」


一体こんな朝から誰だろうと、考えながら玄関に向かう。グランド、ケイは無い。あいつらの家でもあるんだから、わざわざ扉を鳴らしはしないだろう。


 同様の理由でミネラさんも無し。


まあ、自分では開けることの出来ない絶体絶命!


 なんて、状況に陥っている可能性も否定は出来ないが、実際そうであるかなんて、ここを開ければ全て分かる話しだ。


俺は答え合わせ。と心の中で言って扉を開けた。


 扉の前には、一人の少年を筆頭に後ろにざっと五十人くらいの人々が並んでいた。


 一番前の少年は、ビシっとかしこまって言った。


「こちら、ソウカ様のご自宅であらせられますでしょうか?」


 なんか言葉遣いおかしいなと思いながら、全員の服装を見るとみな、良い服装とは言えず。いってしまえば貧相な格好だった。


 戸惑いつつも俺は答える。


「そうだけど。ソウカに何か用なの?」


「ええ。大事な用がありましてですね。願うならばソウカ様、直々に来てもらえると助かるんですが。」


 しかしなぁ。あいつは多分あそこから動きたく無いだろうしな。


 「悪いが今ソウカは手の離せない大事な仕事中なんだ。日を改めるか、俺で良ければ今話を聞くけど。」


「いえ。貴方はお見受けした所、ソウカ様の部下でしょう。なら嫌です。」


 駄目じゃなくて、嫌なのか。あと俺は部下ではないぞ。


「じゃあ今日は帰れ。」


「ではいつ頃ならあってもらう事が出来ますでしょうかね。」


 知らん。てかこいつと話すの嫌になって来たな。

しかし、そうなればなおさらここで追い返すのも気が引ける。ソウカが会ってくれるまで、コイツはきっと何度もここを尋ねてくるだろう事は目に見えて分かるからだ。


 毎日毎日。扉を鳴らされ、コイツと顔を合わせ、会話をかわす。嫌だね。そんな日々を送るのは。断固拒否って奴だ。


 「あー。分かった。ちょっと待て。今ソウカに会えないか聞いてくるよ。」


「出来るんですか!」


「おう。ちょっと待ってな。」


俺はソウカの元に向かった。


 「ソウカ。お前に話があるって奴が来たぞ。」

「何。誰。私に?」


 ソウカはこれっぽっちも俺の方を見てくれない。これだけでコイツがここから動くのが相当に嫌なのだと察せられる。


 「誰かは知らん。五十人くらいの貧しそうな奴らだった。何の用件なのかも分からん。でも大事な話みたいだったぞ。」


 「貴方。私の代わりに聞いてきてよ。」

「俺もそうしようとしたよ。でも、お前に直接じゃないと、どうにも話をしてくれないんだ。」


 ソウカはやはりこちらを見ない。ページをめくる手は緩まらない。


 「追い返す事は出来ないの?」

「出来る。」

「じゃあ。それで。お願い。」

「でも、そうするとあいつら毎日来るって感じだったぞ。嫌だろ。毎日毎日、今日は会ってやってくれないかと頼まれる日々。」


 ソウカのページをめくる手が止まった。


よし。いけるぞ。


「俺も毎日そんな事をお前に頼むのは嫌だ。だから面倒事は、今終わらせてくれ。」


 ソウカは本を閉じ、それを机に置いた。


 俺の勝ちだ。


「行ってくる。」

「おう。」


そう言って部屋を出るソウカに、俺は着いて行かなかった。


決して、もう奴らに会うのが面倒だったという理由では無い。俺は話し合いの場に邪魔かなと思っただけだ。


 俺はソウカと入れ替わる様に、寝っ転がり、机の本を開いた。


 この本はさっきソウカが読んでいたのでは無い。俺が自分で買って読んでいた、俺が所有している本だ。


 しばらくもかからずに、すぐにソウカは帰って来た。


「早かったな。」


「うん。」


 俺が次の言葉を発せようとした所で、それは遮られた。


「邪魔。ちょっとどけて。」


俺を見下ろす形で、ソウカに睨まれた為である。


 「あいよ。」


俺は近くの椅子に座る。ソウカも、またソファーに寝っ転がる。


 「それで、何の話だった?」


「子分。それか部下。または下僕。最悪奴隷にして欲しい。」


 「そう言われた。」


なるほど。変態集団だった訳だ。


「とんだ物好きもいたもんだな。世の中広い。」


「違う。多分そういう意味で言った訳じゃ無い。」


 それから、続く言葉はソウカからは出なかった。これだけ言えば俺が理解出来たと思ったのか。それとも口を動かし喋る事に疲れたのか。


 まあ、答えが得られない以上、俺はそこに自分で行きつかなければならない。


 と、ちょっとだけ頭を動かしたらすぐに答えは見つかった。


 多分あいつらはそのままの意味で部下にして欲しかった。

最悪奴隷というのは、奴隷になってでもソウカの元にいたかった。


 それは近々戦争が起きる事に起因するだろう。


戦争が起きる。そしてあいつらは少なからず被害を被る地域に住んでいる。だから、強い名と権力を持つソウカの下に付く事で安全になれると思った。


 多分そんな理由だろう。


 間違ってたら恥ずかしいから、直接ソウカに答え合わせはしないけどね。


 暗い部屋。良い天気の恩恵を何一つ受けずに、二人は本のページをめくる。


 静かな部屋には、そのめくり、紙の擦れる音しか響かない。


 

 こういう何気ない時間を過ごすと思う事がある。


やはり、最後の言葉を訊いてみるべきなんじゃないかと。


 でないと、俺はいつまで経ってもそれに悩まされるし、それに人に何かを言うことが嫌いなあいつがせっかく言ってくれた言葉だ。


 いつまでも、実は聞いてませんでした。ってのを隠し通すのも忍びない。


 俺は本を閉じた。そして、「ソウカ。」と言おうとした所で、その声はさらに大きな声に遮られた。


 「あ!また部屋暗くしてる。」


鬼の形相。とまでは行かないけど、中々に怖い顔をしたミネラさんが扉の前に立っていた。


 今日はよく、声を遮られる日だなと思いながら俺とソウカはミネラさんの有り難いお言葉を、暖かな日差しの下、黙って聞いていた。

 


 これは、後日談というか答え合わせになるのだけど。


あの五十人の連中達は、俺の予想通りの……だった。


 そういう訳で、ソウカに五十人の子分が出来た。

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