胃痛
いつもは、リビングで自堕落な生活を送っているソウカだけれど、今日の所は違った。
今日は俺が朝起きた時から、今の今までずっと机に突っ伏して、呻き声を上げ時々、「痛い。」と腹を撫でている。
以前までの俺なら、腹でも壊したのかと勘違いしていたけど今の俺ならば、こうなった原因は一目瞭然だ。
俺は机に置かれている一通の手紙を手に取り、中身を見る。
差出人はゴルダン。誰やねんと思って、グランドに聞いた所、世界最強の一人。ちょっとカッコ悪い言い方をすると、六聖王帝の一人。第五位のゴルダン。
つまり、ソウカは世界で五番目に強い奴から手紙を送られたのだ。
内容は決闘しろ。ただ一言そう書いていた。端の方に小さく日時と場所を書いて。
「…行きたくない。」
机に深く伏せるソウカが、力無くボソリと呟く。
ソウカはとても強い。けれども、それは技術や才能の方で、心の方はかなり弱い。それに加えて、以前ソウカに聞いたけど、ソウカは戦いが大嫌い。
そんな奴に、世界最強が決闘しろなんていきなり言ってきたらそりゃ、こうなるよね。
しかも、絶対に断れない申し出だしね。
でも俺は、そこまで思い詰める必要はないんじゃないかとも思っている。
確かに相手は世界最強の一人。怖がるのは分かるけど、ソウカもまた、最強の一人といっても差し支えないほどの逸材だ。
最強と言っても、相手は五位。そんなに、武の悪い勝負だとは思えない。
ソウカならば、負ける事は無いと思える。誰よりも、この俺が言うのだから説得力はあるはずだ。
俺は、そんなに怖がる必要は無い理由を、あれやこれやとソウカに伝える。
しかし、ソウカの気分を晴らす事は出来ないままに決闘の日が来てしまった。
場所は俺達の住む街から、遠く離れた小高い丘の上。いかにもな雰囲気がある場所だ。
そこに行くと、既にゴルダンは丘のてっぺんで腕を組み、仁王立ちで髪を靡かせて、聳え立つ様にそこにいた。
めちゃくちゃ強者感出てる。
「…じゃあ。行ってくるね。」
ソウカ史上、最も弱気な瞬間は今なのではと思わんばかりで、トボトボとソウカは丘を登っていった。
俺達は、巻き添えを喰らうと危ないので、遠くから観戦。
ソウカが丘に登りきり、ゴルダンと相対する。
二人が距離を取り、両者ペコリと頭を下げた。二人の真ん中に立つ、恐らくゴルダンの従者とおぼしき人が手を上げ、思い切り振り落とした。
それを合図に二人の戦いは始まった。最初に仕掛けたのは、ゴルダン。両手を上げて……。
そこからは、もう何がなんだかよく分からなかった。
戦いが始まったのは確かだけども、何が起こっているのかさっぱり分からない。二人の姿が見えないのだ。
ただ、頻繁に鳴り、割れる地面。穴を空けられる空に空間。眩く、絶え間なく辺りは光っていて、俺の様な雑魚は、もう言葉を失った。
よく分からん。一体何が起きてるの?
っていうのが、ずっと頭を回ってた。
しばらくして、全てが静かになった。戦いは終わったみたいだ。
土煙が酷すぎて、どちらが勝ったのかは見えない。
近くに行って確かめようとするも、万が一戦いが終わってないかった場合を危惧して、もう一人の従者の人に止められた。
土埃が、無くなり辺りが晴れる。従者の許可も降りて、俺達は二人がいた場所に駆ける。
近づくに連れて、状況がだんだんと見えてくる。
まず、あの丘は無くなって、大きな穴になっていた。
そして、穴の前には、ソウカが佇み。ゴルダンの姿はどこにも見えない。
まさか、跡形も無く消し飛ばしてしまったんじゃないだろうな。
と、俺が問い詰める前に、一緒に走っていた従者がスピードをグンと上げて、急いで穴の中を覗き込んだ。
「ゴルダン様。生きてますか?」
従者か、穴に叫ぶ。
しかし、返事は帰って来ない。
それに代わりに答える様に、ソウカが口を開いた。
「生きてるよ。でも気絶はしてる。」
決闘の勝敗はソウカの勝ちで、幕を閉じた。
その後の話し。後日談。
家に帰ると、いつぞやの化け物。アレスレッドが部屋でくつろいでた。
「よっ。久しぶりだな。ソウカ。」
俺とグランドは、思わず逃げた。
でも、ソウカを残しては行けないと震える足を叩きながら、部屋に戻る。
「おい。逃げるなよ。」
俺達を見るなら、アレスレッド様からのお怒りの言葉。
それに、思わず俺達二人は正座する。
「グランド。それに、ソウカ。俺の言葉、忘れてないだろうな?」
名を呼んだ二人の顔を交互に見て、最後に俺を、今気付いた様な顔で見た。
「ん?お前だれ?」
その言葉で、俺も気付く。そういやこの人、俺の事しらないじゃん。
一瞬、俺の事は伏せたままで行こうかと思ったが、バレたら死が待っていたので正直に話す。
「スレイヤです。この前会った時は、ソウカの中にいました。」
「え?……あ、ああ。中にね。勿論分かっていた。」
なんだ。流石、アレスレッドさん。何でも知ってるなぁ。
「そんな事よりも、ソウカ。今日はお前にありがたい話を持って来たぞ。」
アレスレッドは、その辺の椅子をソウカの前に置いて、座る様に指示する。ここ、ソウカの家なんだけどね。
「何?」
「ゴルダンの奴を倒した実力を認めて、お前に六聖王帝、第五位の座をやろう。」
「はあ。」
ソウカはあからさまに嫌な顔をした。
気持ちは分かるよ。その称号なんかダサいからね。
「せっかくだけど、断る。」
「なんでよ。」
名前がダサいからだよ。
「私、称号とか。何かに縛られるの好きじゃないんで。」
名前じゃなかったのか。
アルスレッドは、腕を組み、わざとらしい声色と顔で、いかにも困っている人ですよとアピールした。
「えー。じゃあしょうがないな。」
そして、新たな提案をした。
「ソウカ。この称号を受け取れないってんなら、お前には今から世界中を回って、ゴルダンよりも、少し強い奴を見つけてもらう。それで良いな?」
「私、喜んで五位になります。」
ソウカは即答した。
「え!そう?悪いね。」
と、アレスレッドはまたもわざとらしく返した。
そして、腕を伸ばす。
「よーし。これで六聖王帝の枠が全員埋まったぞー!」
「今までは、埋まってなかったんですか?」
「そうなんだよ。六位がずっといなくてな。でもつい最近、新しく決まったんだ。」
「じゃ、帰るわ。」と言い残し、アレスレッドは窓から飛んで出て行った。
玄関から出ていけよ。




