真実を
元より、屋敷に行くつもりがあっても、社交界に出るつもりが無かった俺は、そのせいもあってか。
ミネラの姿を見た途端。すぐに、その後ろ姿に声を掛けていた。
声は低く、ソウカを演じるというよりは、スレイヤらしい。男らしい声を意識して。
「ミネラさん」
俺はミネラに驚いて欲しかった。すごい顔で、誰ですか貴方はと怒って欲しかった。
でも、その振り返った顔は、いつもと寸分違わずのニコッとした笑顔だった。
「どうしましたか?ソウカ様」
俺はミネラに、時間はあるかと聞き、ミネラは大丈夫だと答えた為、俺達はソウカの部屋に移動した。
「どうしたんですか?帰って来ていきなり」
俺は今。自分の事を、正体を、真実を話そうとした。
しかし、胸の鼓動が速くなる。脂汗が止まらない。
やはり、今まで黙って来た事を言うのは。ミネラに言うのは怖い物がある。
でも、ここまで来たんだ。言わなくちゃ駄目だ。
「ミネラさん。」
声を振り絞る。
「俺は、貴方にずっと隠して来た事がありました。」
ミネラもまた、真剣な顔で聞いてくれている。
「俺は、あの記憶喪失になった日から。今の今までずっと。ソウカに成りすまして生きて来ました。」
声が震える。でも言わなきゃ駄目だ。俺は頭を深く下げた。
「ずっと貴方を騙していて、ごめんなさい。」
ミネラは、怒鳴るでもなく。俺を殴りつけるでもなく。真剣な表情を崩さずに、言った。
「貴方…お名前はなんというんですか?」
「え?名前ですか…スレイヤといいます」
最初の一言がそれで、あっけに取られて、反応が遅くなってしまった。
「そう。スレイヤさん。実はというなら私もですね。スレイヤさんが、ソウカじゃない事は気付いていたんです。」
「…そうでしたか。いつから…気づいていたんですか?」
「いつから。というより、スレイヤさんと接している内に徐々に…です。いくら記憶喪失とはいえ、貴方は何もかもが、ソウカとは違った。」
「…なるほど。」
つい、俺は安堵のせいもあって、抜けた返事になってしまった。
しかし、すぐに自分の姿勢を正す。まだ終わりじゃない。
「では、何故ソウカでないと分かっていたのに、俺を追い出さなかったんですか?そして、俺に貴方は何も言わなかったんですか?」
ミネラの目線が、俺から横にずれる。
「…そうですね。もっと貴方を見ていたかった…からですかね。」
どういう事だろう。
「それは、どういう?」
意味が理解出来なかった俺は率直に聞いた。
「貴方を。というより正確には笑って、楽しそうなソウカを、見ていたかったんですね。私は。」
ミネラは控えめに笑う。しかしその笑みは悲しみを帯びたものだった。
「いつ頃だったかな。いつも笑顔だったあの子が、ある時を境に全く笑わなくなったんです。いつも暗い顔で、もう全部どうでもいい。みたいな態度で。」
「だから、私はいつも笑顔の貴方に、昔のソウカの面影を見ていたんでしょうね。」
俺は言葉が出なかった。こういう時、なんて言えば正しいのか分からなかった。
ミネラが、目の端を指で拭う。
「あの子の最期は、どんなものでしたか?何か言っていましたか?」
…俺が殺したと思われてるのだろうか。まあ、そう思われても無理はないけど。
「いえ、俺はソウカの死に関わっていないんです。」
「ある人物が、ソウカを殺して、俺はその死体を見つけて乗っ取っただけで。なので、最期の様子は分からないんです。」
「ある人物?」
俺はグランドの名を今、出す気は無かった。
「ええ。その人物は、いつか必ず。自分で全てを伝えに来ます。」
そういうと、ミネラは何かを察してくれたのか。それ以上の追求は避けてくれた。
ソウカが幼い頃から一緒にいるミネラだ。今ので、ある人物が誰か分かったのかもしれない。
「スレイヤさん。何はともあれ、全てをお話ししてくれて、ありがとうございました。」
ミネラはペコリと一礼する。
「頭を上げて下さい。俺は、誰かに礼をされる様な奴じゃない。それに、まだ話していない事もあるんです。」
「話していない事?ですか。」
俺は机に、持って来た古代の魔法書を置く。
「これは?」
「古代魔法が記されている魔法書です。」
「お読みしても?」
俺は頷き、ミネラはパラパラと本をめくる。
「中身は、死者復活の魔法。俺が今回屋敷に来た理由は、ミネラさんと話す為。そして、ここでソウカを生き返らせる為です。」
―――
俺は、魔法発動の為、集中する為、ミネラに出ていく様に頼んだ。
ミネラが扉のノブに手を掛けた所で、呼び止める。
最期に訊いておきたい事があった。もう分かっている事だけど、本人の口からしっかりと訊いておきたかった。
「ミネラさん。」
「なんです?」
「ソウカの事は大切ですか?」
「はい。血は繋がっていないですけど、娘のように思っています。」
「俺が言えた事ではないですが。これからもずっと大事に想って下さいね。」
「もちろんです。」
本当に、俺が言えた事ではないな。全く。俺はいつもどこから。誰目線で物を言っているんだ。俺は自分で言って、思わず苦笑する。
「スレイヤさん。ソウカの事。頼みます。」
「もちろんです。」
ミネラは部屋から出て行き、俺1人。
俺は深呼吸して、集中する。
魔法書を見て、長すぎる説明を見る。
魔法書の半ページに渡って書かれる、左右真左
といった魔力を流す順番。途中途中間違えない様に、しっかりとゆっくりと、魔法書を見た目ながら魔力を流す。
半分程流し終えた所で、肌に魔法陣が浮かぶ。
気合いを入れてもう半分。深呼吸して、流れる汗を腕でぬぐい。もう一踏ん張り。
後少し、流し終える所で、さらに肌に魔法陣が強く浮かぶ。
体が痺れて来た。ここで、動かなくなったらここまでの努力が全て水の泡だ。
俺は荒い息を吐く。痺れる腕で、思考が止まりかけた頭で、俺は何とか最後まで、魔力を流し終える事が出来た。
そして、魔法陣は、体全体を包み込み。
雷が直撃したかの様な衝撃に襲われた。




