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スライム 人間になる  作者: 浅川 大輝
学校生活編
40/50

最強

 俺は扉を開けた。その瞬間、全身に思い切りブワッと風を受ける。思わずよろけそうになるのを堪えて、俺は扉を掴んだ。


 風を受け、つい目を半目だけとじ、下を向いてしまう。


「え?」


何故か、隣で立っていた筈のショウが倒れている。周りの地面には、血が染み込み、力無く、意識なく倒れている。


 「な、なん…」


「前!」


その声に瞬時に、視点を前に戻す。


 そして、目に映った光景で、あ、死んだ。と思った。


だからだろうか。全てがゆっくりに見える。全ての動作が、目の前の人間の動きが良く見える。


 俺の顔に、もう数センチも間が開かない距離に、人間の手があった。


 後、少し。その手が俺の顔を掴むその瞬間。人間は、大きく飛び、後ろに下がった。と、同時に世界はいつも通りの速さに戻った。


 相手の男は酷く息を切らして、こちらを睨みつける。


いや、正確にいえば相手は仮面を付けていたので、本当に睨みつけていたのかは分からない。でもただならぬ視線と、殺気を感じた。


 「な、何者だ!お前は!」

大きな、とても大きな声で相手は叫ぶように言った。


 その低く、太い声からして相手は男だろう。


「待て、そいつに近づくな」


男は、ショウに駆け寄るグランドを、その叫び声のまま制止する。


 その声を受け、ピタリとグランドの体は止まる。額には汗が滲み出て、体が震えている。


 グランドも、そして俺も目の前の男の実力が、存在が、異次元な者だと理解している。


 先程から、魔力をこれでもかという程出して、威圧を試みているが、男は一切の怯みも無く、ジッとこちらを睨み続けている。


 「もう一度言う。お前は何者だ!」

男は俺の目を見る。


 「…ソウカです」


「違う!そんな名前では無い」


男は即行で否定する。まさか、俺の正体に気付いているのだろうか。この男程の実力者ならば、気付いていていても、なんら不思議ではない。


 普段ならば、絶対に言わない俺の正体だけど、今ここで、答えなければ。男の問いに拒否した場合、俺達全員の命はその瞬間無くなるだろう。


 「スレイヤです」


「…違う。そんな名前でも無かった。誤魔化し通すつもりか?」


 なんだ?スレイヤでも駄目なのか。じゃあなんて言えばいい。スライムの時は名前なんてないし、本当にどうすればいい。


 「スライムです!俺の名前はスライムです!」


もう一か八か。やけくそで俺は叫んだ。


 男は眉を顰める。しばらく黙り込む。


「ふむ。なるほど。」


そうして、ウンウンと何かに納得したかの様に頷いた。


 「お前達、ここに何の様で来たんだ?」


唖然とした。男は急に態度が一変した。フレンドリーな態度と声になる。


 「いや、迷宮に来る用なんて決まってるか」


男は部屋の真ん中に置かれる本をポンと叩く。


 そこで、俺はようやくそこに本があった事。そして部屋の全貌を見る事が出来た。


 全身がレンガ造りで、真ん中には使い古して、ボロボロの机と椅子。その上に揺蕩う蝋燭の炎。と一冊の本。


 恐らくあれが、例の古代の魔法が記された魔法書なのだろうけど、どうみてもその本は魔法書というよりも、もっと素朴というか。


 質素というか、ボロボロな日記帳と言った方が正しいか。


 「なあ、答えてくれよ。俺様無視は嫌いなんだよ」


 俺様って。今どき小説の悪役でも使わないぞ。カッコいいと思ってんのかな。


 男の問いにグランドが答える。


「ええ。どうしても手に入れたい古代魔法がありまして、その魔法書が目当てでこの迷宮に来た次第です」


 「へえ?欲しい魔法ね。空飛ぶ魔法とかか?」


「いえ。僕達が探しているのは、あるかどうか分からない魔法です。人を生き返らせる魔法」


 「人を生き返らせるね。そんならハズレだ」


男は本をパラパラとめくる。


 「ここに書いてんのは、生物を作り出す魔法だよ。」


「そうですか。残念です」


グランドが俺に目配せをする。


 逃げようって合図かな。


「では、ここには目当ての魔法書が無かったみたいですし、僕達は帰らせていただきます。」


 グランドが話を切り上げて、ショウを抱えようとする。


 そこで、またしても男が声を上げて静止させる。


「待ってくれ、1つ約束をして欲しい。その約束を聞いて、しっかり守ると誓ってくれたら帰すから」


 「約束ですか?何でしょう…」


男は俺達に近づく。そして両手を叩いた。


 「え?」


 訳が分からない。何が起きたのかサッパリ分からん。


 俺達は迷宮にいたハズなのに。気が付いたらどこかの荒野にいた。


 荒れて、果てて。ついつい荒れ果てた荒野と名付けたくなるような。そんな荒野に俺達はいた。


 「え?何…え?」


グランドも同じく、何が何だか分からない様子。


 その疑問に男はすぐに答えてくれた。


 「これ、移動魔法だよ。古代魔法の1つね」


それを聞いた、グランドがハッとした。


 と、同時により一層体を震わせた。


顔には絶望が滲み出ている。


 そして、震えた口から声を絞り出し、男に訊いた。


「貴方、アレスレッド…ですか?」


仮面の奥の男の顔が、ニヤリと笑った気がした。


アレスレッド。聞き覚え、いや見覚えがある。


 確か古代の知識を得るために、その分野の本を読み込んでいた時に見た名前だ。


 なんとかっていうふざけた称号と、最強の男という称号の2つの称号を待つ。


 この世最後の古代人。古代大戦の生き残りの1人。


なるほど。そりゃソウカの威圧も効かない訳だ。


 「そうそう。アレスレッド。でも出来ればアレス様って呼んでほしいな。レッドの部分は好きじゃないんだよ」


 「では、アレス様。僕達に誓って欲しい約束というのは…?」


 「そうだな。それを話す前に…」


アレスレッドはショウに手を伸ばす。


 その手を俺達は止める。


「待ってください。何をするんですか?」


「そいつはこの場じゃ、邪魔だ。大丈夫。殺す気はないし、殺したとしても、俺なら蘇らせる事が出来る」


 その言葉の最後の部分に俺は反応した。


「蘇らせる事が出来る?その魔法は存在してるんですか?」


俺の問いにアレスレッドは答えてくれた。


「うん。存在するよ。」


そして、言葉を一旦切って、一呼吸置いてアレスレッドは再び喋り始めた。


 「じゃ分かった。その蘇りの魔法。お前達に教えるよ。だからそいつから離れてくれ」


 コイツの言葉を丸ごとそのまま信用した訳ではないけど、俺達はどちらも手を引っ込めた。


 アレスレッドの手がショウに触れると同時に2人の姿が消えた。


 と思ったら、アレスは次の瞬間には戻って来た。だが、ショウはいない。


 「ショウはどこに?」


「…なんだったか。お前の名前…そうだ。スレイヤだ。お前の部屋に寝かせておいたよ。」


 それが、本当ならばコイツはこの一瞬で俺の寮の部屋に移動したという事。つまりそれは並外れた移動魔法を使える。


 疑った訳じゃないけど、やはりコイツが最強のアレスレッドで間違いないようだ。


 「さて、俺様と、お前ら2人の計3人。しかここにはいない訳だが」


 「約束の内容を話す前に、お前らには俺と戦ってもらう」


突然の事に理解が追いつかない。何故急に戦う事に?


「今から、俺はお前らから距離をとってそこから動かない。だからお前らは出せる限りの力を使って俺に攻撃しろ」


 「よし、いいな!」


 そういってアレスレッドは俺達から離れた。一瞬で、姿を視認出来るギリギリの距離まで離れた。


 「いつでも良いぞ!」


遠くからアレスレッドの合図が聞こえる。


「ど、どうする?」

戸惑うグランド。


 「どうするも何も。やるしかないだろう。」


 じゃないと、殺される。アイツをまた先程の様に、激昂させては駄目だ。


 「とは言っても君は初級魔法しか使えない。それに威圧も効かない」


 「ああ」


「だから、僕がメインで攻撃する。それでもしも。万が一奴に隙を作ることが出来たら、君が思い切り攻撃魔法を使ってくれ」


「分かった」


 通じるとは思えない作戦を立てて。俺達は実行に移した。


 俺が走り出す。と、同時にグランドが巨大な火球をアレスに放つ。


 アレスに直撃。土煙が立ち込め、次にグランドは空を埋め尽くす程の火球をいくつも作り、雨の様にそれをアレスに降らせる。


 また、その作業と並行して、長くて太い魔力縄に地を走らせる。


 アレスに避ける気はない。雨の火球も全て直撃。


 微動だにしないアレスに魔力縄が絡みつき、行動を制限させる。


 次に、地面を隆起させ、地面の土をアレスにまた纏わせ、固める。


 そこに、先程とは比べものにならない巨大すぎる火球を投げつけた。


 これも直撃。地は裂け、所々は雨で窪みが出来て、アレスは亀裂に落ちていった。


 落ちたアレスを更に魔力縄で括り付けて、宙ぶらりんに。


 完璧に、アレスの体が見えなくなるまで包んだ所で、俺は全ての魔力を使い、地面の底のアレスに向かって攻撃する。


 初級魔法なんで、威力はたかが知れているが、それでもグランドの更なる雨の追撃と共に絶え間なくアレスを撃ち続けた。


 そうして、地面の底すら見えなくなる程撃ちつけた時、グランドの雨が止んだ。



魔力切れか?と、後ろを振り向くとグランドは倒れていた。


 そして目の前には俺の腕が落ちていた。


「え?」


 腕の隣には足も落ちていた。


そして気がついたら俺は腕と足から遠く離れた岩場へと吹き飛ばされていた。


 目の前にはアレスがいる。


アレスは淡々と。容赦なくもう片方の腕と足をもぎ取り。最後の仕上げに俺の胸を貫いた。


 「あ……が……」


もう、意識が…。駄目だ。


 消えゆく意識で、微かに聞こえるアレスの叫び声。

 

 「俺様が最強だ!」


俺様がカッコいいと思ってんのかな。


 最後に、心の中でアレスに悪態をついて、俺の意識は途切れた。


 


 「はい。そういう訳でね」


え?状況が分からない。


俺とグランドは並んでアレスの前に立っている。


 「どう?俺は強かっただろ。勝てないと思っただろ?」


「え、あれ。ぼく、なんで?体をバラバラにされた筈…なんで?」


 体中を触り慌ただしく触るグランド。


「俺に逆らう気は起きないだろ?」


 当たり前だろう。あんなにされて逆らう馬鹿はいない。


俺は全力で頷いた。


「よし。よし。じゃあ約束…いやお前らに命令するぞ」


約束は命令に変わった。まあどちらにせよ、俺達にそれを断る気も、逆らう気なんてのも無い。


 というか、体が元に戻っている事に説明はしてくれないのだろうか。


 「お前達、俺の部下になれ。命令には絶対服従。俺に完全忠実。言いつけは死んでも守る部下になれ」


 何故?とは思ったが、俺達2人はすぐに頷いた。


「分かりました。」

「僕達は貴方の部下になります」


アレスは満足そうに、そして少し安堵した様に笑った。


「よし。じゃあ部下になった記念に蘇りの魔法を使ってやるよ」


 「お前らが生き返らせたい奴の所に連れて行ってくれ」


 「…いや実はですね」


 俺はアレスに色々と話した。ソウカの死体に俺が入っている。そしてそのソウカを生き返らせたい事を。


 「ふーん。じゃあそのソウカって奴を今から生き返らせるわ。」


 男は俺の頭に手を置こうとする。


まさか、こんなにアッサリと行くなんて。


 でも、本当にこれで良いのだろうか。本当に、アレスにソウカを蘇らせて良いのだろうか。


 俺の中で疑問が湧く。


ソウカを殺し、その体を乗っ取ったのは俺達なのだから。俺達が責任を持って、俺達の手でソウカを生き返らせてやるのが良いんじゃないだろうか。


 俺はアレスを止めようと、言葉を発しようとした所で、グランドがアレスに疑問をぶつける。


 「その魔法はどういった原理なのでしょうか?」


アレスの手が止まる。


全くコイツはこんな場面でも知りたい欲が出てしまうようだ。


 アレスは首を傾げる。


「そうだな。原理というと、難しい事は分からないんだが、簡単に言うとお前達のいう所の魂って奴をここに召喚して、その魂の持ち主の体に入れるんだ。」


「では、魂は存在するんですね?」


「ああ。まあ、正式名称は魂じゃないけどな」


そうして、再び俺の頭に手をやろうとする男を、今度は俺が止めた。止めてしまった。


 「待って下さい」

「?どうした」


「出来るならば、その魔法。俺に教えてもらう事は出来ませんか?」


 アレスは顔をしかめた。凄え嫌そうな顔をした。


「えー。これ古代魔法だからな。教えたくねぇな」


 それでも俺は、少し物を言うのが怖かったけど。それでも言葉を振り絞って言った。


 「そこをなんとか!」


手を合わせてお願いする。


アレスはうーん。と唸った後に、頷いた。


「…分かったよ。お前がそこまで言うのなら教えよう。でもこの魔法を使うのは一回だけにしてくれよ」


「分かりました」


「あれだぞ。もしお前が俺の言い付けを破ったら、すぐに、ただちにお前がどこにいようとも探し出して殺しに行くからな」


 アレスは俺に怖すぎる釘を刺した。


「…分かりました。絶対に1度しか使わないと誓います」


「よし、じゃあこれ」


アレスは手のひらから、紙を生成して、その髪が徐々に塊になって行き、やがて一冊の本を創り出した。


 「ここに、詳しい手順とか乗ってるから。それ見て覚えて」


 「じゃあな」


そうして、アレスは去っていった。


と、思ったらすぐにまた帰って来た。


「お前達を帰すの忘れてた」


そう言って俺達を寮の、俺達の部屋へ送り、今度こそアレスは帰った。


 

 


 


 

 

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