別れと出会いと
ザディと出会った時を思い出す。ザディは俺が夢を叶えたら、俺達の旅は終わると言った。
つまり、その終わりが今だ。
色々な事があった旅だった。
「スライム。」
一人の時より、ずっと楽しい旅だった。
「俺が昔言った言葉、覚えてるよな。」
だから。今から言われる言葉が、怖い。怖くて悲しい。
「お別れだ。」
ザディは多くは語らなかった。俺が無事に人間の身体に入り、自在に身体を動かせるのを確認した後に、すぐに俺の元から去っていった。
「今度は俺の番だ。」そう言い残して。
俺は、もう振り向かない彼の背に精一杯の感謝を込めて、頭を下げて礼をした。
――
朝日はさらに顔を出し、やがて全身までを剥き出した。
つまり、もう昼頃。俺はいまだにあの開けた森の中にいた。
何か障害があって出られない訳では無い。単純に身体と心に力が入らないのだ。
夢を叶えて燃え尽きてしまったのか。ザディとの別れで、放心状態になってしまったのか。その両方か。
俺は目を閉じる。そして一息つく。
…よし。何かやろう。
思い立ち、立ち上がる。
せっかく念願叶って人間になれたのだ。ずっとやりたかった事を沢山やろう。
まず、俺はその辺で手頃な木の棒を手に取った。
俺はずっと剣を振ってみたかったんだ。
記憶の中の人間を思い出し、棒を振る。
しかし、どうも上手くいかない。
やり方が分からない。どう振れば剣士の様になれるのだろう。
俺は次に魔法を出してみようと、手に力を入れて、前に突き出した。
しかしこれまたやり方が分からず、魔法は出ない。
さてどうしたものかと、考えて、俺は近くの街に行ってみることにした。
分からないなら知ってる人に訊けばいいと思ったからだ。
さあ出発!
と。なって。一歩踏み出して、自分の服を見る。
血で、胸の所が真っ赤かだ。
これはマズイ。こんなんで街にいったら騒ぎになる。
しかし服を変えることは出来ない。
俺は土や泥を付けまくって、血を隠す事にした。
数分後。中々高級そうだった服は見る影も無く。真っ黒くろの、どろっどろに成り果てた。
これで良し。さあ出発!
るんるん気分で、森を下りる。街の影が。人の声が。足音が聞こえてくる。
もう街はすぐそこだ。
俺が歩く音。聞こえてくる足音。だんだんと音は大きくなる。
聞こえる足音はどうやらこちらに近づいて来ているみたいだ。
誰だろう。と考えた所で、すぐに答え合わせが出来た。
目の前に、人間が現れた。
ピシッと制服を着こなした人間が。
何か挨拶しなきゃ。と思った矢先に、人間は胸ポケットから何やら機械を取り出して、叫んだ。
「こちらA班!オーベルの森入り口付近で、ソウカ様を発見しました!」