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スライム 人間になる  作者: 浅川 大輝
学校生活編
39/50

探索

 俺自身、あまり記憶力がないのは十分に自負している所だ。人の顔や名前。長ったらしい地名。それどころか昨日の晩の食事の献立だってすぐにパッとは出てこない。


 しかしそんな俺でも目の前の薄暗い洞窟から聞こえる呻き声にはつい足がたじろぎ、身震いしてしまう。


スライムの頃の俺の頭に刻まれた記憶。


 

 迷宮区は狭く、その名の通り迷いやすく、一度入ってしまえば簡単に出る事は叶わない。


 とめどなく聞こえる呻き声に、俺の足は鉛でも付けられたかの様に動かなくなってしまう。


 しかし、そんな事はお構いなしと言わんばかりに、恐怖という感情を知らないかの様に2人は平然と入り口を潜って行ってしまった。


 中から響く「行くよ」というグランドの声。


 今の俺には力と、仲間がいるんだと何度も頭の中で反復させて、足を叩き迷宮区に入った。


 迷宮は暗く、数歩歩けば自分達がさっきどこにいたのか、どころか、入り口の場所すらも分からなくなってしまう。


 「よっ」


そこで、グランドは手のひらに小さな光の球体を複数個作り出した。


 それを自分達が進む道に、街頭の様に設置していく。


「これでよし」


 お陰で真っ暗から、ちょっと薄暗いかな?くらいまで明るさは変化して、もう迷う事は無さそうだった。


 「後はこれも」


グランドは歩きながら、木の棒で線を引き、どこから来たのかを一目で分かるようにした。


 念には念をという事だろう。


「原始的だけど、これが1番効果的だからね」


 しかし、俺達の作戦はすぐに破綻した。


「中々、近代的だね」


 今まではただの土だった道が、ある堺からコンクリートに変化したのである。


 これでは木の棒作戦は使えない。


「どうするんだ?」


 不安に駆られた俺は、すぐにそう聞いた。


「しょうがないけれど、この作戦でいこうか」


そう言ってグランドは手から、球体では無く、光の粉を出し、料理に振りかける様に地面に撒いていく。


そうして、コンクリートの道を歩き始めようとしや矢先、ショウがグランドに待ったを掛けた。


 「ちょっと待って、それじゃあいざっていう時に魔法が使えなくなるかもしれないじゃない」


 ショウは俺達の中で飛び抜けて重いバッグを下ろして、中からパンパンに膨らんだ袋を取り出した。


 「これを使いましょう」

「なんだ?それ」


「粉よ。白い粉」


そう言って歩きながら、来た道に粉を撒き出すショウ。しかし、何でそんな物を持って来ているんだこの人。


 「こうなるって分かってたのか?」

「いえ。やりたい事に必要かもしれなかったから持って来ただけ」


 「それを今使って大丈夫なのか?」

「多分大丈夫」


 まあ、本人が大丈夫って言ってるし大丈夫なんだろう。


「何にせよ、助かったよ」


 グランドが礼を言い、俺達は再度歩み始めた。


…どこに?俺の中にそんな疑問が湧いた。そういや、迷宮のどこに魔法書があるのか俺知らない。


 「なあ。俺達はどこを目的に歩いてるんだ?」


「うーん。ひとまずは最下層を目指してるかな。なんでもこれまで迷宮で発見された魔法書はどれも、最下層で見つかったらしいんだ」


 なるほど。最下層か。


「じゃあ、下に行く道を探さないとな」

「そうだね。坂なのか、階段なのか。そもそも道という道があるかどうか分からないけどね」


 そうこう話していると、3つに別れた道に俺達は憚られた。


 1番右の道は、まさに茨の道。大きな岩がゴロゴロしていて、道は泥濘。出来ればここには通りたくない。


真ん中の道は、今まで通りのコンクリート。1番安全そう。


そして1番左の道。ここは、先程の入り口付近の様にただの土の道。特段、危ない物は転がっていない。


 「僕は、真ん中かな」

と、グランド


「私は、右かな」


 グランドがコイツ正気かよ。みたいな目でショウの方を振り向く。


 「君、目見えてる?明らかに右は駄目でしょ」


「そう?こういうのは一見ハズレに見える所が案外当たったりするのよ」


「いや、だとしてもだよ。」


「逆に聞くけど、なんで貴方は右の道がハズレだと思うのよ」


 「ハズレだとは思わないよ。ただ行きたくないってだけ」


「なんでよ」


グランドは言いづらそうに、口を開く。


「服が、汚れそうじゃないか」


「服…え?」


これにはショウも言葉を失った。俺も失った。


 グランドってそういうの気にする人だっけ?


「いや、ここは迷宮よ?命を落とすかもしれない、それほど過酷で危ない場所なのよ?何を今更服なんて気にしているの」


 イラつきを隠せずに、語気を荒げてショウはそう、まくし立てた。


 これには俺も同意。


 「…いやその通りだけどさ…うん。僕が間違ってたな。もう服は気にしないよ」


 何か言いたげだったけど、最終的には納得してくれた。


「貴方はどこが良いと思う?」


ショウは振り返り、俺に目を合わせる。


「そうだな」


右は、服ではなくて、単純にハズレ感が凄いし。


「俺も真ん中かな」


「まさか貴方も服を気にして?確かにその服は汚したくないけれども」


 怒るショウを軽く宥めて、弁明する。


 「違う違う。ほら真ん中はここと同じコンクリートじゃん。進むなら地続きな道が良いかなって思って。左は土の道だから元の道に戻っちゃう気がして」


 「まあ、一理あるね。じゃ、ここは多数決の結果を尊重して真ん中にしましょうか」


 いつの間にか、彼女が俺達を先行する立場になっていた。

会った当時はあんなにおどおどしていたのに。


 頼もしくもあるけれど、怖くもある。


 真ん中の道をしばらく歩いても、特に何にも起きなかった。


 本当に何にも起きない。いつしか、ここは迷宮ではないのではないかと錯覚してしまう程、何にもない安全な道だ。


 ここだけ他の所より明るいし。


 

 「あ!」


俺は思いっきり転んでしまった。躓いた訳ではない。何かに足を掴まれた感覚があった。


 グランドと、ショウが俺の声に振り向いた瞬間。俺の体は宙に浮いた。いや宙に吊るされた。


 地面から、手足が蛇の様に長く、唸っている魔物が地に亀裂を作り、その巨体で天井を崩しながら這い出て来た。


 俺はもう一本の手で、足と、体を巻きつかれ、口までも塞がれる。身動きも、声すら出せなくなってしまった。


 マズイ。本格的にマズイ。


 俺は軽いパニック状態に陥ってしまう。


 グランドとショウは捕まるスライムを見て、たじろいでしまう。


 本来の2人であれば、こんな魔物程度、敵にすらなり得ない。


 しかし、ここは迷宮区。これが迷宮区の難易度を上げている要因と言える。


 普段ならば適当に攻撃魔法を使う所だが、こんな狭い所で使えば、たちまちに天井は崩れ生き埋め。地面が割れるならば、迷宮の奥底に、落とされる。


 オマケに、今はスライムが捕まっていて、魔法をぶつけられる箇所も限られる。


 ならば、自ずと範囲の小さな耐久魔法を使うしか手は無いのだが、そんな柔な攻撃では、迷宮区の魔物はビクともしない。


 迷宮においては、回復魔法と妨害魔法を使う以外では魔法使いは完全に足手纏いになってしまう。


 しょうがなかったとは言え、魔法使い3人で来てしまったのは最悪の手と言えるだろう。


 「なんとかしないと」


捕らわれるスライムを見て、一直線にグランドは魔物に突っ込もうとする。それをショウは首根っこ掴んで抑える。


 「待って!冷静になって。貴方の呪いはもう解いているの。しっかりと周りを見て動きなさい!」


 そう呼びかけた声で、次にスライムに叫んで言う。


 「スレイヤさん。教えたでしょ、魔力を放出して!」


しかし、スライムは完全にパニック状態。とてもまともに指示を聞けるとも思えない。どうしたもんかな。


 あ、



 俺はショウの声でハッと正気に戻った。そうだ、そうだった。その為の威圧だった。


 俺は思い切り、魔力を放出する。それに当てられた魔物の動きがビクッと止まり、やがて痙攣するようにブルブルと震え出した。


 俺を掴む、巻き付く体が俺にもしっかりと伝わるくらいに震えている。


 魔物は俺の拘束を解いた。


「いて!」


地面に落とされる俺。地中に帰る魔物。ひとまず難は逃れられた。


 「良かった、大丈夫かい?」

俺に駆け寄って来た2人に支えられて俺は立ち上がる。


 「ごめんなさい。もっと貴方を大事にするべきだったわね」


 申し訳ないという顔でそういうショウに、助けてくれた礼を言う。


 作戦の見直しが行われた。


 まずは、歩く順番。陣形を決めた。1番前がグランド。その後ろ、真ん中に俺。最後尾にショウ。


 そして魔物が出て来たら俺が威圧。それでも逃げ出さない奴には、ショウとグランドのどちらかが、行動阻害の魔法を相手にかけて片方が、低級魔法でチマチマとダメージを与える。


 そういう作戦になった。


 こうなると、やはり剣士が欲しくなる。魔法使い3人での挑戦は無謀ともいえる。


 

 しばらくは、その作戦通り動いた。歩き、魔物がいたら威圧。歩いて来た道には粉を撒くことを忘れずに。


 

 そうして、やっと。ようやく。下に続いていると思われる階段を見つけた。

 

 「よし、下りようか」

「だな」


 階段を一歩、また一歩と下り、次の段に足を置こうとした所で事態は急変した。


 階段が急にバリッと音を立てた。それを皮切りに、次々と階段は音を立てて、やがてレンガで出来た階段は砂屑に、塵芥と変わり、俺達は、落とし穴に落ちる様に、階下に落とされた。


 階段を下りた順に、地面に叩きつけられる。




「な、なんで階段が壊れたの…」


絞り出すような声で、グランドが言った。


俺は、それに返そうとして、体に流れる痛みで、歯を食いしばる。


 俺の体に手が触れる。触れた箇所を見ると、ショウが、俺の体になんとか手を伸ばしていた。上手く起こす事が出来ていない体で、それでも手だけを動かして。


 「…早くこの体だけでも」


触れた箇所から、だんだんと痛みは引いていき、やがて俺から痛みは無くなった。


 体はすっかり、元通りだ。


 それを見届けて、ショウは地に顔を伏せ、動かなくなる。


 不味い。早くどうにかしないと。でも俺は回復魔法は気休め程度しか使えないし。


 俺は横で倒れるグランドを急いで起こす。


「おい、早く起きてくれ。大変なんだ」


「…痛い。そんなに揺らさないで…」


 グランドから手を離す。グランドは自身の手を体に当て、やがて何も無かったかの様に動き出した。


 そのまま、ショウの体に手を当て、回復させる。


「…助かったわ。ありがとう」


そうして、ひとまず、3人は動けるようになった。


「あれ、なんだろうこの扉」


言われて目の前を見ると、そこには大きな扉。それこそ屋敷で見るような扉がそこにはあった。


 「部屋の扉?…誰かいるの?」

それは分からない。でも、


 「入ってみよう」

俺はそう提案する。俺達は大分下に落とされた。もしかしたらここが最下層かもしれない。


 2人は俺の案に頷く。


「よし、開けるぞ」


 再度2人は頷いて、俺は扉を開けた。

 


 


 

 

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