バレた
迷宮区。それは通常、上級以上の剣士と魔法使い。それと前衛職を守るタンク。最低でもこの3人がいないと挑むことすら出来ないのが迷宮というものだ。
しかし、たとえメンバーがちゃんと揃ったとしても攻略出来る訳では無く、時には命を落としたりもする。
俺達は今、そういう所に挑もうとしている。
こちらのメンバーを紹介しよう。
後衛 魔法使いのグランド。実力は上級魔法使いに劣るとも勝らない。
同じく後衛 俺。実力初級魔法のみしか使えない。
100人中100人が無理だと即答するチームである。
「…どうしようか」
グランドは深いため息をついた。
「悪いな。俺が弱くって」
つくづく自分の弱さと自分がスライムだという事が恨めしくなる。
「いや、もし君が上級クラスの力があろうとも僕は同じくため息をついていたよ」
「なんでだ?」
「…僕が弱いからさ。」
グランドは、自己評価がかなり低い。低すぎる。
俺から見たら、相当凄い人だと思うし、他の人から見てもここまでの低い評価は下さないだろう。
俺には何故ここまで、グランドが自分に自信がないのか分からない。
「それに、たとえ僕と君が滅茶苦茶強くても肝心のメンバーがあと1人足りない」
「剣士かタンクだな」
「いや僕達の場合は剣士がいないから魔法使いが望ましい」
グランドは再度ため息をついて頭を悩ませた。
「僕達の、人脈の無さが顕著に出たね。もっとここで交流をしていれば友人の1人でも出来たかもしれないのに」
うーん。強い魔法使いで、迷宮について来てくれそうな人。
俺も頭を捻って考えようとした矢先に、1人の人物が頭にシルエットで浮かんだ。
そうだ。捻るまでもない。ついて来てくれそうな奴が一人いたじゃないか。
「グランド。1人いるぞ。ついて来てくれるかもしれない奴が」
「本当かい?」
「ああ。もしかしたらショウなら来てくれるかもしれない」
俺はショウの名前を出した。するとグランドは頭を傾げる。
「ショウ?だれそれ」
そういえば、グランドはショウの名前を知らないんだったか。
「ほら、ソウカのライバル」
「ライバル?ソウカにライバルなんているのかな」
尚もグランドはショウが誰だか分かっていない様子だった。
というか、ライバル云々の話は以前にしたのに。
どれだけ影が薄いんだろう。ショウは。
俺達は早速、校内でショウを探す事にした。
時刻は昼前。
「この時間なら教室にいるかな?」
「多分な」
俺達は1年教室から順に3年までの教室を尋ねたがショウが見つかる事は無かった。
「しょうがない。こうなったら手分けして探そう」
俺は校内。
グランドは外の演習場やらを探す事となった。
「集合場所は寮の前。1時間後にね」
そういう運びで一旦二手に別れる。俺は思い付く限りの所を回った。校長室、以前2人で行った魔力測定をした部屋。
そして最後に残った所は図書館だった。
グランドからいまだ見つかった報告は無し。
ならばもう校内でいる可能性がある場所はここしかないだろう。
扉を開けて、俺は真っ先に隅に向かった。
「…見つけた」
ショウは、いつぞやと同じく部屋の隅で本を読んでいた。
「…ソウカちゃん」
「ちょっと話があるんだけど、今良いかな」
「話ですか。分かりました。部屋を変えましょう」
ショウは読んでいた本を棚に戻して、足早に図書館を出る。俺はその後に着いて行く。
「私も、丁度ソウカちゃんに話したい事があったんです」
そう言ったきり、ショウ黙りこくってしまう。
その様子は、不機嫌とも不安とも取れるような。
もしかしたら以前の事で何か気にしているのかもしれないと俺に思わせた。
「この部屋、空いてますね。ここにしましょう」
中に入ったのは空き部屋。俺が入り奥に行くと、部屋にガチャリという音が部屋に響いた。
それぞれ、対面する形で席に着く。
しばらく、何かを考えている風に俯くショウに俺は声をかけた。
「もしかして、この前の事…」
ショウはそれを遮るように、彼女にしては珍しい大きな声で、
「間違っていたらごめんなさい。でも大切な事なので聞きます」
彼女は前置きした。
そして、意を決したように拳をぎゅっと握り、真っ直ぐな目で俺に言った。
「貴方、ソウカちゃんじゃないですよね」
彼女の声に一切の迷いは無く。彼女の目はとても真っ直ぐだった。
俺の正体がバレていた。一体いつから?何故バレた。
俺の頭に、いつか思い描いた最悪の未来の情景が浮かぶ。
俺は死に、グランドは罰を受け、ミネラが悲しむ。
そんな未来が。
「なんでそう思ったの?」
俺の声は震えていたと思うし、顔にも動揺が伺えただろう。だけれども、最後の抵抗として、そう聞いた。
「その聞き方をするって事は貴方はソウカちゃんじゃないんですね」
「…貴方の問いに答えると、最初から何かおかしいなと思っていました。雰囲気が随分と柔らかかったし、喋り方も優しかった。」
あれで、優しく聞こえたのか。大分冷たくしたつもりだったのだけど。
「確信したのは魔力測定の時です。私が落ち込んだ時、貴方なんて言ったか覚えていますか?」
彼女は、俺の結果と彼女の見劣りする結果を見比べて
「ライバルなんて名乗れない」そう肩を落とした。
それに俺は、
「75も凄いんじゃない…」
「そうです。貴方は私を褒めた、慰めたんですよ。ソウカちゃんならそこはニヤリと笑って勝ち誇った顔をするのに。」
「貴方は頑張って演じているようでしたけど、私の目は誤魔化せません。それに、その体ソウカちゃんそのものみたいにソックリですけど何故なんですか」
彼女は完全に確信していた。俺がソウカではないと。
ここまで真っ直ぐな目と声で言われてしまっては、言い逃れの言葉も、言い逃れをしようとする気さえ湧いてこない。
「…正直に、全部話すよ」
「俺は、ソウカじゃない。ソックリな理由はこれがソウカの体そのものだからだ。本物のソウカの死体に俺が入っているからだ」
「そう…え?死体?」
彼女は大きく目を見開いた。
殴られると思った。罵詈雑言を浴びせられると思った。
「そうですか」
しかし、彼女は何もしてこなかった。ただその場に、燃え尽き、全てを失ったかのように座り込んだ。
「…貴方が、殺したんですか?」
その問いに、言葉が詰まる。グランドの事を言ってしまうべきなのか。
「違う。詳しくは、まだ言えない」
言葉が言い淀む。上手く出てこない。
「そうですか。まあどうでも良いですけどね。誰が殺したにせよ、ソウカちゃんが死んだ事には変わらない」
彼女は随分とアッサリ、ソウカが死んだという俺の言葉を信用した。
「俺の言ってることが嘘だとは思わないのか?」
「嘘?なにが?」
そう言う彼女は、今までの大人しい彼女。威勢のいい彼女のどれとも似つかない、とても高圧的な声と態度で俺を睨みつける。
「ソウカが死んだって事」
「思わない」
彼女は即答した。
「…私は誰よりもソウカちゃんを見て来たという自負がある。その私から見れば貴方の体はソウカちゃんの物。どうやったのかは知らないけど、貴方がその体を使えている以上。何らかの原因でソウカちゃんが死んでしまったのは間違いない」
「…怒らないのか?」
「怒らないよ。貴方に何しようと死んだ人は元に戻らないからね」
彼女は不機嫌に、何もかもどうでも良い様な、投げやりな声でそういった。
彼女は無言で席を立った。
扉に手を掛ける彼女を俺は引き止める。
「ソウカが生き返るかもしれない。」
彼女は椅子も机も吹っ飛ばす勢いで俺に迫る。
「どういうこと?」
「…最初に言ったろ。お前に話があるって」
彼女は再度席に座る。
「話して。聞くわ」
俺はここに至るまでの話をした。
グランドがソウカを殺したという事は除いた全てを。
「…そういう訳で俺達はその古代の魔法を手に入れたいんだ」
「…なるほど。頭の整理が追いつかないけど…ともかく、貴方達はソウカちゃんを助けようとしているって事ね?」
「ああ。その為に、お前にも協力を頼みたい」
「分かった。ソウカちゃんが生き返るかもしれないのなら私も協力は惜しまないわ」
そういう訳で、一波乱。大きな波乱はあったが、無事に彼女の協力を得られる事となった。




