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スライム 人間になる  作者: 浅川 大輝
学校生活編
35/50

日常

 日々の魔法修行と並行して、俺達は自身の魔力増幅の為の修行もしていた。


 といっても魔力の増幅には何か特別な訓練や手法を使うといった訳でなく、ただただ魔法を使いまくる。


 そして魔力を消費しまくる。そして時間が経って魔力が回復したらまた消費する。ただこの繰り返しをするだけ。


 なので、正しくは並行するというより、日々の修行に取り込んでと行った方が良いかもしれない。


 何故、魔力を増やさなければいけないのかというと、何でも古代の魔法は現代人にはとてもじゃないが扱う事の出来ない高度な魔法なんだとか。


 高度な魔法にはそれ相応の魔力を要する。


 そういう訳でより一層日々の鍛錬に精を出す生活がここ数日続いていた。


 そういった生活を続けていくうちに俺は初級回復魔法ならば、ある程度一般人と遜色ないほどには使えるようになった。


 紙で少し切り傷が出来ちゃったくらいの傷は瞬時に治せるようになった。


 

 最初こそ俺の指南役という事で修行に付き合ってくれたグランドだったが、俺に基礎の基礎を教えた後は、やるべき研究とやらで最近はずっと研究室に閉じこもっている。


 その為、次のステップに進む過程で新たな魔法書が必要になった俺は学校1階の図書館に訪れていた。


 例のライバル。図書館少女と会ってからは行くのが億劫になってしまっていたが、図書館に足を一歩踏み入れるとやはり俺は本が好きなんだと実感する。


 この図書館独特の匂いというか雰囲気というか。それが俺は気に入っている。


 目的の魔法者コーナーに行く前に一応隅を確認して少女がいないかを見る。


 どうやら今日はいないみたい。良かった。


 俺はさっさと目的の本を借りて図書館を出た。


「いて、」


 図書館を出た瞬間、俺は何かにぶつかった。確かに何もいなかったハズなのだけど。


 俺は恐る恐る下を見る。もうこの時点で嫌な予感がしていた。


 「すみません。私影が薄いもので…あ!」


予感は的中した。俺の目の前には、背の小さな少女がいた。


 「また、会ったわね!」

威勢のいい声。


 だからさっきまでのお前はどこにいったんだと。


 俺は一礼謝って、その場を立ち去った。


 …立ち去ろうとした。腕を掴まれた。


「待ちなさい…いや待ってください。本当に私の事忘れちゃったんですか!」


 以前の様に、またはぐらかし逃げても良かったけど今後も顔を合わせる度にこのやり取りをするのかと思うと、今はぐらかすべきではないだろうと判断した。


 「いや、忘れてないよ。ただちょっと名前が出てこないというか」


「それを忘れたって言うんですよ!」


 威勢が良くなったと思ったら少女は急に力なくペタンと地面に座り込んだ。


 「やっぱり、私影薄いから…」


 完全にいじけてしまったというか、すっかり元のネガティブに戻ってしまった。


 さてどうしたものか。俺としてはこの人とあまり関わりたくはないけど、今後の事を考えるとなー。


 

 俺は今後と今の両方のめんどくささを天秤に掛けた。結果。


 「名前」

「…え?」

「昔の事は覚えていないけど、今また仲良くしましょう」


 俺は今、仲良くなって今後の悩みの種を除去する事にした。


 「いいの…いや違うこのキャラじゃない。」


何やらブツブツ言って、少女は再び勢いよく立ち上がった。


 「私の名前はショウよ!よろしく!」


 俺は今後は何の垣根なく、何の心配事もなく図書館に行く事が出来るようになった。


 ――


 「ところで、何で今更中級魔法?ソウ…貴方もう超級までは使えるでしょ?」


 少女は持っている本を見て、そう尋ねる。


 「基本は大事だからね」

適当にはぐらかす。


 「確かに基本は大事よね!じゃあ、アレやりましょうよ」


 アレとはなんだろと思っていると、俺は手を引かれて狭い一室。奥に黒い幕が下りている部屋に連れて行かれる。


 「久しぶりに、どっちの魔力が高いか勝負しましょ!」


 少女は2枚の板を持って来て、1枚の板を俺の前に置く。


 「はい。どうぞ」


 どうぞと言われてもこれで、何をすればいいんだろう。板をより粉々に出来た方が勝ちとかそういうのだろうか。


 チラリと少女を見ると、少女は板に手を置いている。


 少女の手は徐々に沈んでいきやがて板に少女の手形が板にクッキリとついた。


 「どうしたの?そんなに見つめて」

「…いや、なんでもないよ」


 俺も同じように板に手を置く。手は魔力を込めずとも沈んでいく。


 出来た板2枚を少女は幕の奥に持っていく。


 「準備できたよ」

奥からの声で、俺も幕の中に入る。


 中には巨大な機械があった。


 上に煙突状に棒が伸びていて、真ん中には手形が嵌め込まれていて、その上にメーターのような物がある。不思議な形状の機械だった。


 「よし、一緒にいこ」

少女に言われて、俺も手形に手を合わせる。


 が、何も起きない。どうやってこれで勝負になるのかさっぱり分からずにいると、横の少女が俺に言う。


 「もしかして、これの事も忘れちゃったの?」

「…やり方を忘れちゃってね」


「しょうがない。私がちゃんと教えてあげる」


 「まず、手形にキチンと手をはめるの。そして全力の魔力を手に込めてね。そしたら真ん中のメーターにその魔力量が表示されるから」


 少女の指差すメーター。丸くて時計状。一本の針と細かいメモリがいくつもついている。


 10.20とメモリについていて上限が100。多分数字が高かったらその分魔力量があるという事だろう。


 「もうわからない事はない?」

「うん、大丈夫」

「じゃあせーので一緒にやろ」


 俺達はそれぞれの手形に手をはめる。


「いくよ、せーの!」


2人のメーターがガタガタと揺れ、針が10、20とメモリを通り過ぎていく。



揺れるメーターが先に止まったのはショウ。俺の方はいまだ止まる気配が無い。


 ショウの表情が沈む。俺のメーターは上限の針に到達し、尚針は、ガタガタと揺れる。


 「…それ上限以上って事ですよ」

ショウは元のキャラに戻り、小さく落ち込んだ声で呟く。


 「私はたった75。これじゃライバルなんて名乗れませんね…」


 

「いや、75も凄い方なんじゃない」


 言った瞬間、ハッとした。これは悪手だった。失言だ。


 「…凄くないですよ。やっぱりソウカちゃんは凄いな。

私今日の所はこれで失礼します。お時間取ってしまいすみませんでした」


 それからショウは失礼します。

そういって去っていった。俺は何か気の利いたフォローか言葉を彼女の背には送れなかった。


 そして、さっきの失言を反省した。つい俺の本音を言ってしまったけど彼女からしたら煽りの言葉に聞こえた事だろう。


 さぞ嘲笑っているように、聞こえただろう。本当に俺に上限以上の魔力があったなら、それに見合った実力があったならば、嘲笑じゃなくとも、自慢気に笑って面白おかしい返しが出来たのかもしれないけれど実際は俺にそんな力はなくて。


 現実には俺は彼女よりも、他の誰よりも弱いスライムな訳で。


 とにかく彼女に申し訳ない事をしてしまったと思った。


 ―――


その日は俺、グランド。そして少年とメイドさんの4人で近くの食事処の席に腰を下ろしていた。


 ここ数日のメイドさんの仕事の進捗具合を聞くためだ。


 ちなみに、メイドさんの名前はメイというそうだ。


 安直でそのまんまの名前。そう思ったけどそれもその筈。なんでもこの名前は仮名で、自分で適当に付けた名前なんだって。

 

 「それでメイさん」

「敬語やめてください」

「それで、メイ。どう?少しは話せるようになった?」


 メイさんは食べる手を止めて口を拭いた。


「そうですね。どうも発音が苦手みたいでして、今は読み書きに注力してますね」


 「じゃあ多少は文字を理解出来ているの?」

「いえ、それもこちらの文字が書きにくいのか…あまり上手くはいってないですね」


 つまり難航しているって事か。


 「だけど安心して下さい。徐々に理解はして来ていますから。」


「そっか。じゃあ引き続き頼むよ」


 「任せてください。私。バッチリやれます」


 その後は少年を預けて行った例の男から貰ったお金を少し切り崩し豪勢な食事を4人で楽しんだ。


 ――



また別の日。その日は校長に呼ばれグランドと2人で15階の校長室へと向かった。


 なんでも、古代の魔法。その入手経路が確保出来たとの事。


 校長の話を総括すると、古代の魔法。及び魔法書は各地に点在する迷宮区にあるとの事。


 迷宮。数多の強力で恐ろしい魔物が跋扈し入り混じる、その最奥。そこに新たな魔法書が見つかったらしい。


 その魔法書はソウカを生き返らせられる物かは確定していないが、行く価値は十分あるだろう。


 俺達は2つ返事で了承しようとした矢先、校長から1つの試験を受けるようにと指示された。


 「先程も言いましたが、迷宮とはとても恐ろしい所です。下手を打てば簡単に命を落とす。そこで貴方方には迷宮に潜る実力に足り得るのかを試させていただきたい」


 「具体的に僕達は何をすれば?」


「私が使役している魔物。実際に迷宮にいる魔物を10体同時に相手をしてもらいます」


 「まあ貴方方の事ですからわざわざ試すような事をする意味がないのは重々承知してありますが。万が一の事を考えて受けてもらいます」


 その後、校長から追加で迷宮を2人は心細かったら実力あるお友達なら連れて行ってもいいと言われた。


 俺達はその場で即了承を示さず、一旦話を持ち帰る事にした。


 部屋を出る直前、校長が俺達に最後の釘を刺す。


 「今は学校の権力でその迷宮探索の優先権を得ていますが、いつそれが効力を失うか分かりません。決断はお早めに」


 俺は目の前が真っ暗になる思いだった。

 

 

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