メイド
話し始める。と思ったら男は口を閉じ、何かを考えている風に動きが止まる。
「どうかしたんですか?」
あまりに黙っている男に痺れを切らしたグランドがそう尋ねる。
「…どこから話すかなと思ってな」
男は顎髭を撫でながら、呟くように言う。
ひとしきり撫で終わると膝に手を置き、今度こそ話は始まった。
「よし。こういうのはまず自己紹介からだな。俺の名前は訳あって言えないが、とある国でとある団に所属している。よろしくな」
男は気さくな風に両手それぞれを俺達に差し出した。
てか、とあるが多すぎて結局何一つ男についての情報がわからない訳だけど。
俺達はそれぞれの手に握手をしながらこちらも自己紹介をする。
「僕はグランドです。そこの学校の生徒です」
「…私はソウカ。同じく生徒です」
「へぇ。2人ともね。確かあそこってかなりの名門だったよな」
「ええ。まあそう言われてますね」
「じゃ、エリートって訳だ。こりゃ好都合かもな」
俺達2人、頭に?を浮かべた事だろうが、男はそんな疑問を気にするそぶり無く、話を本題に戻した。
「そんじゃ、今から色々話す訳だけども俺は説明下手くそだからな。わからない事があったら話終わった後にでも質問してくれや」
そう前置きをする。
「さっきも言ったが帽子の子…帽子小僧は世間一般で言うところの未開の民ってやつだ。で、そいつが何の目的で、なんの為にこの世界に来たのかだが。そいつは自分の意思でこっちに来た訳じゃねぇのよ」
「では、どうやってこっちに?」
男は俺達を交互に見る。
「お前らエリートなら知ってるかもしれねぇが、召喚魔法って知ってるか?」
俺はそんな魔法知らない。グランドも首を横に振る。
「そっかそっか。じゃあ簡単にいうと、物質や生物をどっかから連れてくる魔法の事だな。古代の頃の魔法だ。
んで、その魔法をうちの国の馬鹿な魔術師が使ったのよ。それで不幸にも帽子小僧はこっちに連れてこられちゃった訳なのよ」
「んで、さっきお前らに言った、帽子小僧の命が危ないって話に戻るけども。うちの国は帽子小僧を、秘密裏に、誰にも知られる事なく国に召喚したかった。自分達が古代の魔法を所有している事が誰かにバレることを恐れたからだ。でも結果は自国から遠く離れたこの国に召喚されてしまった。ようは魔法は、王の願いは失敗したって事だな」
男は一度言葉を切る。そして一息つく。
「…王はは帽子の小僧を使って何かろくでもないことを企んでいる。万一国の、俺達以外の連中に見つかれば小僧は死ぬ事以上の地獄を見る事になる。」
男は机の下から大きな、大きすぎるバッグを取り出した。
「そこで、お前らに頼みたいことがある。」
バッグを開けて、その中身を俺達に見せる。
その中身を見て、俺だけは愕然とした。開いた口がしばらく閉じられなくなった。
バッグの中身は大量の、それこそ月のお小遣いなんかとは比べ物にならない程の大金だった。
男は中のお金を掴んで見せる。
「この金は全部お前達にやる。だからその子を守り、育ててくれねぇか。大衆の目につく事なく。でも自由にのびのびと、不自由なく。育ててはくれないか」
目の前で頭を下げる男の願いは、事情を聞くと無茶とも言えるものだった。
「ちょっと待って、考えさせて下さい」
グランドがそう言って、俺の方を向く。
「ねえ、どうしようこれ。思ったよりも大事だよこれ」
かなり気が動転しているだろう事が、その様子で十分に伝わる。
かくいう俺も人の事はいえず、上手く考えが纏まらず、そして何よりも優先すべき事がある今。こんな大事を目の前に突きつけられて、うまく言葉が出なくなってしまった。
「ああ。いや待ってくれ。俺の言葉が、俺の説明が悪すぎて変に考えさせちまったな。」
そんな俺達に男が割り込んでくる。
「俺は確かに国だとか、大事と取れる言い方をしちまったけども。実際の所俺達の国はいま色々な意味で余裕ないからお前らに何か危害を加える事は出来ないんだ。後、この金は不正だとかそんなんじゃないし。だからお前らの危惧しているような事は何も起きない」
別にそこを気にしていた訳ではないんだけど。
俺は男に言われた通り、大方の話が終わったようだし質問する事にした。
「その、絶対に私達に危害が及ばない保証っていうかそういうのはあるんですか?」
「今すぐには保証出来る訳じゃない。」
「…これ、誰にも言わないでくれよ」
男はそう前置きする。
「うちの国。多分近いうちにそうとうデカい戦争が起きるんだよ。だからそうなれば遠くの土地にいるお前らに人員をさくなんて事は出来なくなるんだよ。それにもしも、何か起きそうなら俺が全力でお前らに手を出させないようにするよ」
「他に質問はあるか?」
俺は首を横に振る。グランドも同じく。
「そっか。じゃあ俺の問いに返事を貰えるか」
俺はそう聞かれて、考える。
俺としては、少年を俺達と一緒にいさせるって事自体はやぶさかではない。というよりももうすでに、部屋まで用意してメイドまで呼んで、これからも一緒にいる気まんまんだったし、その上安全の保証とこんな大金を貰えるならば。
俺としてはOK以外の返事はない。
「私は、もうすでかなり少年と仲良くなりましたからね。是非これからも一緒にいたい限りです。ので、返事はOKです」
「そっか。そう言ってもらえて嬉しすぎるよ」
男はニッ笑う。
「君は、考え終わったか?」
男はグランドを見る。
「…僕は、この子の事は嫌いではないので、面倒見ていく事自体は嫌じゃないです。」
「でも、正直言わせてもらいますけど僕達に危害が及ばない保証も、それを保証した貴方どちらともまだ信用できていない。それが正直な所です」
そっか。と男がいい終わる前に、グランドは言葉を繋げた。
「でも、乗ってしまった船なんで。責任持って僕もこの子を守っていきます」
「…本当に、あの魔法が失敗して良かったよ」
男は最後にそう呟いた。
俺達はカフェから出た。
「じゃ俺はそろそろ行く」
「戦争…それに行くんですか?」
「いや、まだ国に帰るつもりはない。ここでやる事が残っているんでな」
「やる事ですか?」
俺はそう尋ねる。
「実はなんだが、王はもう1人、こっちの世界に召喚した奴がいるんだ」
「その人も失敗してこの辺にいるんですか?」
「さあな。それを調べるに行くんだよ。だからお前らももしそいつを見つけたら保護しといてくれや。」
結局名前すら分からずじまいの男はそう言って俺達の元から去っていった。
少年と大金を俺達に託し、1つのもしもを俺達に押し付けて去っていった。
それから数日。魔法の研究。魔法の修行。といつもを過ごしていた俺に一通の手紙が届いた。
差出人はミネラ。内容は挨拶から始まり、最近の屋敷の様子。俺の体調、食生活の心配。そして最後に、おまけ程度でメイドを派遣した旨。という内容の手紙が届いた。
それからさらに1週間。日常を過ごしていた俺の部屋の扉がノックされた。
扉を開けると、見慣れた、しかしもはや懐かしいメイド服を身に纏った女性がいた。
「どうも。貴方とミネラさんの命を受けまして私。ただいま参上しました」
こんなメイドいたっけ?一目見てそう思った。
まあ、俺は屋敷ではミネラ以外のメイドさんに冷たく、というかあんまり相手にしてもらっていなかったから相手の顔を覚えていないのもしょうがないだろう。
「遠い所。わざわざありがとうございます」
「あの、私メイドなんで。敬語辞めてください。ご主人に怒られるんで」
そう言われても見覚えない人なのだし、メイドさんにはつい敬語を使ってしまう。
「…分かった。敬語は使わない。」
「そうして下さいね。私、怒られたくないんで」
メイドを名乗るならその態度を辞めろとつい言ってしまいそうになった。
なんかコイツ俺に凄い態度悪い。愛想が無い。礼儀もない。
やっぱソウカって屋敷の人に嫌われてるんかね。
「それで、今一度聞いときたいんですけど、私。具体的には誰に何をすればいいんでしたっけ」
「ああ。こっち来て」
俺はメイドさんを少年の所に連れて行く。
「この少年に1から。赤ちゃんに教えるみたいに優しく丁寧に、言葉を教えてあげてほしい」
メイドは少年を見て、怪訝そうな顔を浮かべる。
「まあ仕事ですんでやりますけど、1つ聞かせて下さい」
「なに?」
「見た所この子、10代そこそこですけどその歳で言葉分からないってどういう事なんです?」
俺は言葉が詰まる。どう上手く言うかを考える。
「まあ、いいですわ。」
言おうとした矢先、メイドにそう言われてしまった。
「じゃ、仕事なんで頑張りますね」
彼女はそう言って少年の元へ向かった。後は彼女に任せるとしよう。
俺はもう日課となった魔法の修行をすべく、研究室へと向かった。
俺はここ数日で、これまでの課題である魔法の発動に成功した。
それどころか、初級魔法ならば粗方マスターしたといっても過言ではない。
直近の課題としてはその魔法の持続時間が短すぎる。という事である。
回復魔法ならば小さな傷を治す前に魔法が途切れる。火球などを出す攻撃魔法ならば、火球を遠くに飛ばす前に、火球が事切れる様に消えてしまう。
と言った異様に短い持続時間の改善。それにここ最近は勤しんでいるといった訳である。




