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スライム 人間になる  作者: 浅川 大輝
学校生活編
32/50

少年と少年と少女と少女とスライムと

 「やあ、ただいま」

本当に1時間。ぴったり1時間たった頃にグランドは帰って来た。


 「どうだった。有益な情報とかは得られたのか?」

「有益かどうかはこれから調べてみるよ。それよりそっちはどう?何か変わりはあったかい?」



「ああ。ちょっとお前に聞いてもらい事があってな」


 そうして俺は自分の考察を話そうとした。話そうとした矢先、グランドが手を突き出す。


 「ちょっと待って。僕もお腹が空いた。買って来てもいい?」


 時刻は丁度昼に差し掛かろうとする頃だった。



「勿論。ここで待ってる」

「見た所君はまだ食べてないみたいだけどどうする?君の分も買ってこようか」


 俺は自分の腹に手を置いて、腹と相談する。腹は鳴らない。返事がない。つまり腹は減っていない。


 「俺は大丈夫だ」

「分かった。じゃ行ってくるよ」


 行って、10分程でグランドは手で待ちきれないほど沢山の料理を持って来た。


 「おい。お前懲りてないのか。前に食べ切れずに俺も食べる羽目になったろうが」


「僕は新たな土地に来たらその街の名物を食べると決めているんだ。大丈夫。今度こそ君に押し付けるなんて真似はしないよ」


 「それで、僕に聞いて欲しい事ってなに?」


 グランドは適当にその辺に座り、勢いよく料理を口に運ぶ。相当に腹が減っていたんだろう。いい食べっぷりだ。


 俺はグランドを待っている間の事を全てを話した。

少年に、様々な言語で話しかけたけど、どの言語にも反応が無かった事、未開の民の事。その他もろもろ。


グランドは俺の話を聞き終えて、口に入れた料理を飲み込んで、水を飲んで、一息ついてから口を開いた。


 「未開の民…ね。」

「ああ。少年がそうだとしたら全ての辻褄があうと思わないか」


 「んー、そもそも未開の民が存在するっていうのも決定的な証拠っていうのはないんだよね。それこそ以前話した魂と、同じで創作や妄想の類いだ。」


 「じゃあお前はこの少年は何者だと思う?」


「うーん…黒髪黒目はこの世界ではいるかどうか分からない。見た事のない服。この世界の言語は全く理解出来ていない」


 グランドはブツブツと呟き始めた。


「ここの料理に警戒心がある。顔立ちもこの世界の人種のどれとも当てはまらない。…記憶喪失?いや違うか。見た所バックなんかもないし、手ぶら。旅行などの類いではない。僕の魔法が通じない。何故?」


 しばらくグランドの独り言は続いた。



待っている間に、結局グランドが食べきれなかった料理をつまみながら大人しく待った。


 「よし、仮説。」

黙っていたグランドが口を開いた。


 「聞かせてくれ」


「うん。分かった。」


「まず僕の結論。この子は未開の民。少なくともこの世界の住人ではない。その結論に至った理由として、1つがこの子が手ぶらな事と言葉を理解出来ていない事。


 もし旅行者ならバックなり何なりを、持っているし。旅行先の国の言語はあらかじめ覚えておくものだろう。


 2つ目は君も言った通り、顔立ちと服。顔立ちはともかくとして、服は見た事もない素材を使っている。未開の民もこの世界とは別の物質を使っている。


 3つ目は僕の魔法が全くこの子に効力が無かった事。

回復魔法というのは、その人の体内の魔力を活性化させて傷口を治すんだけど、君も見た通りこの子の傷はいくら魔力を込めようとも少しも、ほんの少しも治る兆しがなかった。


 僕の腕が悪いと言うことも、ただの擦り傷なのだから流石にないだろう。


 つまりこの子には全く体に魔力がない。人が、虫が、動物が、魔物が。生物に産まれた時からある魔力がこの子には全くない。」


 「よって僕はこの子はこの世界の住人ではないと思う」


 結局、俺と同じ結論じゃないかという言葉は胸にしまった。


 「なるほどな。しかしまさか未開の民をこの目で見る事になるとは」


「だね。本当に存在したんだね。別の世界というのは」


 「それはともかくとしてこれからどうするんだい?」

「どうっていうのは少年の事だよな」

「うん。勿論僕は君のこの子を見捨てられないという気持ちは分かっている。でもさっきいった通り僕達には何よりも優先すべき目的があるんだよ。この子にあまり時間はさけない」


 まあやはり。結局はこの場面に、話し合いに戻ってしまう。やはり俺はグランドを説得するしかないのだ。


 …待てよ、何に説得するんだ?


 この少年を警備隊に渡さないでくれと説得するのか?


 でももし仮にその説得が成功したとして、そのあとはどうする。俺には早くに手をつけなければいけない目的がある。


 俺はこの少年に何がしたい。少年は一体何がしたい。


 もう一言も発さなくなったこの少年はいったいなにを望んでいるんだ。


 「…グランド、1つ俺の案を聞いてくれないか」

「言ってみてよ」

「俺はこの子に、この世界の言葉を教えたい。意思疎通を可能にしてやりたい。」


 「だから僕達にその子にさける時間はないんだよ」


「分かってる。だから屋敷のメイドにそれを頼む」


 俺は屋敷でのミネラとの会話を思い出した。


ソウカは幼少の頃、屋敷に家庭教師を呼び、言葉や魔法を覚えたという。


 俺達が教えてやれないのなら、ここに家庭教師を呼べばいいと思ったのだ。


 「メイド?ミネラさんに来てもらうの?」

「いや、ミネラじゃなくて他のメイドにお願いしようと思ってる」


 ミネラは俺が頼めばすぐに、いつもの笑顔で来てくれるだろう。しかしミネラには次に会う時は俺が中にいないソウカに合わせてやりたい。これ以上はミネラを騙したくはない。


 「頼むグランド、我儘言ってるのは分かってる。でも俺は少年を見捨てたくはないし、個人的な理由で警備隊に渡したくはない。滅茶苦茶我儘だけど、もちろんちゃんとソウカの件に今以上真剣に取り組む。だから頼む」


 俺はグランドに頭を下げた。誠心誠意頭を下げた。


 「…僕は頼まれるほど上の立場じゃないんだけどね。僕達は同じ立場で同じ目的に取り組む共犯者でしょ。良いよ。君の案に賛成だ」


 「…悪いなグランド。ありがとな」


「もう謝らなくていいよ。それに今思った事だけどこの子が未開の民ならこのまま警備隊に送るのは駄目だとおもう」


 俺はそういわれて、最初は何故?と思ったが、頭を回すとだんだんとその意味が分かって来た。


 「きっと警備隊は遅かれ早かれこの子が言葉を理解出来ていない事に気づく。そうしたら僕達と同じ結論に辿り着くのはすぐだ。そしてこの子はお偉いさんの所に送られて、酷い目にあわされて。そんな光景がありありと想像出来る」


 俺も想像できる。


「ま、だから君がいい案を思いついてくれて助かったよ」


 グランドはニッと笑った。コイツは本当にいい奴だ。


 いい奴で、本当にソウカの件にキチンと後悔して、向き合っている。


 だからこそ、俺の中の疑惑がより濃くなる。


 俺はあの船で、この旅で。コイツともうそこそこの日数、一緒にいるけれど、コイツがやはり極悪人だとも、ソウカの事について何とも思ってない奴だとも、俺は一切そうは思わなかった。


 コイツはやはり見た目通りの好青年で、いい奴なのだと。そういった事しか思わなかった。


 だから俺は疑惑を抱いた。本当にコイツがソウカを殺したのかと。


 本当にいい奴で、ソウカの死体を見ただけでしばらく震えて放心してしまうコイツが、本当にあの日あの場所でソウカを殺せたのかと。


 まあ現状、それについて俺が詳しく調べられる手立ても。何より先程いった優先順位。


 この俺の疑惑は一旦心の奥に閉まっておくのがいいだろう。


 「でさ、また僕は君に聞く訳だけど。これからどうしようか」


 「この子、どこに寝泊まりさせようか」


 一難去ってまた一難。再び俺達に壁が立ち塞がる。


 学校や寮は俺達が推薦者だから一切の金をかける事なくいられているけれど。少年は学生でもない。


 少年を学校にいれようとも、はたまた近くの宿舎に泊めようとも。


 俺達には肝心のお金がない。俺達にかってに家のお金を使う事は許されていない。


 故に、少年を学校や宿舎に入れる事はほぼ不可能。


 ほぼ。手がない訳ではない。俺達は推薦者。その部屋は研究室。研究室に限り、奴隷として、研究材料としてならば、他の人間の学校への立ち入りは許可されている。



しかし、俺はこの少年を奴隷として連れて行きたくはない。それはグランドも同じ気持ちだろう。だからこそのこれからどうしようか?という言葉。


 「どうしたものかね」

「んー、でもメイドさんに来てもらうのなら、それなりに広くて動画の揃った部屋。それに僕達が近くにいる所が良いよね」


 「じゃあやっぱ研究室しかないか」

「…そう…だね。それ以外は思いつかないや」


 俺達は話し合いの末、校長に話を通す事にした。


 ちなみに、本来の午後の予定であった家具探しは日を改めてという事になった。


 坂を上り、階段を上り、3人とも足が死んだので階段をよじ登り。なんとか学校の門を通り、移動教室までいった所で、事態の深刻さに気が付いた。


 「この子、15階に行けないじゃん…」


そう、この魔法陣は行き先を頭で唱える必要がある。しかし少年は言わずもがな言葉が分からない。


 この学校の中には階段はない。


「しょうがない、この子は僕達の寮の部屋で泊めてもらえないか校長に掛け合ってくるよ」


 「おう。頼んだ」


俺はグランドを見送った後、図書室に移動した。


 本を読みたい。というより、人の目にあまり少年を触れさせなく無かった。


 一応今は、安い毛布をかけて、帽子を被せてはいるけれど、それでもやはりあまり人に見られたくはない。


 だから俺達は図書室の端っこ。隅の隅に隠れるように移動した。


 「ここなら人はこないでしょ」


 「いて、」


 誰かにぶつかった。こんな隅、人のいない場所で誰かにぶつかってしまった。


 声の方を振り向くと、人がいた。その人は俺達よりも先に、奥に隅に蹲って本を読んでいた。


 それを俺は気が付かずぶつかってしまった。


 「すみません、大丈夫ですか?」


「ええ、こちらこそ存在感がなかったようで、すみませ…」


 本から顔を出した少女と目があった。


その瞬間少女は勢いよく立ち上がり、先程の小さな声と態度はどこにいったのかと聞きたいくらい、の仁王立ちで叫んだ。


 「ようやく会えたわね!我がライバル!」


 


 




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