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スライム 人間になる  作者: 浅川 大輝
学校生活編
29/50

 ベルに言われた通り俺は疲れていたし、もう寝ようかとも思ったけどこれからしばらくはお世話になる部屋だ。


 軽く設備なんかを見ておこうと思う。


 広さは普通。屋敷の部屋よりは狭い。でも安い宿屋よりは広い。洗面所あり風呂も狭いけどあり。机、小さな本棚。


 質はそこそこのベッド。


 それが俺の部屋だった。感想としては悪くない。


むしろ1学生にこのレベルの部屋を与える学校を素直に凄いと思う。


 相当お金がある学校なんだろうね。聞くところによると、名門と呼ばれているらしいし。


 俺は風呂に入り、その日はもう寝る事にした。


朝起きて、昨日出来なかった荷解きをして朝の支度をしてグランドの部屋へと向かった。


 男子女子と部屋は別れているけど禁制とは書かれていなかったし、普通に女生徒が男子のフロアに入っているのを見た。あくまでも部屋に入るのが駄目って事だと思う。


 男子部屋近くに来て、足を止めた。そういえば俺グランドの部屋知らない。


 仕方がないので、俺は地獄の階段を朝から上り、途中疲れたのでよじ登り、やっとのことで学校に着いたので移動教室に行き魔法陣に乗る。


 見えない手に掴まれて空中を昇り15階へ。


 15階の廊下を歩き最果てへ。


扉を開けて橋を渡ってツリーハウス。


寮からここまで所要時間25分。使った体力は全体の8割。


 これから毎朝これを繰り返すのかと思うと頭が痛くなる。


「もしもし。いる?」

 扉を叩き、呼びかける。


「おお」


部屋から帰って来たのはグランドにしては珍しく、ぶっきらぼうな、いい加減な。そんな返事が帰って来た。


 「入るよ」

「うわ!」


 部屋に入って、思わず声が出た。


 真っ暗な部屋、真ん中にはボサボサの髪と目元に真っ黒い隈を作ったグランドがいた。


 まだ一日も経ってないだろうに散々な有様だ。


 「や、どうしたんだい」

声もガラガラだ。


 「どうしたもないよ。昨日言われた校長への挨拶の件で来たんだ」


 「…ん。あれ、もしかしてもうここは明日なのかい」


 グランドは見たまんまの徹夜をしていた。


「うん。そう。」


 「じゃあ準備しないと。行くのは早い方がいいだろう」


グランドはフラフラとした足取りで歩き出す。


 しかし、すぐに体制を崩したので支えてやる。

「大丈夫か?」


 「ありがとう。助かったよ」


支えてやるはいいがグランドはそれでも足を前に動かそうとする。


 「校長は今日中って言ったんだ。別に今すぐ行かなくてもいいんだよ。少し休め」


 「…駄目だ。早くしないと」

「何にそんな急いでるんだ。1人でも歩けないんだから1回寝ろよ」


 「駄目だ、寝てる暇はないんだよ」


 コイツにしては珍しく焦っている様に見えた。コイツが焦る。俺は部屋中を見回す。机には散乱した沢山の本と紙。


 何かを沢山調べた跡だ。


「何かあったのか?」


 コイツが焦り、徹夜する程の事態が起きているとするならばきっとその事態は俺にも関係がある。


 つまりソウカ絡みで何かあったのかもしれない。


 「…昨日ちょっと思い付いた事があって軽く調べてみたんだ。」


 一旦俺はグランドを椅子に座らせ、話を聞く事にした。


 「思いついた事ってのはソウカを生き返らせる魔法の事。その魔法がどんな物かは分からなかったけど、あらゆる事態を想定する為にどんな系統の魔法なのかを考察してみる事にしたんだ。」


 「結論から言って、僕は物を直す魔法。その系統の魔法なんじゃないかってなったんだ。物を直す魔法はバラバラになった物の部品を全て集めて合体させて直す。


 でもこの魔法には欠点があって1つの部品。その部品がどれだけ小さからろうと大きかろうと1つでも部品を紛失したらその物はもう一生直せなくなるんだ。」


 「だからソウカを物として例えるとほとんどの部品は今君が使っている体の中にある。でも1つ。僕の仮説が正しければ失われた部品が1つある。」


 グランドは1本指を立てる。


「それはなんの部品なんだ」


 「以前君が君の能力を説明する時に言ったからっぽ。そのからっぽを埋めるのが魂だとすると、今死んだソウカの体に魂は無く、代わりに君の魂が体に入っている事になる。」


 魂。グランドはそう言った。でも魂ってのはあるかどうか分からない。人間があると決めつけて勝手に作った物だ。



 「魂ってそれは創作物だけの話じゃないのか」

「かもしれない。だからこれは僕の考察だって言ったでしょ。でもこんな話を聞いた事がある。たった今死体になった人の近くにいると、誰かがいる気配を感じるという。でもしばらくしたらその気配はいなくなった。魂は体の無いその人そのものだという。」


 「…もし魂があるとして、その魂がいつかいなくなるものだとして。その魂が部品の1つだとすると…早くしないとソウカを生き返らせる事は出来なくなるかもしれない」


 グランドが焦り、急いだ理由は分かった。しかし、だ。


 「でも、これはお前の考察だろう。それに根拠となる部分も魂なんていうあるか分からないものだし」


「でも!」

 グランドは声を荒げる。

「ただの考察だけど、いや大した根拠のない妄想かもしれないけど。もしこれが全部合ってたらどうするんだよ…」


 確かに。グランドの考察があっている可能性は現時点ではかなり低いだろう。しかしこれが全部合っていたら。ゾッとする。


 グランドは妄想で徹夜をして急ぎすぎている。そう思っていたが、俺の方が逆にゆっくりしすぎていた。今回の事でそう思わされた。


 「悪かった。確かにお前のいう通りだ。俺が能天気すぎた」


 「いや、僕も。怒鳴ってごめん」

「でもグランド。急ぐ気持ちは分かったけど、急いでもいい事はないんだよ。まずは一旦休め」


 「…そうだね。分かった」


そういう事で、校長と会うのは午後からという事にして、今はグランドを休める事にした。


 この研究室にはベッドやソファーといった休める家具が何一つなかったので、俺はグランドを担いで寮まで戻った。


 グランドの部屋は何にも無かった。荷物も、入った痕跡すらない。昨日、別れた後すぐに研究室に行ったのだろう。


 グランドをベッドに寝かせて俺は部屋を出る。


 そして、俺も一旦自室に戻る。


 普通の学生なら今頃授業なのだが、俺達推薦者は自分で授業に出席するか否かを選べる。本当にいいシステムだ。


 俺はグランドを時間になったら起こすという役割がある。


 なので、時間を決められている授業に出るわけにはいかない。かといって他にやる事はない。


 魔法の修行も情けない事に1人では出来ない。本当に情けない事だ。


 でも修行は出来なくとも知識をつける事は出来る。


 俺は学校の図書館と研究室に向かった。


 最初は1階にある図書館から。


 流石、魔法学校。遥かに市民図書館よりも魔法書の品揃えがいい。


 以前魔法基礎の本は買ってある。実践用の本はもうある。

だから俺は知識を、付けるため。数ある魔法書の中から取り分け古代の魔法に書かれている書物を探した。


 結果見つけれたのは古代の魔法が書かれている本。ではなく古代の環境。や古代に存在したとされる偉人。といった本ばかりだった。


 まあ古代についての知識をつけておいても損は無いだろうと、本を数冊借りた。


 次は研究室だ。そう思って一歩足を踏み出した矢先、後ろから声をかけられた。


 「あれ、ソウカさんじゃん」


 聞き覚えの無い声。いやどこかで聞いた事のある声。しかし以前と声のトーンが違いすぎる。前はもっと声が低かった様な…


 俺は振り向いた。そこにいたのは、金髪で笑顔。制服を少し着崩し手を振る……誰…ああ。いやもしかして。

 「…ベルさん?」


 「そーそー。ベルだよ。昨日ぶりだね」

彼女は緩い感じでそう言った。


 「…こんにちは」

「なんか元気なくない?何かあったの?」

「いや、元気はあります。ただ昨日と雰囲気が違いすぎて驚いたと言いますか」


「あー。そっかソウカさんはこっちの私に会うのは初めてだもんね。」


 正直、これに関しては一瞬分からなくてもしょうがないと思う。だって昨日の真面目でお堅い雰囲気はどこに行ったんだよってくらいの変わり様だからね。


 「まーこっちが本来の私だから。これからよろしくね」


「…随分昨日とは雰囲気が違うんですね。本当に別人かと思ったよ」


「昨日は仕事だったからねぇ。お堅くしなきゃいけないのよ。それよりも」


 「こっちの方がよろしいですか?」

声は低く、クールな感じ。こっちの方が俺には馴染みがある。でも俺は自分を偽ってまで俺と関わって欲しいとは思わない。


 「いえ、本来のベルさんのままでいいですよ」

「そう、良かった。じゃこれからもこのテンションでいくね」


 「それよりソウカさん、学校はどうよ。少しは慣れた?」


 「まだ授業とか出てないので何とも言えないですね」


「あぁ。そっか。ソウカさん推薦者だもんね。」


辺りが一瞬騒がしくなる。


 辺りを見るといつの間にか人が集まって来ていた。


 耳を澄まして良く聞いてみると、あれがソウカ? 本物?

あれが最年少で…


 などという声がひっきりなしに聞こえる。


 そうして人だかりが出き、俺は図書館から出られなくなってしまった。


 グランドが言った事は本当だった。ちゃんとソウカに成り切る練習をしていて良かった。


 しかし流石にこの人数は対応できない…


そう考えているとベルが声を上げた。


 「みんな、私達急いでいるから道を開けて!」


 ベルは手際よく、人々を収め、道を作ってくれた。


 「よし、行こう」


 俺の手を引く彼女は、俺にはカッコよくクールに見えた。


 彼女はクールに務め演じているのではなく、素でクールでカッコいい人間だったのだ。


 人だかりから遠のき、俺は彼女に礼をした。


 「ありがとうございます。助かりました」

「いいってことよ。でもソウカさんって噂通り凄い人なんね」


 「噂ですか?」

「うん。ま、噂っているよりみんなそう認識してるっていうか。とにかく最年少で上級魔法使いになった人って有名だよ」


 これもグランドの言った通りだった。先程の人だかりを見て、俺は改めてソウカという人物がどれほど名の通った人物なのかを知った。


 「じゃ、悪いけどそろそろ帰るわ」

「分かりました。改めて、ありがとうござました」


「おうよ。じゃまたねソウカさん」


 そうしてベルは去っていった。俺はしばしベルと別れる事になった。


 …とはならなかった。ベルか向かった場所は移動教室。そして俺が行きたいのも移動教室。


 そんな訳で一緒に行く事になった。


「いやまさか行き先が同じだとはね。いい感じに別れた手前、恥ずかしくなっちゃったよ」


 「すいません、まさか私と行き先が同じだなんて」


「ソウカさんは今からどこいくの?」


 「私は15階の研究室に」

「私は13階に」


 ほう。13階。って確か3年生教室だった気がする。


「ベルさんは3年生だったんですか?」

「そうそう。3年生」


 なるほど、通りで。何か納得した。


 「んじゃ、今度こそまたね。」

「はい、また」


 俺達は今度こそ別れた。


 そして俺は研究室に、そして色々勉強を。


 そう思っていたのだけど、中は散らかりすぎてて、足の踏み場も、ないと言うか。どれもこれも勝手に触っていいのかどうか分からない物ばかり。


 俺は研究室を後にした。グランドが起きたら一緒に片付けをする事にしよう。


 「あら、ソウカさん」


 またまた声をかけられた。しかし今度は完全に誰か分からん。声も聞き覚えないし。


 目の前の人間は白髪に白髭。ピシリと服を着こなした初老の男性だった。


 「…すいません。どなたでしょう」

「ああ。失礼。私、校長です」


 校長だった。確かに校長と言われて納得するだけの風貌をしている。そうかコイツが校長か。


 「校長先生でしたか。これは失礼」

「いえいえ。それよりも今日はグランドさんと一緒ではないのですか?」


 「はい。グランドさんは旅の疲れのせいか、体調を崩しまして」


 「あらまあ。では今日の予定は後日にした方がよろしいですかね?」


 「いえいえ。今日で大丈夫ですよ。ただの疲れですから」


 というか、寝不足ってだけだし。


 「そうですか。ではソウカさんだけで今やってもらいたい事があるのですが」


 ほう。俺だけ


「なんでしょうか」


 



 

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