人生の分岐点
「じゃあ次は俺から質問だ。」
質問といっても俺が聞きたいことはただ一つだけ。
「なんでソウカを殺したんだ?」
この質問、別に俺自身は然程気になる物ではない。ではなぜ聞いたのか。
正直、ちゃんとした理由がある訳ではない。しいて挙げるならば聞かなければいけない気がした。
「うーん。答えても良いけどさ。これを言って何か変わるのかな。」
「さあ。変わるかもだし、何にもならないかもしれない。」
「じゃあ嫌だな。あまり誰かに言いたい事じゃないんだ。出来ればもうこのまま忘れて行きたい。」
忘れて行きたい。それは俺には聞き流してはいけない言葉に聞こえた。
「それは駄目だろ。どんな理由で殺したのかは分からないが結果、お前の行いで悲しむ人がいるんだ。」
そういうとグランドはすかさず反論する。
「君が言えることじゃないだろ。君だって自分で言ったじゃないか。俺はミネラさんを騙しているって。君も悲しませている1人だよ。」
「その通りだ。俺達はお互いに人に物は言えないんだ。これはお前が始めた事だとすると、俺がそれを続けているんだ。」
「俺達は共犯者だ。」
グランドは椅子に深く座り直して目を閉じた。
「共犯者ね。」
「言い方を変えよう。」
俺達は共犯者だ。共犯者になんで殺した?なんて威圧的に、上から聞くものじゃないだろう。
「俺に、聞かせてくれないか。なんでソウカを殺したのかを。」
「あー。うん分かったよ。話すよ。」
と言うと少し姿勢を正して、グランドは話し始めた。
「もう結論から話すとね。僕は脅されたのさ。」
「誰に?」
「自分の実の父に。ソウカを殺さなければお前からレブリカの名前を剥奪するぞってね。」
レブリカ。話からしてグランドの名前だろう。グランド•レブリカ。それが正式な名前だろう。
それで、名前を剥奪するの何が脅しになっているのだろう。正直人を殺す動機としては薄い気がするのだが。
「それで、怖くなっちゃってね。もう殺すしかない。これしかないってなっちゃった。…本当に馬鹿だよなぁ。何で殺すとか馬鹿な事思ったんだろ。」
どうやらグランドも俺と同じ思いだったみたいだ。そうだよな。名前が動機なんて変だよな。
「本当だよ。なんで名前如きで。」
「だよな。でも如きでもなぁ。僕にはそれしかないんだよ。いつも誰かに劣ってばかりの僕に誇れる物なんて、名前くらいしかなかったんだよ。」
「ごめん。如きなんて言って。」
俺はすぐに謝罪の言葉が口から出ていた。
如きじゃない。正直その名前にどれだけの価値があるかは分からない。でもそれはグランドにとっては他の誰でもない。自分だけが持つ特別な物なのだろう。それを如きと言ってしまうのはいけない事だ。
「いや、良いよ。君からしたら名前如きと言ってしまうのも仕方ないさ。」
「じゃあそういう訳だから。僕の話は以上だ。これでおしまいだ。」
「…ああ。ありがとう。話してくれて。」
それからしばらくはどちらも口を開かなかった。グランドは俯いたまま。
グランドの様子を見て、俺は思わず溜め息が出てしまう。
なんだかなぁ。俺はこんな展開にする気は無かった。
俺はソウカを殺した凶悪犯と会って、ソイツの首根っこ掴んで、ミネラの前で2人で謝る。罪を認めて罰を受け入れる。それが俺の想定、予定、作戦だった。
俺は改めてグランドを見る。
グランドは泣いていた。目から大粒の涙を溢し、でも声は決して出さない様にして。
何故泣いてるか。聞く必要もないだろう。大体理由は分かる。分からなくとも、人の涙の理由なんて堂々と聞く物じゃない。
俺はここ最近で、人の涙にはそれ相応の感情が詰まっているのを理解した。ミネラが泣いた理由は無事にソウカが帰って来た『安堵』から。そしてそのソウカがまた去ってしまう事から涙したのだと思う。
この生活を通じて、ミネラの俺に対する態度と行動から、ソウカの事をとても大切にしているのは間違いない。
ではグランドはどうだろう。グランドとソウカの関係を俺は婚約者という事くらいしかしらない。婚約者といっても、もしかしたら中が悪いとか、あったのかもしれない。
でもさっきグランドはソウカを殺した事を、馬鹿な事だといった。
それは、詰まる所『後悔』しているのだろう。ソウカを殺してしまった事を。自身の為だけに、殺してしまった事を。
…このまま、俺とグランド2人でミネラに誤りに行く。するとどうなるだろうか。俺は死刑だろう。グランドは分からない。貴族だし、婚約者だし、俺とは対処が違うかもしれないが、どちらにせよ何かしらの罰は受けるだろう。
罰を受ける。それ自体はしょうがない所かむしろそれを望んでいる。悪い事をしてしまったのだから。でも今すぐに罰を受けるべきなのだろうか。
グランドは後悔のまま、罰を受け。ソウカはただ身勝手に殺されて、ミネラは悲しんだまま。
罰を受けるその前に何か出来ないか。何か少しでも状況を良く出来ないか。
このままみんなが悲しむ終わり方で本当に良いのか?まだ何か手は打てないか?
しばらく考え込む。
そもそも何をすればみんな笑顔、ハッピーエンドになる?
……。
全く思いつかん。選べるルートが全くない様な気がする。
やはり、もう何もせずこのまま誤りに行くのがいいのか…。
その時だった。
俺の頭に、革新的。だが当たり前ともいえる案が浮かんだ。
そもそもソウカがここにいれば良いんじゃないか?
ソウカがいれば、当然ミネラは悲しまないし。グランドも後悔する要素がない。それに俺も死刑にならずにすむ。
いや勿論いつかはちゃんと謝るが、罪は大分軽くなるのでは?
そうだよ。ソウカが死んでない事にすればいいんだ。ソウカを何とかして生き返らせれば良いんだよ。
早速俺はグランドにこれを話してみる事にした。
以前として俯いたままのグランド。それに気遣う事なく俺は話を始める。
「なあ。聞きたいんだけどさ。」
というとグランドは顔を上げた。目が少し赤くなっている。
「なに?」
「ソウカを生き返させる事は出来ないかな。」
「…え?」
と、グランドは目を丸くしている。
無理もないだろう。突拍子もない話だ。
俺はさっき思い付いた事を全て話した。
「………。だからさ。ソウカを生き返させる事は出来ないか?」
「なるほどね。やっぱり君は魔物とは思えないな。」
「まあ、なんて言うかな。このまま終わらせたくないからな。」
「でも、残念ながらソウカ復活は無理だよ。」
その可能性を考えてなかった訳じゃない。出来るなら、グランドだって後悔する前にやっているしな。
「何で無理だと思う?」
「何で無理って、そんな事。そんな魔法みた事も聞いた事もないからだよ。言ったろ?僕はそれ系の本は読み漁っているんだ。」
「お前、それさっきも言ってたよな。みた事も聞いた事もないからって。でも俺がいただろ。どの本にも書かれていない俺っていうスライムが。」
「何かないのか。そういう未知を調べる方法は。」
と言うと、「もしかしたら。」「あそこならば。」とグランドが呟きだした。
そうして何度か頷いた後、俺を見る。
「少し、心当たりがある。」
「詳しく教えてくれ。」
そういうと、グランドは空を指さす。
「ん?まさか空に何かあるのか?」
「違うよ。空の色さ。」
見ると、もう日が落ちかかっている。
「これ以上はここに居れない。ミネラさんも色々と仕事が残っている。」
ああ。そういう事ね。いつの間にか日が落ちるまで話し込んでしまっていたようだ。
「今日は帰ろう。明日またここにこよう。そこで、色々と話すよ。」
そういう訳で、俺達は一旦帰る事にした。グランドは街の宿屋に。俺は屋敷に。
ちなみに、ミネラを呼びに小屋に行くとソファーの上でミネラは爆睡していた。




