到着
森に着く頃には俺はすっかり酔いが限界まで来てしまっていた。以前来た時より足もふらつくし吐き気も強い。
ちなみに犬車の中で、森に着いてから話をする事になってから、その後は一切の会話が無かった。
「大丈夫?」
「大丈夫ですか?」
ミネラとグランドに支えられなんとか俺は地に足を着く方が出来た。
「ミネラさん。僕がソウカを見ておきますよ。」
「でも…」
とミネラがいいかけた所で言葉を切る。
「分かりました。ではグランド様お願いしますね。」
察してくれたようで、ミネラは以前の小屋に。俺達は湖の橋を渡り中心に位置する、四阿にそれぞれ移動する事となった。
四阿への道すがら。二人きりになった俺達は恐らく同じ事を考えているだろう。その証拠に、
「なあ…」
「あのさ。」
言葉が被ってしまった。お互い邪魔者と言っては失礼だが、周りに人がいなくなったのだ。すぐに気になる事を話したかった。
こほんとグランドが咳をする。
「じゃあ僕から聞いてもいいかな?」
「ええ。」
「じゃあ単刀直入に聞くけども。君ソウカじゃないよね。」
まあ大体そうだとは思っていたが、やはり犯人はグランドだったか。
「ああ。じゃあお前がソウカを殺した奴で間違いないよな?」
「…うん。その通りだ。」
少し間を置きグランドが答える。
「急に口調も雰囲気も変わるんだからビックリしたよ。それどうやってやってるの?」
それってどれの事だ。
「それって何の事だ?」
「どうやってソウカに変身しているのかなって。」
変身。俺とは違う言葉で表しているな。他人からはそう見えるのか。
「俺は実はスライムなんだ。」
こいつに正体を明かしていいものか少し悩んだが、どうせミネラに誤りに行く時に全て俺の事をコイツにも話さなくてはいけないのだから良いだろう。
……。
グランドは何も答えない。
なんでだ。
二人の足が止まる。
「…。ああそうなんだ。君はスライムなんだね。それで何でソウカに変身出来るんだい?」
だから俺がスライムだから…。いや待て。何かおかしい。
「俺はスライムなんだ。っていう事で分からないか?」
「はあ…悪いけど全然分からないからもう少し詳しく教えてくれないか?」
もしかして、そうなのか?
「俺はスライムで、何か物体や死体であれば人間の中に入って体を乗っ取る事が出来るんだ。」
と言うとグランドはしばらく目を瞑り何かを考えているようだ。
「…へえ。いや面白いっていうか凄いね。そんなスライムがいるなんて初めて見たよ。」
「そうなのか?俺以外にそういうスライムを知らないのか?」
「うん。僕は魔法の研究が好きでね。それ関連の事は色々調べているけどそんな力も魔法もスライムも、見た事も聞いたこともないよ。」
やはりそうなのか。そうだったのか。確かに俺以外のスライムがこの能力を使っている所を見た事はない。
だから俺はこの能力が珍しい物だと思った。でもこの能力を使えないのは俺の周りのスライム達だけで世界のどこかには同じ能力を持つスライムがいると思っていた。
だって俺だけが他のスライムより飛び抜けた何かがあるなんて思ってもみなかったから。
勿論。グランドが知らないだけで世界のどこかには俺の様なスライムがいるかもしれない。でも少し俺はこの能力がある事が嬉しくなった。
「いやぁ。いつか君の力の事を研究してみたいもんだね。」
「それは無理な話だな。」
そう一言いれて話を変える。浮かれている場合ではない。俺は大事な話をしにここに来たのだから。
四阿に着いた俺達はそこにあるベンチに向き合う形で座る。
「本題。今度は俺から色々聞かせてもらうぞ。」
「ちょっと待ってよ。僕の質問はまだ終わってない。むしろここからが僕の本題さ。」
なんだまだなんかあるのか。…まあ良い。
「なんだ?」
「君さ。僕になんの用があって僕を呼んだの?」
「お前がなんでソウカを殺したかを知る為だ。」
「なんでそれを知りたいの?」
それは勿論、
「殺した理由を知りたいからだ。」
「なんの為に?」
…。確かになんの為だろう。少し考えてみる。俺の目的は俺とコイツでミネラに誤り、罪を受け入れる為だ。
だからその為に…いやそうか。別に俺は殺した理由はとくに気になってはいないのか。
「君さ。さっき死体に入れるって言ったよね。僕がソウカを殺したのが今から十日前の夜。あの夜僕ら意外に森に誰かいる様子は無かった。なら君は少なくとも僕が立ち去った後。九日前の朝から今までのいつかに体を手に入れたんだろう。」
グランドがじっと俺の目を見つめて言う。
「なんでそこまで、ソウカの事を知りたい。たかだか一週間くらいの関係だろう。」
「ソウカの事が知りたい訳じゃない。」
「じゃあ何故僕を呼んだ。それとも他に知りたい事があるのかい?」
「知りたい事というより、俺はミネラに謝りたいんだ。」
グランドの怪訝そうな顔。それを置いておいて俺は話し続ける。
「俺は今ミネラを騙して屋敷で生活しているんだ。それでその事を悪いと思ってて俺一人で謝っても良かったんだけど、そしたら誰もお前がソウカを殺したって分からないままだろ。」
「ふぅん。それでソウカを殺した僕を呼んで二人でミネラさんに謝りたいって事かい。」
「ああ。」
そこまで話してグランドの目が怖くなる。
「で。本音はなんなんだい?」
本音?どういう事だ。今のが俺の何偽りない俺の本心なのだが。
「どういう事だ。」
「つまり君はソウカに成り済まし生活し、ミネラさんを騙している。そして君はそれに対して罪悪感を抱いている。」
俺はコクリと頷く。
「それがおかしいんだよ。」
おかしい?何がおかしいのだろう。悪い事をしてそれに対して罪を感じるのは当たり前の事ではないのだろうか。
俺はそれをそのままグランドに伝えた。
「ああ。当たり前さ。人間ならね。でも君はスライム。魔物だ。魔物は相手を騙してもそれが自分のメリットになるならば、罪悪感なんて感じずに逆にやったぜ!って思う生き物だ。どれだけ他の人を傷つけようとも最終的に自分が笑顔になるならば何も感じないんだ。」
そうなのか?…いや確かにそうだったような。……確かに……。
「魔物は何があろうともそこの部分は変わらない。で?本音は。」
確かに。スライムの俺はそうだったかもしれない。確かに最終的に自分が得をしているならば他人を踏み躙る事に対して今のように罪悪感は抱かなかったかもしれない。でも今は違う。
「お前は信じてはくれないかもしれない。でも本当に俺は申し訳ないと思っているんだ。これが俺の本音だ。」
俺はその時、思わず俯いてしまっていたので今グランドがどんな顔をしていたのかは分からない。だが、
「なんだろうね。君が嘘をついているようには見えない。でも魔物がそう思うとも信じられない。」
そういうグランドの口調は先程よりも少し柔らかいものだった。
やはり信じてはくれなかった。俺はこの気持ちを本当だと証明する術を持っていない。このままグランドが俺を疑い何も話してくれなくなるのはマズイな。
と思っていた矢先、
「まあ、いいや。ひとまずこの話は置いておこう。このままじゃ話が進まない。」
「僕からは最後の質問だ。どうして僕がソウカを殺したってわかったの?」
ふむ。最後の質問というから少しかしこまったがなんというか少し表紙抜けた質問だ。少し考えたら自分で分かりそうなもんだがな。もしや、分かった上で俺がどう答えるかを見ているのか?
ともあれ、俺はしっかり全てを答える事にした。
結界の事。ソウカの死亡時期。そして最近までグランドがここに来ていた事。それらの事でグランドが犯人なのではないかという結論に至ったこと。
全てを聞き終えた後グランドは一つ頷いた。
そして、
「ねえ。さっき最後って言ったんだけどもう一つ質問良いかな。」
と言ってきた。
「なんだ?」
「結界ってなに?」
「……。」
グランドは結界の事を知らなかった。まさか一族の秘密とかそういうやつだったのかな。結界って。いやそうだとしてもグランドはソウカの婚約者。知っていてもおかしくはなさそうだが。
ともあれこの発言でグランド=犯人=危険人物。では無くなった。
「この森は領主の私有地だからな。関係者以外が入れないように結界が張ってあるんだと。」
「ふぅん。君が僕を犯人だと思った訳は理解したよ。でもちょっと話はズレるけどその結界を壊した人。ちょっと怖いね。」
「ああ。」
てっきり俺は危険人物はソウカの件に関わっていると決めつけていた。しかしグランドが結界に関わりがなかったのであれば……。他の誰か。全く未知の何者かが存在するって事だ。まあソウカの件に関係ないのであれば俺が深入りする理由もないのだが。
「怖いけど俺達には関係ない。」
「関係なくはないだろ。君は今領主の娘なんだから。その危険人物が街を襲おうとするならば何か手を打つ義務がある。」
「そうだな。でも領主の娘は今だけさ。」
「もう質問は終わりだよな?」
「うん。」
グランドは答える。
次は俺が質問する番だ。




