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スライム 人間になる  作者: 浅川 大輝
犯人捜索編
18/50

森の湖畔

 以前買ってもらった魔法基礎の本とその他小説。買ってもらった事が申し訳ないとかで今まで手をつけて来なかったが、逆にずっと読まないでいるのも勿体無いので意を決して手に取る。


 魔法基礎の方の目次から一ページずつ読む。


パラパラと読み進めて行く。最初のページには人間の体の構造。隣のページにはどうやって魔力を流し魔法を出すかが書かれていた。


 いわく、人間の体には胸の部分を始点として無数に分岐した管の様な物があるらしい。始点からそれぞれの、足、手、口、肩、目、などの終点にそれぞれの魔力の流し方をする。


 本に書いてある事をそのまま読むと、右の手のひらから火球を出すには、『真 右 左 真 左 真 右 」


 と管から魔力を流していく。


  試しにやってみる事にする。火球を出すと燃えたらマズイので火球の隣に書いてある水球を出す事にする。


 窓を開けて手を出し、水球の魔力を管に通す。


 体に力を入れて…魔力を流す。


 一向に魔力が流れている気がしない。というより魔力が体に無いような感じだ。魔力の動かし方が分からない。


 ソウカは魔法を使えたらしいが、今は俺が中に入っている。もしやそのせいでうまく行かないのでは…とも思ったが、本によると魔力は体に宿っている物らしい。


 なので単純に俺の経験不足のせいだろう。


 その後も体に力を入れて魔力を動かそうとするが、結果は変わらず。


 なので一旦魔法の練習は置いておく。というかそもそも犯人を見つけたら俺は処刑される身。今更魔法の練習なんて意味のないことだろう。


 だがやはり魔法への憧れはある。人間になって魔法や剣術を使う。


 そう考えるとやはりまたここから逃げ出したくなってしまう。勿論ミネラへの罪悪感はある。でもそれすらも無視して、自分の事だけを優先したくなってしまう。


 いやそんな事は駄目か。許されないな。


 そう自分に今一度叩き込み、ミネラの作業が終わるまで小説を読む事にした。


 ―――

 

 結局翌日までミネラは忙しかったので、森に行く事が出来たのは、魔法の練習をしてみてから二日後の事だった。


 ちなみに、グランドに書いた手紙だが、二日もあれば届くそうなので、今頃グランドは手紙を読んでいるのではないだろうか。


 森に行くといっても正直に森の奥の開けた場所に行きたいと言える訳も無く。森の湖畔に行きたい。を理由にした。


 どちらもオーベルの森の中にある訳だし、森にさえ着けばまあ何とかなるだろう。


 お馴染みの犬車で出発。道中は街の様に綺麗に整備された道ではなく、森を雑に切り開いて、なんとか道を作ったような感じなので、石や太い木の棒を車が踏むたびにガタガタと揺れる。


 そうなる予感があったので事前に歩いて行こうとミネラに提案したのだが、湖畔までは相当遠いらしいので、仕方なく犬車で。


 森の湖畔。付近に建てられた小屋に着く頃には、俺は軽く吐き気を催していた。


 車から降りる足がふらつく。


 ふらつく体をミネラが支えてくれる。

「大丈夫ですか?」


 「ああ…うん。ごめん。ありがとう。」


 支えられながら湖へ。


 水面に反射する、夕日と辺りの木々。中々綺麗な風景だ。


今まで見た景色の中で四位くらいだ。


 何か手掛かりをと思って来た森だが情け無い事に、酔って動けなくなってしまったので、付近の小屋で少し休む事に。


 小屋は外観も中身をごく一般的な、木造建築の小屋だった。


 その辺の椅子に腰掛けているとミネラが持って来た水筒から水をコップに淹れてくれた。


 「どうぞ。」


「ごめん。ありがとう。」


一気に飲み干す。冷たい水だったので少し喉がスッキリとした。


 時刻は夕方。のんびりはしていられない。そろそろ行かなくては。


 湖畔の散歩を口実にしている手前、ぐるりと湖を歩く事にする。


 道中、ミネラが呟くように言った。


「そういえば、ソウカ様が見つかったの。オーベルの森でしたね。」


 俺から見えるミネラの横顔は笑顔のような優しげな顔ではあるが、少し憂いを帯びた。そんな目をしていた。


 俺はそれにどう答えればいいのだろう。


俺の言葉を待つ前にミネラは続けて言葉を繋がる。


 「今のソウカ様は。何か嫌な事…ありませんか?」

 

その言葉に『無いよ』と答えられる気がしない。もう話してしまうか?ここで、全てを話してしまうか?


 全てを話したらどうなるだろう。ソウカが死んでいる事実を知り、ミネラは悲しむだろう。いやそれよりも目の前の俺に、見た事もない様な顔と聞いた事も無い声で俺を罵るかもしれない。


 ……嫌だな。それに犯人も見つからないだろう。


 何より、俺は死刑。俺のしたかった事は何一つ叶わないだろう。……いや俺の事はどうでもいいか。


 今『無いよ』と答えたらどうなるだろう。


少なくとも今はミネラは笑顔になるし、犯人も見つかりやすくなるだろう。それに……


 そうだ。今では無く。最終的にどちらがミネラを悲しませてしまうかで考えよう。断然、ソウカを殺した犯人が分からない方が悲しむだろう。


 そうだ。だから今話すべきではないんだ。


しばらくの沈黙の後、それを破ったのは俺だった。


 「嫌な事は無いよ。」

「それは良かったです。」


 ミネラはニコリと笑った。


 ―――

 

 その後、ミネラの付き添いで森の中に入る事が出来た。

が、開けた場所は見つける事が出来ず、周辺に何かを見つかることも出来ず。


 収穫無しで屋敷に帰る事になった。


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