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スライム 人間になる  作者: 浅川 大輝
屋敷生活編
16/50

そういうやる気

 部屋に入って来たミネラは青ざめた顔で息を荒くしている。しかしミネラの部屋は隣。疲れた訳ではなく焦っているから息が荒いのだろう。


 「また行っちゃうんですか。」

涙ながらにソウカに問いかける。

 以前スライムは何故ミネラが泣いていたのか。いやそもそも涙とは何かを知らなかった。スライム達には涙を流す機能はないし、誰かが泣いているところを見た事も無い。それに何かがあり、涙を流す。その何かの感情をスライムが知らなかった。


 しかし今は違う。スライムは屋敷に来て五日と少ない日数ではあるが屋敷の人間と関わり、人間の書いた小説を読み。

 何より人間の体を得た事により人間とは何かを理解して来ていた。


 故に何故今ミネラが泣いているのかもスライムは理解していた。だが理解はすれどそれに答える事は出来なかった。


 その言葉が自分では無くソウカに向けられたものだったからだ。


 「いや…」

これ以上先の言葉が出て来ない。それらは全て無責任な言葉になってしまうから。


 何か言い逃れの言葉を探すが、両手は窓の外。背中にはパンパンに詰められたバッグ。無理だ。この状況誰がどう見ても旅立ち一歩手前だ。


 「なんでですか。なんで私にはいつも何も言ってくれないの?」


 ミネラから出たのは言葉というよりも叫びと言った方が正しい様な。ただただ悔しさと申し訳なさの籠った声だった。


 「…ごめん」

まただ。また胸が痛い。


 「謝って欲しいわけじゃないの。むしろ謝りたいのはこっち。ごめんね。何も出来なくて。」


 ……。

「違う。出て行こうとした訳じゃない。」

 気づけばそう声に出していた。


 「…ほんと?」

「本当。窓を開けていたのは外の空気が吸いたくなったから。バッグに物を入れたのはどれくらい入るか確かめたかったから。バッグを背負ったのは物を入れたバッグは背負いたくなるでしょ。」


 苦しすぎる言い訳だ。でもそうするしかなかった。一刻も早くミネラから涙を取り除きたかった。でないと自身が胸の痛みに耐えられそうもないから。だから嘘をついた。


 「ねぇ。」

ミネラの暗い声。思わず体が強張る。


 「全部を話して欲しい訳じゃないの。でも吐き出したい事があるならなんでも言って。ちゃんと聞くから。」


 それに対してただ頷いた。うんとも分かったとも無理だとも言わない。俺から出るのはソウカの言葉ではないから。


 程なくしてミネラは俺がバッグをしまい、窓を閉めたのを確認した後「おやすみ」と言って部屋から出ていった。


 ミネラは窓を開けた瞬間に部屋に飛び込んできた。そういえばいつも寝る前はミネラが部屋にやってくる。


 あれはソウカがまた出て行っていないかを確認しているのだと思っていたが、それとは別にソウカが以前も、屋敷から抜け出した時も窓からだったのかもしれない。


――


 その夜は中々寝付けなかった。


 原因の一つとして、ザディをほったらかしにしてしまっているから。もう一つはミネラにまた嘘をついてしまったから。


 何故俺がミネラの笑顔を見る度に胸が痛くなったのか。

それは屋敷に来てから今まで。ずっとミネラを騙し続けているからなのではと考え始めた。


 最初はまさか魔物の自分に限ってそんな他人を騙す事で罪を感じるとはと思ったがそれ以外には理由が見当たらない。


 ザディはこれ以上ソウカのままでいて、それがバレたら死刑ではすまないと言っていた。それは俺も理解している。


 しかしもう限界なんじゃないだろうか。多分あと少しくらいはこの記憶喪失設定もバレない。屋敷の人間はあの日何があったか知らないからだ。


 でも俺の最近芽生えたであろう良心とやらが限界だ。

もうこれ以上痛いのは無理だ。かと言ってバラしたら死刑。

逃げ出す事も不可能。


 もはや死刑は免れない。こんなはずじゃ無かったんだけどな。俺が夢見た人間生活は。もっとキラキラしたもんかと思っていた。…いや最初はキラキラしてたか。


 今日の朝。いや何か変だと思ったのは一昨日の寝る前くらいか。それまではミネラを見てもなんともなかった。ただ優しい人だなとしか思わなかった。


 なんで人間の心なんて芽生えちゃったかな。これも俺の能力なのだろうか。


 なんにせよ明日、全てを話そう。そして謝ろう。それで死刑になってもしょうがない。だって俺が悪い事をしたんだから。


………。

…………。



 いや待てよ。確かに俺も悪い事をした。しかし俺は一番悪いのか?


 俺はソウカに成り変わり、記憶喪失の皮を被った。そのせいでミネラはソウカが死んだ事を知らずに、記憶喪失さえ治ればまた日常に戻れると思った。そう騙してしまった事に俺は罪を感じて申し訳ないと思っている。そしてそれを悪い事だったと思っている。


 しかし一番悪いとは思っていない。だってそもそもあそこでソウカに成り代われたのは何故だ?あそこにソウカの死体があったからだ。


 じゃあ一番悪いのはソウカを殺した奴じゃねぇか。


そう考えたら沸々と怒りが湧いてきた。何故俺だけが不幸な目に会わなければいけないのかと。


 決めた。絶対に犯人を見つけ出してそいつの首根っこ掴んで二人でミネラの所に行こう。そこで全部話して謝ろう。

 

 俺の中でそういうやる気が湧いてきた。


 あと心の中でザディに感謝と謝罪をしておいた。


 

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