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スライム 人間になる  作者: 浅川 大輝
屋敷生活編
14/50

再会

 翌日の朝、調査隊の了承を得てようやく図書館に行ける事になったのだが。


 少々問題が出て来た。今日は朝から様子が変なのだ。


 別に体のどこかを怪我しただとか、風邪をひいただとかそういうのではなく、今まで感じたことのないような気分に犯されている。


 「今日は何時頃に出発したいとかありますか?」

今だって様子がおかしい。具体的にどうおかしいのか。自分でも言語化が難しいのだがしいて言うならば、胸が痛む様な。


 「あの、なんだか顔色悪いですけど…大丈夫ですか?」

心配そうな顔をしたミネラがこちらを見てようやく、話しかけられていた事に気づく。一度考え込んだら周りが見えない。悪い癖だ。


 「大丈夫。なんの話だっけ。」


 「今日何時に図書館に行きたいとかありますか?って話です。」


 体の様子は変だが別に具合が悪い訳ではない。


「お…私はいつでも大丈夫。」

「分かりました。では犬車の準備をして来ますね。」


  笑顔でミネラは部屋から出ていった。


扉が閉まる。その瞬間、スッと胸の痛みは消え失せた。

胸が痛むといえば、ソウカの体には胸に傷がある。だからそれが関係しているかもと思ったのだが、どうやら違ったみたいだ。


 そういえば、今日の朝ミネラが部屋に俺を起こしに来た時も胸は痛んだし、朝食の時も同様に痛かった。


 だがその痛みはミネラがいなくなった瞬間……


 そこまで考えたが、ミネラと胸の痛みの関連性が分からない。


 となるとやはり俺のこの能力が関係していると考えるべきか。いつか魔法の練習の時にでも能力は調べればいいと思っていたが、そうは言っていられないな。


  それからしばしの時が過ぎ、犬車の準備が出来たとミネラが伝えに来た。いよいよ出発だ。


 ちなみにこの時も胸は痛かった。


 屋敷を出て裏庭に。そこには犬車を引く犬達の小屋が建っていた。ちらりと小屋の中を除くと、中は以前泊まった宿舎の部屋くらいの広さだった。金持ちとの格差を感じた。


 一般人は金持ちの犬小屋程度の部屋にしか泊まれないのだ。悲しいね。


 犬達を屋敷の表門に連れて行くと、そこには見覚えのある顔がいた。以前も犬車を引いてくれた男だ。


 男は手際良く慣れた手つきで紐を使い、犬と車をくっつける。車の前には男が乗り、俺たちは車の中に。


 「それじゃあよろしくお願いします。」

ミネラの言葉に男は無言で頷き、ピシャリという音がした後犬車は勢いよく走り始めた。


 この車。四角い箱の様な形状になっていて天井には光を取り込める様に穴が空いているのだが、横には空いていない為外の景色は見れない様になっている。


 「今日はどんな本を買うとか決めているの?」

それゆえ、車の中で楽しく時間を潰す方法は喋る事しかない。


 「どんな本があるか分からないから。でも魔法の本とかあれば欲しい。」


 「え!魔法ですか?」


珍しく大きな声でミネラは反応をあげた。

何か変な事を言ってしまったかな。


 「…うん。」

 少し声が小さくなってしまう。


 「そうですか。そうですか。これも記憶喪失の影響ですかね。」


 マズイ。記憶喪失設定とはいえ、生前のソウカとは違いすぎた発言だったか。下手を打たないようにしていたのだが。

「変かな。」


 「いえ。変じゃないですよ。ただそうなんだ〜て感じで。」


 「そう。」

どういう感じなんだろう。


 「ソウカ様は覚えてないでしょうけど、昔ソウカ様は魔法の勉強をしていたんですよ。でも途中で飽きて辞めちゃって。」


 「そうなんだ。」

 ソウカが魔法を。一応覚えておこう。あれ?でも屋敷には魔法関連の本は無かった。ソウカは誰かに習ったのだろうか。


ミネラとそんな会話をしている時、不意に背筋に嫌な感じがした。誰かに見られている様な。尾けられているような。


 しかし、すばやく走る犬車。これに追いつける訳はないと思い直す。


 そんなこんなで他にも色々話していると、犬車が止まり、少しして前方から男が着きました。と言う。屋敷から離れた丘にあるという事で、かなり時間はかかると思っていたが犬車のおかげで大分早くつく事が出来た。流石獣族。


 感謝を込めて頭を撫でようと思ったが犬がデカすぎて手が届かなかったので代わりに体を撫でておいた。


 俺が撫でると甘い声をして鳴き声をあげた。デカいが中々可愛い奴だ。


 犬はデカいので、邪魔にならないように図書館から離れた所に待機させておいて、いざ突入。


 中に入ると目の前には圧巻の光景が広がっていた。


 辺り一面本しかない。屋敷にあるどの本棚よりも大きい本棚が何百という数が、規律よく整われている。


 が、そんな光景に見惚れていたのは俺だけだったようで、ミネラは何も無かったかの様に、行きましょうかと声をかけて来た。


 金持ちの屋敷で働いているからか、人間にとっては図書館なんて行き慣れた場所だからか。どちらにせよ俺だけがはしゃいでいると馬鹿みたいだ。


 「魔法関連の本が欲しいんでしたよね。」


「うん。」


と、返すとミネラが人差し指を自身の顔の前に立てて


「図書館では大きな声はダメなんですよ。」


 なるほど気を付けよう。


 こっちです。とミネラがいうのでそれに着いていく。俺としては他の所もみたいのだが、まあ後でも良いか。


 「ここですね。ここにある本は全て魔法に関係しています。」


 「分かった。」


小声で返す。ミネラに案内された所には数百冊以上の本が並べてあった。魔法ってこんなに種類があるものなのか。


 魔法の歴史。偉人達。古代魔法戦争。魔法基礎。今から魔法を始めるのなら! 初級の書 中級の書 上級の書 


 などなどがあったが俺が見るべきは多分魔法基礎かな。


 「ソウカ様。」


 本に手を掛けた所でミネラの耳打ち。


 「ソウカ様、記憶はないですけど魔法もすっかり全部使えない感じなんですか?」


 マズイ。なんて答えよう。もし記憶喪失でも魔法を一度覚えた者なら使えるのだとしたら。ここで使えないよと答えたら不信感を抱かせてしまう。ならば。


 「初心に帰ろうと思ってね。」

「そういうもんですか。」


 この反応は大丈夫か?大丈夫なのか?


魔法基礎の本をパラパラとめくってみる。流石魔法基礎と名乗るだけはあってとても説明が分かりやすい。これを買う事にした。


 他にも何かないかと本を探そうと思ったその時。本棚を挟んだ正面からまた視線を感じる。


 いる。さっきから見ていた奴が。恐る恐る視線の奴のいる所に向かう。本棚の角を曲がり、そこにいたのは。


 フードを被った少年。だが俺はすぐにそれが誰だか分かった。分からないはずがない。この少年は俺の人生の恩人でもあり、憧れの人。


 そこにいたのはフードを深く被ったザディだった。

 



 



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