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スライム 人間になる  作者: 浅川 大輝
屋敷生活編
13/50

番外編後半 別れ

 スライムと旅を始めた。最初はお互い夢を叶える為。中途半端にやって慢心しない為。厳しい旅にして行こうと思っていた。


 ただどうにもスライムといるとそういう厳しい空気にならない。

 もちろんお互いきちんと努力している。だが不思議とスライムとの旅の途中。一回もキツイ、厳しい雰囲気にならなかった。


 きっとスライムの気の良さそうな感じがそうさせるのだろう。


 それを受けて俺はこの旅を厳しい物ではなく。基本は楽しく。しかしやる時はキチンと徹底的に努力する旅にした。メリハリをつけるようにしたのだ。


 それからの旅はとても楽しかった。決して一人の時がつまらなかった訳ではない。あっちもあっちで新鮮な事ばかりで楽しかった。


 二人で色々な街に行って、そこで他では経験出来ないような事をして。


 そういう旅に切り替えてから、鍛錬の方も調子がよくなって来た。


 もう一度言おう。本当にスライムとの旅は楽しかった。


 でもそんな楽しい旅も終わりが来た。まあ、スライムの目標を叶える時、と期限を決めていたので終わりがくるのは当たり前だ。


 魔物に追われ、ふと入った森でスライムは運命の出会い、一生を変えるとも言える出会いを果たしたのだ。死体と。


 スライムは変な能力を持っているようで、その能力の実験の為、死体があったらその能力を試してみようと前に話していた。


 スライムが人間の死体に入ろうとする。徐々にスライムの体が、染みる様に体に入っていく。

 

 結果は成功だった。スライムは人間になった。夢を叶えた。


死体がここにあったのは、きっとスライムの日々の努力が身を結んだからだ。日々の努力が報われる為、死体とスライムを天が引き合わせたんだ。


 スライムにお祝いの気持ちをこめて拳を突き出す。

スライムは、?みたいな顔をしていた。そういや手があるなんて初めてだもんな。


 最後にスライムと話をする為にお互い座った。


 話すと言っても長々と喋るつもりもない。

まずは最初に会った時とその時言った言葉を覚えているかと聞くとスライムはコクンと頷いてくれた。


 良かった。忘れられていたらかなりショックを受ける所だった。覚えているのなら、この後俺が言う言葉も薄々は分かっているだろう。


 「スライム。お別れだ。」


 そういうとスライムは悲しそうな顔をしてくれた。


その顔を見て、スライムも旅を楽しんでくれたんだと嬉しくなる。

 

 「今度は俺が夢を叶える番だ。」


 もうこれ以上話す事は無いだろう。


 心配事はかなりある。これから人間としてやっていけるのか。きちんと人間社会に溶け込めるのか。


 でも夢を叶えたいスライムに、夢を叶えてない俺が言うのもな。


 最後は無言で去る事にした。じゃあなとも、手を振る訳でもなく無言で。


 来た道とは別の道を行く。これからどこに行こうか。


 後ろから聞こえた音で思わず、森へと進む俺の足は止められた。


 後ろに目がある訳ではない。だからそれが本当に合っているか分からない。


 でも多分その時スライムは泣いていたと思う。


 鼻を啜る音がしたし。


 そんな音をたてないで欲しい。思わず振り向きたくなるじゃないか。振り向いてお前の所に行きたくなるじゃないか。


 でも今の俺じゃお前とは一緒に旅をする事は出来ないんだよ。


 だから俺が夢を叶えたその時。また会おう。


―――――――

 

 俺達が入った森は想像以上に長かった。何も考えず歩く森の中。ふと足を止めると、スライムは大丈夫だろうかと考えてしまう。


 しばらく、森を歩いていると後ろから声を掛けられた。


「ちょっといいか?」


 カタコトの魔物語を喋る人間だ。


「俺は人間語でいけるよ」


と、人間語で返す。


「そうか。一つ聞きたい事がある。この辺りでとても強い魔物か人間を見なかったか?」


 何かあったのだろうか。


「いや、見てないよ。何でそんな事を聞くんだ。」


 「そこの街の領主の娘が記憶喪失になってしまってな。状況から見て何者かに襲われたのではないかと思ってな。何か知らないか?」


ジロジロと俺の目を見てくる。


「いや、何も知らないな。力になれずすまない。」


「そうか。では失礼する。」


記憶喪失。領主の娘。スライム。あそこにあった死体。


 それらを組み合わせると嫌な考えが浮かぶ。


 あそこにあった死体が領主の娘の物だったとして、それを知らずにスライムが街に降りる。


 ……まさかな。

……


 心配だ。俺の考えは外れてくれているといいが。






 長かった森の中。いよいよ脱出!という所で、とんでも無い気配を前方から感じて思わず木の影にダッシュで隠れる。


 前半からは魔物の大群。だがそれは雑魚の群れではない。


一体一体が中〜上級クラスの魔物達。だがおかしな事に、ほとんどの魔物達はそれぞれの種族が違う。


 普通、違う種族の魔物とは群れを成さない。何か様子が変だ。よく、全体を見ると全員目に光が無い。動きにも力が無い感じだ。まるで人形が動いている様な。


  関わる必要のない事。しかしその大群が向かう先にあるものはオーベルの街。もしかしたらそこに向かう気なのか。


 だがもうスライムと会わないと決めている。先程の一件が引っ掛かるが俺が気にする事じゃない。うん。


 そうして森を出ようとしたその時だった。


 頭がおかしくなった。急に頭の中がそれに埋められた。


森から出てはいけない。森にいなくてはいけない。このまま戻らなければいけない。ナイフを拾いにいかなくてはいけない。街に行かなくてはいけない。


 意識が遠のいて行く感じだ。 洗脳?そうかあの魔物達は操られていたんだ。


 俺はその集団と一緒に歩いていた。意識はある。でも体がいう事を効かない。というより俺が体の中に入っていない。

自分を頭上から見守っている感じだ。


 やがて俺達はあの開けた場所に帰って来た。それから街に降りて行く。中央広場でしばらく止まった後、グルグルと街を回る。何かを壊すでも、騒ぎながら歩くでもなく。


 ただ無言で歩く。まだ体に戻れない。


誰かが通報した様で、街の騎士団が俺たち目掛けて走ってくる。そこでようやく体に戻れた。他の魔物達も続々と戻れた様で、自分らを捕まえようとする騎士団に抵抗する。


 その混乱に乗じて俺は逃げた。


 洗脳。それもこれ程大規模かつ協力な…恐らく魔法を扱える者がいる。


 何も考えずこの様な事をするとも思えない。何かこの街に危険な事が迫っている。


 もしこの街にスライムがいるのなら、記憶喪失の一件も含めて伝えてなければ。


 


 

 

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