岬の塔
かあさんは、岬に行ってはいけない、と言った。
岬には、塔がある。
それは、悪しき者たちの棲み処。
ぼくらは、それでも塔の見える所までいく。
濃い霧の向こうに、大きく長い影がある。
霧がうすらいで
太陽の光がさすと、
きらり。
一つの尖塔……
二つの尖塔……
土台だけに なってしまったもの、
くずれて がれきになったもの、
霧のベールの向こうには、
いくつも いくつも 塔がある。
大人たちは、言う。
昔、大気は 薄かった。
昔、太陽は 輝いていた。
あいつらが、
弱く、かよわい生物が
地に 満ちた、
その日から
何かが おかしくなってしまった。
我々は、土地を追われた。
友は殺され、飢えて死んだ。
やつらだけが、
空にも大地にも 増えつづけた。
その時が やってきた。
我々には、何が起こったか、わからない。
閃光。突風。
しかし、『その時』から、長い冬が続いた。
やつらは、岬の〝塔〟に乗って
彼方へと 飛び立っていった。
残った連中は、みな死に絶えた。
長く降りつづいた雪が やんだ。
帰ってきたものは、いない。
大気は 重く、
濃い霧が、晴れることはない。
大地は こごえ、
海は 眠っている。
でも、ぼくらは 春のきざしを知っている。
凍った空気の中で 動くものを。
やがて、
大地は、萌え出すだろう。
海は、生命を生み出すだろう。
風は、霧を追い払うだろう。
そこで、何が始まるか、
ぼくらは 知らない。
けれども、
空の彼方から
彼らが もどってきたとき、
どうやって むかえようか。
ぼくらの時代――
終