私達は抗議します
私の名前は佐脇覧子。
新進気鋭のホラー小説家である。
最近ようやく執筆した小説が売れるようになり、生活も安定して来た。
私のホラーは私自身が登場するという変わった感じのものなので、賛否両論がある。
しかし、人気は次第に上昇し、常に上位にランクインする程になっていた。
ところが、である。
どういう訳か、ファンレターに混じって抗議文が送られて来た。
何かまずい事書いたかな、と思いながら、封を切った。
便箋にビッシリと細かい字で書かれていたのは、私の小説に登場する人物への怒りの声だった。
まずは在日外国人の方。アメリカ国籍のようだ。
リッキー・テックスさん。
私はこの人と同じ名前で連続殺人鬼を登場させ、たくさん人を殺させた。
彼は英語の講師をしているらしく、生徒の父兄から、
「辞めさせてくれ」
とたくさん要望書が勤務先である駅前留学の英会話教室に来ていると言う。
確かに由々しき問題だが、それと私の小説と結びつけるのはどうだろう?
どちらかと言うと、そんな事で辞めさせようとする父兄の側に問題があると思うのだが。
そして次に書かれていたのは、御徒町のアメ横の方々の連名。
私は御徒町樹里という悪逆非道な殺し屋を登場させ、対立するヤクザを次々に殺させた。
御徒町という町のイメージも悪くなるし、御徒町がヤクザの町というイメージが付くのでそういう話はやめて欲しいという抗議だ。
しかしこれも的を射ていない。
樹里は御徒町のためにヤクザと戦っているのだ。彼女は御徒町が大好きなのだ。
だから御徒町樹里と名乗っているのだ。
私だって、決して御徒町を蔑むために書いている訳ではない。
酷い誤解である。
そしてもう1つ。
これは少し困った。
お笑い芸人であるハリ○ンボンからの抗議だ。
霊感少女というホラー小説に登場する箕輪まどかが、ハリセ○ボンの箕輪は○かのマネだというのである。
そんなつもりはないのだが、ネタとして名前の似ている事をギャグにしているので訴えられたらまずい。
私は対策に困り、編集者に相談した。
すると編集者は溜息を吐いてこう言った。
「先生、この話自体が危ないですよ。訴えられても知らないですからね」