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事務屋の竜退治  作者: 安達ちなお
1章 事務屋の竜退治

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鬼殺しと図書館③

「次はタンヤさんのところに行きます。もしよければ、そちらへも一緒に行きませんか?」


 彼女とは可能な限り情報を共有しておきたいので、一緒に行動したいというのが本音だが、強くは言わない。彼女の意思を尊重することを忘れれば、まだごくわずかしかない信用を、たちまちに失うだろう。

 そんな気遣いが奏功したのか、ジョセフィーヌは朗らかに言った。


「おじい様のところなら、大歓迎よ。私、あそこは大好きですの。それに、あなたの働きに不満があれば放逐しろと言ったのは、あなた自身でしょう? 監視するためにも、当然ついて行きますわ。で、何をしに行くんですの?」


 言葉は挑発的だが、その表情はどこか楽しそうだ。ジョセフィーヌと私は、肩を並べて歩きだした。


「ロンギヌス氏の店から、資材が運び込まれているはずです。一度は、様子を見ておこうかと。それと、手伝いの人員を手配したので、そちらも監督しておきたいですね」

「あら、それじゃあもう竜装備が見られるのかしら。楽しみね」

「そうですね、大盾の一つくらいは出来ていると良いんですが……」


 何せ、五日で竜を討伐すると、オーギュストが議会で約束してしまったのだ。一刻も早く準備を終えねばならない。正午を過ぎて人通りが減り始めた通りを歩いていると、相変わらずジョセフィーヌが市民らから声をかけられている。彼女は本当に人気者だ。それらを何とかあしらいながら、タンヤの工房に到着した。


 小さい工房の前には、竜素材を取り付ける前の大盾が十ほど積まれていた。恐らくロンギヌスの店で加工が終わった分が、順次運ばれているのだろう。


「おじい様、いる?」


 ジョセフィーヌが返事を待たずに中へ入ると、竜鱗を弄っていたタンヤが、ぎょろりと目を剥いて吠えた。


「おぉう、嬢ちゃん。今ぁ、大事なところなんだ。気を散らさんでくれよ」


 そう言った後、息を止めると、竜牙を削って作った小刀で竜鱗を切っていく。無駄に大きな穴をあけてしまっては防具としての様を成さないため、大盾に取り付けるための加工には、細心の注意を要する。


 ジョセフィーヌと二人でタンヤを見守る形になった。

 竜牙で穴を開けると、ひも状に加工した竜鱗を通して革と組み合わせ、大盾に取り付けていく。

 十枚の竜鱗を使って一つの大盾を隙間なく覆うと、タンヤは大きく息を吐いた。


「もういいぞぉ。ようやく二つ目、出来上がったわ」


 タンヤが自慢げに掲げる大盾は、竜鱗が赤く輝いていて、実に美しい。

 竜鱗はしっかりと取り付けられているし、大盾自体にも耐火魔法が付与されている。長辺1パスス(約1.5メートル)で短辺はその半分ほどの長方形だ。正面からの攻撃を受け流すために、面がわずかに湾曲している。

 これならば、大丈夫だろう。


「素晴らしいですね、タンヤさん。この質ならば充分です。うん、本当に素晴らしい」


 文句のつけようのない出来だ。素直に心の中身が漏れ出る。

 タンヤは、私の頭をくしゃくしゃと撫でながらニッっと笑った。


「当たり前だぁ。生まれてこの方49年間、ずうっと槌振りをやってる俺が、鍛冶屋の誇りを懸けてんだからなぁ」

「それにしても、一品ものではなく量産品として、この質を実現できるとは、正直信じられません」


「へっ。随分と誉めるねえ、嬉しいねえ。お前さんが寄越した手伝いも、頑張ってくれてんぞ。おぉい、お前の主人が来てっぞ。顔出せやぁ」


 タンヤが大声を出すと、工房の奥からガッラが現れた。

 途端にジョセフィーヌの眉が跳ね上がる。


「何であの男がここにいるんですの? それに、私の記憶が確かなら、腕が一本多いみたい」


 ジョセフィーヌが切り落としたガッラの右腕は、確かにつながっている。


「うるせえぞ、鬼殺し! シム様の前だから大人しくしてるが、お前に腕を斬られた恨みは忘れてねえからな!」


 ガッラが歯を剥くと、ジョセフィーヌはますます困惑したように私を見る。


「一体どういうことですの? 昨日までとは別人みたい。あなた、この男に悪いまじないでも使ったの?」

「シム様に失礼なこと言うんじゃねえ! この方はなぁ、俺なんかのために……俺の腕のために大金をはたいてくださったんだ。神殿で切れた腕を直してもらうのに、どれだけの寄付が必要か分かるか? 千や二千じゃ……」


 ガッラが必要以上に能弁になりそうだったので、私は人差し指をまっすぐに立てて唇に当てた。するとガッラは、はっとしたように口をつぐんで私に頭を下げた。


「何てことは無い話ですよ、クインさん。彼は腕の治療のために神殿を訪れたのですが、お金が足りなかったので、資金を作るために自分自身を奴隷として売りました。そして私が購入しただけの話です。ロンギヌス氏の店は辞めることになりましたが、せっかく鍛冶屋の知識と経験があるのですから、人手の無いタンヤさんの手伝いをしてもらっているのです」


 ガッラの腕の治療には、一万セステルティウスの寄進が必要だった。そこでガッラは、自身を奴隷として売り出して資金を作ろうとしたのだ。だが片腕の男など、値が付いたとしても、せいぜい五百セステルティウス程度だろう。


 すぐに途方に暮れることになった。

 そこで私が彼を一万セステルティウスで購入することで、治療を受けることが出来たというわけだ。


 私としても、そう悪い計算ではない。余計な禍根を残すことはなくなり、ロンギヌスの店とつながりのある鍛冶師の奴隷が手に入るのだ。

 それに、激情家ではあるものの、元来ガッラは単純で純朴な性格だ。一度懐に飛び込んでしまえれば、信頼関係を築くことが出来ると考えた。現に強い恩義を感じ、私に忠誠を誓っている。

 総合的に見ると、資金さえあれば、十分に利がある選択だ。


「ふうん? 自分ではただの下級官吏だと言っていた割に、随分とお金持ちなんですのねえ? シム・ローク徴税官殿?」


 ジョセフィーヌが猜疑の眼差しでこちらを見るが、無視した。

 元老院議員となるには最低でも百万セステルティウスの資産が必要なのだ。さすがの私でも、この程度なら即決で支出できる。


 けれど私は、決して悪徳成金と言うわけではない。ロムレス王国を探せば、私より遥かに荒稼ぎしている者はたくさんいる。


「まあ、過ぎた話はどうでもいいでしょう。ところでタンヤさん、問題はありませんか? 人手が必要ならもっと手配しますが」

「ああ、大丈夫だぁ。ロンギヌスんとこのわけえ奴が荷を届けるたびに、少しずつ手伝わせてる。いざとなりゃ、近所の奴らにも手伝って貰うさ。このガッラってのも覚えがいい。やり方を教えてやれば、すぐに出来るようになる。すっかり助かってるよ」


 タンヤが誉めると、ガッラは鼻をこすって喜んでいる。

 子どものように無邪気だ。


「二人合わせて、一日に二十個作れば、三日かからずに終わるってもんさ。その後に矢と槍を山ほど作ってやるさ。ただなあ……」

「ただ?」


「竜の素材が無い。ロンギヌスんとこの若造が言うには、トナリ市中の素材を集めても、竜鱗が二百に竜牙が百ってところらしい」

「足りませんね」


「ぜんぜん足らん。この調子で作っとったら、すぐに無くなる」

「……分かりました。そちらは私が何とかしますので、タンヤさんたちは今ある素材でできる限り作業を進めてください」


 竜素材は、数は少なく入手は困難である。分かっていたことだ。そして、対策も考えていた。

 竜素材は、何としても手に入れる必要がある。これが無くては竜と戦う軍隊を用意することは出来ない。

 これは若干の悪事に手を染める必要がありそうだ。

 空を見れば、日が暮れようとしていた。

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