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prologue*
その日、ついに私は
『退職届』を出した。
踏ん切りがつかなかったのだ。
今の今まで
温室育ちの温いビニールハウスで
過ごしてきた。
おかげ様で
誰の目にも付かず
甘く、熟れすぎた故に
残された道は
地に落ち、
腐敗に朽ち果てるのみ。
…我ながら
うまく例えた。
しかし、皮肉なもので
例えのその通り
出荷…もとい出世の為に
摘み取られる事もされず
誰にも気付かれずに
気付けば10年も無駄に
この仕事を続けていた。
踏ん切りがつかなかったのは
惰性的だったとはいえ
ある程度長く
そして事、真面目に
勤め上げた故の
プライドからくる悔しさも
勿論あったのだ。
現実問題、
この会社の異常を
察知した賢い者達が
次々と周りが辞めて行き、
慢性的な人手不足の環境に
長年置かれていて
辞表提出するのにも
大変な勇気が要ったのだ。
だが
勘違いをしていたのは
私の方だった。
人手不足だからこそ
必要とされていただけだった。
《継続は力》だの、
《真面目は正義》と
信じて止まなかったが
ーーまさに過剰な自意識であり
『過ち』であったのだ。
異常さには
気付いていなかった
訳では無い。
仕事の出来る先輩たち程
会社から
居なくなっていたのだから。
気付かないふりを
していたのだか
…今更何を言っても
遅出しじゃんけんなのだろう。
しかしながら
私はようやく
自らの力で
ここまで来られた。
精神を壊して
身体を壊して
元の自分を捨てなければ
ここまで来られなかった
その無念さはあるが…
自分の人生はまだ
ここから。
私は、まだ
最旬を知らない。
to be continue*