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『電話ボックス』   作者: 葉月 悠人
4/4

#4

鴻上(仮)  喫茶店  




 『・・・これが、私の経験した全てです』



  話を終えた鹿島さんの目には少しばかり涙が浮かんでいた。



 『後日に調べたのですが、娘が事故に遭った日を調べると・・・娘の死亡事故が乗用車数台を巻き込んだ玉突き事故に変わっていました』

 

 

 「昔に起きた事故が『全く別の事故』になっている・・・一体何が?」


 『そこで、『あの電話』が関わってくるんです。ここからは私の憶測ですが・・・・』


 最上寺さんの問いに鹿島さんは深呼吸を挟んでつづけた。



 『おそらく『霊の電話ボックス』の正体は『死んだ人』ではなく『過去の人間』と電話できるものだったのです。公園での電話は『過去の娘』からの電話で私の発言が娘の行動を変えてしまい、その結果として娘は事故に遭う事無く帰宅し、妻が家を出て行く事も無かったんです。それでも、あの日に交差点で事故が起きる事は確定していたらしく、人身事故は玉突き事故へと変っていた』



 「過去改変タイムパラドクスって奴ですか・・・それで?その電話ボックスはどうなったんです?」


 『後日に公園に向かってみると、電話ボックスは無くなっていました。撤去されたのかと思い公園の管理者に問い合わせると『そもそも公園内に電話ボックスは設置していない』と返答されました。チャットで私を批判していた人の言う通り、アレは存在自体が不明な電話ボックスでした。だから私の経験を誰も信じてはくれなかった。あの電話で過去を改編させたのが私だけでしたから・・・』



  「・・・・・そういう、ことだったんですね」 


 ふと、店内の時計が時報を知らせた。時計を見ると16時を回っていた。


 『そろそろ帰らないと・・・こうして貴方達と直接話せて気が楽になりましたよ』



 鹿島さんは席を立ち、出口へと向かおうとする。



 「あ・・・あの・・・一つだけ教えてください!!」


 私はそこで初めて、鹿島さんへと口を開いた。 


 鹿島さんの経験談を聞いている内に私の中である疑問が生まれたからだ。


 私はそれがどうしても知りたくて、鹿島さんを呼び止めた。

 


 『・・・何かな?』


 

 私は回答を濁されるのを覚悟して聞きたかった問いを口にした。




 「鹿島さん、貴方は今・・・・・『幸せ』ですか?」




 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』



 長い沈黙の後、鹿島さんは重たい口を開いた。




 『いいや、『不幸』だよ』


 鹿島さんの問いは、この上なくあっさりとした一言で、私が予想していた回答の斜め上を行く答えだった。


「どうしてですか?過去が変わって家族が帰って来たのに・・・不幸だなんて」



 『娘が助かった代償に、私は重たい『十字架』を背負ったからね』



 「十字架?」


 

 私の代わりに最上寺さんの口にした言葉に鹿島さんは続ける。



 『娘が事故に遭わなかった代わりにあの玉突き事故で多くの死傷者が出た。被害者の家族や遺族に悲しい思いをさせてしまった。事故を起こした人が当然悪いけど・・・遠巻きながらにそう仕向けてしまった私にも罪はある』


 『私は・・・残りの人生を全て贖罪しょくざいの為に費やしていくつもりだ』



 「・・・・・・・・・・・・」



 鹿島さんの言葉に、私はどんな表情をしていたのだろう?


 予想をはるかに超える回答とぞの理由に私は戸惑うばかりだった。




 『・・・それじゃ、今度こそ失礼するよ、支払いは私に任せてほしい』




 鹿島さんはレジで支払いを済ませ今度こそ、行ってしまった。


 

 余談だが。

 

 最上寺さんとは後日にまた会う約束を交わして分かれた。


 彼は学科こそ違えど同じ大学に通っており、今後も付き合いが続きそうだ。 


 ----------

 ----------


 帰宅した私を迎えたのは、沈黙だった。


 家の中は全く灯りが灯っておらず、灯りを点けてもそこに居るべき家族の姿は無い。


 まだ誰も帰っていないのではない、もう誰も帰ってこないのだ。



「失った家族が戻ってきて『幸せ』の筈なのに、無関係な人を巻き込んでしまって『不幸』か、凄い人だよ鹿島さんは・・・・」

 


 私は仏壇の前へと向かい、線香をそなえて手を合わせる。

 

 遺影に映るのは私と10も歳の離れた弟だ。


 「真人まさと、先日話した人、鹿島さんに今日会ってきたよ・・・」



 『数年前』に起こった不幸事でこの世を去った弟に今日の出来事を全て話した。  



 奇妙な電話ボックスの都市伝説を。

 その電話ボックスが起こした奇妙な体験とその結末を。

 その結末が、この孤独と悲哀に満ちた生活の『始まり』だった事を。



 そして・・・彼が幸せの『代償』を、余生全てを使って償う事を。


  

 「あの人は残りの人生を贖罪の為に生きていくって言ってくれた・・・・背負った十字架と向き合うって。だから私は彼をこれ以上恨んだりしないし、今更『幸せ』を取り戻そうなんて思わない。」 

 

 私は荒れ放題の庭先に不自然にそびえる『それ』へと目を向ける。



「だからね、真人・・・貴方からの折角の『贈り物』は使わない。彼が背負う十字架の中に、貴方と私が含まれているから」


「だから・・・『貴方』もそろそろ逝くべき所へ帰りなさい」



 

 私の言葉と共に庭先に立つ『電話ボックス』は陽炎の様に消えた。

  



何故、鴻上さんの庭先に電話ボックスがあったのか?


その謎の答えに辿り着く事は誰にも出来ない。


これを見ている貴方にでさえ・・・・

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