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3.依頼

 

 特大パフェを撃破した私は感動で打ち震えていた。もう依頼なんてどうでも良い。忘れてたけど感動するってこういう事なんだね……。


「ぐすん……美味しい……美味じがっだよおおお、ミトぉ……」


「やだ、ちょっと!みっともないからパフェ食べたくらいで泣かないでよ!ほ、ほら!私の分も食べて良いから!」


 周りのお客さん達が若干引いている気がする。だけど、美味しい物は美味しいのだから仕方ないよね。


「……お、面白い子だね」


「あ、あの。依頼の件の前に、どうしてロアの事を?私はまだ何も……」


 こういう時のミトは本当に頼りになる。

 おかわりを食べるのに忙しい私の代わりに色々聞いちゃえ!


「んー……どうしてかって聞かれると話が長くなるんだけど、端的に言うと僕が君達に依頼したいのは、冒険者になって欲しいって事だよ」


 少年は私とミトを交互に見た後、一枚の紙を取り出した。

 冒険者登録の要項がぎっしり書かれた紙には既に私達二人の簡単な経歴が書かれている。


「へひゃ⁉︎ 」


 思わず変な声が出てしまった。

 気持ち悪い。この少年は一体何を言っているんだろう。


 自慢じゃ無いけれど、私はもう何年も引き篭もって自堕落な生活をして来た。外へ出たのも、今日此処へ来たのだって何年振りの事かというくらいだ。

 世界がどう変わったのかも知らない世間知らずな私に一体何を求めているというの?


 いくら竜人族が人間よりも高い戦闘能力を持っているからと言って、はいそうですかと安請け合いが出来る程、冒険者という職業が簡単で無い事くらい知っている。

 地上から魔物が消えた事件を境に、ダンジョン内の魔物はとんでもなく強力な個体が発生する様になったらしいし、未だに魔物混じりと呼ばれていた人達が消えた原因も正式に発表されていない。

 それに、私の能力の事も知っているのなら、冒険者には全く向かない能力だと分かっている筈だ。

 やっぱりこの少年は何かおかしい。

 要注意!要注意だよ!


「私達が冒険者になる事が依頼?……因みに対価はなんでしょうか?今の仰り様でしたら、登録だけで今回の依頼が完了すると捉えても?」


 おお!ナイスだよ、ミト先生!

 こんなの怖すぎるもん!絶対何かあるに違いないって!

 登録だけで良いなら錆び付いた私の腕でもどうにかなりそう。ちゃちゃっと書類を提出して依頼完了!チョロい!チョロ過ぎるよ少年!!!


「対価?ああ、今回の報酬の事ね。はい、コレ」


 少年はまたまた一枚の紙を取り出した。

 そこには意味不明な桁の金額が書かれている。


「はあああああ⁈ 」


 驚いて立ち上がった衝撃でストロベリークイーンがテーブルに転がり落ちたけど、今はそれどころじゃ無い。


 私の五割くらい当たる鋭い勘が囁いている。

 こんな馬鹿げた報酬額なんて聞いたこと無い。家賃どころかお城が買えちゃいそうな額だ。

 それと問題はこの紙だ。こんなよく分からないそれっぽいだけの紙切れを渡して私を騙そうだなんてけしからん!実にけしからんよこれは!歳上のお姉さんを馬鹿にしちゃいかんよ少年!


 感動もへったくれも無い荒々しい動作で特大パフェを食べ終えた私は、極めて冷静な大人の女性の雰囲気を精一杯に演出してみた。それっぽく見えないかと思って、髪を手ではらう仕草をこっそり練習していた甲斐があった。


 少年の為にもビシッと言ってやろうとして、わざとらしく不機嫌そうな態度を取ってみる事にした。こういうのは勢いとハッタリが大事だって誰かが言ってたしね。


「何コレ?こんな紙切れで報酬を払おうって言うの?いくら私がガラクタばっかり集めてるからって馬鹿にしないで!」


「……」


 お?少年が黙り込んでしまったよ?

 少し大人気無かったかなと思っていると、隣にいたミトが私のスカートを引っ張ってきた。


「ロ、ロア……こ、これ、本物の換金小切手よ」


「漕ぎ手?」


「小切手!これを持って冒険者組合に行けば、ここに書いてあるお金が引き出せるのよ!」


 またまたあ。ミトは冗談が下手だよね。見え見えの演技なんかしちゃってさ。そんな物をこの少年が持ってる訳無いじゃないですかあ……って、あれ?

 そう言えばミトって鑑定士の資格を持ってたよね?という事は?


「いやいやいやいやいや、ミトさんや、そんな訳無いっしょ?ね?」


「何なのよその喋り方……。これは間違い無く本物よ」


 急に恥ずかしくなった私は何事も無かったかの様に座り直した。

 慌ててかき込んだ二杯目のパフェが今にも逆流して来そうだ。


 黙り込んでいた少年はそんな私を見ても表情を崩していなかった。

 澄ました感じで優雅に紅茶を飲んでいるのも何だかむかつく。


(あれ?何で私はこの少年に対して、こんなに対抗しようとしているんだろう?)


 引き篭もっていた私の事を調べていたから?初めはそう思っていた。

 固有能力『ギフト』にしてもそうだ。私はこの能力を百年以上使っていないし、固有能力の名前すらだれにも明かしていない。なのにどうして少年は知っているの?


「報酬額を見て分かったと思うけれど、冒険者になるだけでその額を提示したりしないよ。冒険者になるのはロアの特異能力ギフトを“また使える様になっておいて欲しい” からだよ。最終目的は世界を救う事。引き受けてくれるよね?お金が必要なんでしょう?」


「そ、それは……。でも、世界だなんてそんな急に……ロア、どうする?」


 どうするも何も、世界を救ってくれだなんて漠然と言われても困る。

 私が怠惰な生活を送っている間に世界は以前よりも格段に良くなっている。地上から魔物が消えたというだけでも、普通の人間が暮らして行くには十分だ。能力が使え無くなっている事もミトにも話していないのに……。


「さっきから何馬鹿な事言ってるの?世界は平和そのものじゃない。少年は知らないだろうけど、私の知っている世界はもっと混沌としてた。今更世界を救うだなんてそんな冗談を真に受ける訳ないじゃん。私の事どうやって調べたのか知らないけど、依頼は受けない。だからお金もいらない」


「……そっか、残念だよ。気が変わったらここに連絡してよ。今は大抵そこに居るから。あ、そうだロア。僕の説明が足りないせいで世界を救って欲しいだなんて大仰な言葉になってしまったけれど。依頼を受ければ、まだ君の見た事の無い楽しいを見られるかもね」


 少年はそう言い残して、律儀にも三人分の代金を置いて店を後にした。


(そんなの楽しい訳無いじゃん……)


 これで良い。訳の分からない事に首を突っ込んで面倒ごとになるのは目に見えている。

 世界を救うとか意味不明過ぎ。そんな事必要無いし、私は今の生活でも満足しているのだ。


 だけど、少年が去り際に置いて行った紙を見たミトは反応が違っていた。


「うそお……」


「何そんなに驚いてるの?あんな胡散臭い少年の連絡先なんて捨てちゃいなよ」


 ミトが見せてくれた紙にはこう書かれていた。


『オーガスタ領主 マクスヴェルト』


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