8話 ミスリルの聖剣姫
ファラルナ街内の、某所に建てられた牢にて。
一人の冒険者が、ラルドの店を襲撃したマイングの収監されている牢へと近づいて行った。
「随分なことだな、マイング。まさかお前がここまでやらかすとは」
「テメェ……サフィアか」
マイングがサフィアと呼んだ冒険者は、流れる金髪と美しい碧眼が特徴的な若い女であった。
しかし彼女は全身をミスリルの混じった甲冑で武装し、腰には一振りの【聖剣】を携えており、およそ女だからと言って余人に侮られるような出で立ちではなかった。
「あのS級冒険者、【ミスリルの聖剣姫】が俺に一体、何の用事だ?」
「何、同じ冒険者ギルドの仲間が馬鹿をやって捕まったと聞いたのでな。外の衛兵たちに無理を言って様子を見にきた。……まぁ少しやつれてはいるが、その様子ではしばらくの牢生活も耐えられそうで何よりだ」
ため息交じりのサフィアの言葉に、マイングは舌打ちした。
「……で、本題は? お前さんがわざわざここにきた理由、どうせ俺の心配だけじゃないだろう?」
「ほう、話が早くて助かる。では単刀直入に聞くが……お前は本当にただの【武器職人】に負けたのか?」
サフィアが訝しげに聞く理由にも訳がある。
と言うのも、マイングとて幾度となく死線をくぐり抜けてきた冒険者なのだ。
マイングには竜の下位種であるワイバーンの単騎討伐の他、ダンジョン主の討伐依頼に加わった実績もあり、中身が粗暴といえその実力はギルド内でも折り紙つきだった。
「マイング、お前は言動さえもう少し控えめなら今頃A級になっていてもおかしくない人材だとわたしは思っている。そんなお前が、たかだか街に引きこもっているばかりの【武器職人】に負けるとは考えにくい。今回の事件の非はお前にあったとは言え、何があった」
サフィアは重ねて問いかけるが、マイングが答える素振りはない。
ただ新米冒険者のサポート程度しかできない【武器職人】に敗れたことを恥じ、一切口に出したくないとその様子が語っていた。
「……仕方がない、話したくないならわたし自ら出向こう。一応はギルドのメンツにも関わる問題だ。お前が敗れたと言う【武器職人】に、会ってこようと思う」
そう言ってサフィアが踵を返し、外へ出ようとした手前。
マイングが遂に、押し殺した声音で言った。
「……奴の武器には気をつけろ。ワイバーンのブレスをも超える魔力の塊で、【聖剣】の一種かもしれないぞ」
「ほう。……心得た」
サフィアは振り返らずに答え、今度こそ外へと向かって行った。