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7話 ブラッククロスボウの威力

日間ハイファンタジーランキングに載ってます。

ありがとうございます。

「……ラルド。わたし、戦わなくていいの?」


「チョコ、またどうしたんだ?」


 暇そうに店のカウンターに突っ伏していたチョコが突然、そんなことを言い出した。

 それから舌足らずな口調で、もそもそと言った。


「チョコ、精霊じゃなくてブラッククロスボウ全体の『意識』や『概念』だった頃はずっと誰かと一緒に戦ってたの」


「そりゃまぁ、ブラッククロスボウは武器だしな……」


 ブラッククロスボウは誰でも扱いやすい遠距離攻撃武器として、新米冒険者なら必ず一度は使うとされている武器で、この店での売れ行きもいい。

 ある意味、飛び道具版ブロンズソードとも言える立ち位置でもある。


「もしかして、チョコはこうして店番したりするのは落ち着かないのか?」


 最近は「ラルドの店に可愛い子が二人もバイトに入った」と噂になっているようで、色んな冒険者たちが来てくれるようになった。

 中には新米時代に武器を買っていた冒険者が戻ってきて、チョコを可愛がってから武器や道具を買って行くこともある……のだが。


 チョコは首を傾げながら、少し難しそうな表情で口を開いた。


「……チョコにもよく分かんないの。今の生活はマロンが言うように楽しいし、あったかい。でもこれでいいのかなとも、少しだけ思っちゃう」


「あらあら、これは少し外へ出る必要があるかもしれませんね」


 お茶を持ってきてくれたマロンは、チョコを見て苦笑していた。


「マロン、どういうことだ?」


「ええと、今のチョコは武器として使われてスッキリしたい気分だと思うのです。わたしたち【精霊剣】は武器ですから。鍛えていた人間がずっと寝ていたら体が鈍るではと不安になるのと同様、きっとチョコもこのままでは自分の『武器』としての部分が錆びてしまうのではと、不安になっているのではないでしょうか」


 マロンの言葉を聞いてからチョコを見ると、チョコは「うぅ〜、何となくそんな気がする」といつも通り眠たげな様子で言った。

 実際、マロンの言う通りなのかもしれなかった。


 いくら二人が【精霊剣】として精霊の姿となり人間と同じように生活できているとしても、その本質はきっと武器なのだ。


「そういうことなら、確かに外へ出る必要があるかもな」


 今店の中には、お客さんはいない。

 それに今日引き渡し予定の武器類はなく、明日使う武器素材も午前のうちに商人から受け取ってある。


 となれば、だ。


「よし、午後は休みにして外に行くか。山とかどうだ? チョコが武器として使われたいなら、その辺がいいと思うんだが」


 そう聞くと、マロンは「いいですね!」と微笑み、チョコは「おぉ〜!」と両手をあげた。


「山なら魔物もそこそこいるかもですし、チョコもすっきりするはずです」


「うん。チョコ、久しぶりにすっきりできるー!」


 それから荷物を整え、俺たちは街を出て山へと向かった。

 俺たちの住むファラルナ街は、周囲を円形の高い岩壁で囲まれた城郭都市だ。


 こんなふうになっている理由は当然、魔物の襲来に備えるため。

 奴らは魔物同士で食い合う以外に人も食らう。

 だからこそ主に魔物を狩り、魔物の巣であるダンジョンや遺跡を潰す冒険者という職業が成り立っているのであるが。


「よし、街からもそれなりに離れたしこの辺でいいか。魔物もそのうち出るはずだ」


 俺がそう言うと、チョコは光を纏って矢が装填された状態のブラッククロスボウに変身し、俺の手に収まった。


「大丈夫、チョコが守る」


「それは頼もしいな。今回マロンは精霊の姿のままか?」


 聞くと、マロンは一つ頷いた。


「今回はチョコに譲って差し上げます。けれどチョコ、ご主人さまが付き合ってくれている以上、怪我をさせぬようしっかりと守るのですよ?」


「……武器として、当たり前」


 短くチョコが答えると、マロンはその返事に満足したのか微笑んだ。

 ……と、同時に。


『GRRRRR……!』


「おっ、早速お出ましか」


 魔物の唸り声がして振り向けば、草木の陰から巨大な熊が現れていた。

 体毛と目は血塗られたように赤く、体躯はこちらの三倍ほどもある。


「レッドベアーか。この辺に出る魔物の中だと、そこそこの相手だな」


 ちなみに俺は冒険者ではないので、ダンジョンや遺跡への「冒険」へは行けないものの。

 冒険者を目指していた修行時代に魔物の知識は一通り頭に入れていたので、魔物の正体が一目で分かった。


 実際にレッドベアーと対峙するとかなりの圧力があった。

 けれど思っていたほど、恐怖は感じなかった。


「これもチョコのお陰なのかな……いけるか?」


「大丈夫」


 こんな時でも緊張を感じさせないチョコの声音。

 俺は【精霊剣】ブラッククロスボウを構え、レッドベアーの頭に狙いを定めた。


『GERRRRR……GUOOOOOO!!!』


 吠えたレッドベアーが、ついに俺へと突進を仕掛けてきた。

 それを見て、俺も引き金を引いて矢を射出した……その直後。


 ゴゥッ! と風を引き裂く鋭い音がした途端、レッドベアーの頭どころか上半身が消失した。

 ……否、その背後にあった木々すら抉って矢は天高くに昇っていった。


「なっ、何て威力だ……!?」


 常識はずれの光景を前に、声が上ずった。

【精霊剣】ではない元々のブラッククロスボウは当然、通常の矢を射出するだけの武器であり、ここまで突出した破壊力を叩き出せる代物じゃない。


【精霊剣】となった武器はアーティファクトの中でも上位の力を誇る【聖剣】とほぼ同等と言う話だったが、今のを見れば素直に納得できるというものだった。

 それからチョコは精霊の姿に戻り「矢を撃ったらすっきりした」とふぅと一息ついた。


「ラルド。チョコ、すごい?」


 見た目通りの無邪気さで聞いてくるチョコの頭を、俺は撫でた。


「ああ、本当にすごいぞ。【精霊剣】ブラッククロスボウは伊達じゃないな」


 そう伝えると、チョコは満足げな表情を浮かべた。

 ついでに俺も、予想外の収入に少し嬉しくなっていた。


「レッドベアーの毛皮、下半身だけとはいえ売ればそこそこ高いだろうな。それに骨も何かに使えるかも」


 魔物の毛皮や骨、それに牙に角は魔力のこもった素材として高く売れる。

 ちょうど知り合いの商人に魔物の素材を扱う人がいるので、売るのは簡単だ。


 その金で今晩は特段美味いものをマロンとチョコに食べさせてやれるなと、俺は今夜の献立を考えるのだった。


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